第2話 人生何があるか判らない

 衝撃的なコメント事件があってから、既に1ヶ月以上が過ぎた。

大胆にも元カノは、何度もコメント欄に思いを綴ってくれた。いくら他の人からは読めないと言っても、そんな使い方では運営側から苦情が来るだろうと思い、メールアドレス、携帯番号、そして現住所を送る事にした。

とのツールを使って連絡を取り合うかは、謎だったが、流石に会う勇気?度胸?は僕にな無かった。

 そして、やはり手紙だった。

あの頃のように、便箋3枚にびっちりと書いてあった。

結婚が決まって、電話した時、「おめでとう」と言って電話を切ったこと、その時の辛かった気持ちは、便箋2枚にわたって書いてあった。

そして残りの1枚には、その後の人生と近況を簡単に収めてあった。

 とにかく会いたいと書いてあったが、それは無理な相談と返事を書いた。

今自分が住んでいる場所から、会いに行くには、現実問題として距離がある為そんな旅費は工面できないし、仕事も休めない。まして、こんなに見窄らしくなった自分を見せられなかった。

 周囲の話では、彼女は地元の名士の息子と結婚をして、割と良い暮らしをして居ると聞いている。今更僕と関わらないほうが良いに決まって居る。

なのに、なぜか彼女は会いたがる。訳を聞いても、会ってくれたら話すの一点張りで譲らない。

 僕としては、正直、会ってみたい気持ちは少し位あるが、今後の僕の人生には、彼女の存在はさほど重要ではないと思っている。

多分このまま、孤独死していく人生と覚悟しているし、あまり関わってほしいとも思って居なかった。

 そして、何通かの手紙のやり取りがあったのを最後に、音信がなくなった。

少し、ホッとして居る自分に気づき、日常を取り戻して来つつあった。


 最後の手紙が届いてから、半年くらい経ったある日の日曜日の午前中に、アパートのドアがノックされた。そう、築55年の我が家にはインターホンなる現代のツールは存在しない。「だれだろう?家賃は先週払ったから大家さんでは無いだろう。それとも電気代の集金かな?」などと考えて居たが、何かのセールスだと面倒だから、居留守を決め込む事にした。

少ししてまた、遠慮がちにドアがノックされた。

せめて、覗き穴くらいついていれば良いのに、それすらも無いドアに近づき、そっと耳を凝らした。

 ドア越しに人の人の気配が有るのが分かるが、息を殺していると、小さな声で「吉田さん」と女性の声がする。

「???」

「吉田さん、私、容子です。」

「えっつ?え〜っつ?」

「いらっしゃるんでしょ?開けてくださらない?」

「い、いや、ちょっと待って、待ってください。」

予期しない来訪者に、大パニック、日曜の午前中、朝寝を決め込んでパジャマのまま布団でゴロゴロして居た僕は、どうしたらいいか判らなくて、思わず叫んだ。

「すみません、まだパジャマ姿なのでどこかで待って居て頂けませんか?1時間、いや30分でいい。駅前にラ・ガールと言う喫茶店があります。そこに行きますので、お願いします。」と言う事が精一杯だった。

「はい。それでは、そちらでお待ちしております。お見えいただけるまで待って居ますので、よろしくお願いします。」と言い、ドアの前から、女性のヒールの足音が遠ざかって行った。

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