第5話

フィレンツェの夜が深まり、街は静寂に包まれていた。香織と涼介は、サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂の前に立っていた。ステンドグラスに映し出される星座が示す場所を探し出すために、二人は大聖堂内に入った。


「ここがステンドグラスに映し出された星座の場所ね。」香織はステンドグラスを見上げながら言った。


「そうだな。この星座が指し示す場所に何か重要な手掛かりが隠されているはずだ。」涼介も同意し、二人は慎重に調査を進めた。


ステンドグラスに映し出された星座は、美しい光を放ちながら大聖堂内の特定の場所を照らしていた。その光が指し示す先には、古い石の彫刻があった。香織はその彫刻に近づき、細部を調べ始めた。


「ここに何か隠されているわ。」香織は石の彫刻の裏側を探り、そこに小さな仕掛けを見つけた。


涼介もその仕掛けに気づき、二人は慎重にそれを操作した。すると、石の彫刻がゆっくりと開き、中から古びた巻物が現れた。


「これがダ・ヴィンチの絵画に隠された暗号ね。」香織は巻物を広げ、中に記された文字を読み上げた。


```

Il veleno è nascosto nel cuore della carne.

```


「毒は肉の中心に隠されている……これは、ルカの特製トスカーナ風リブステーキに関するものだわ。」香織は顔をしかめた。


「ヴィットリオがルカを毒殺しようとしているのか。」涼介は緊張した表情で言った。


その時、大聖堂の入口から足音が聞こえてきた。香織と涼介は急いで巻物をしまい、足音の方に向かった。そこには、ヴィットリオがルカのレストランに向かっている姿があった。


「急ぎましょう、涼介。ルカの命が危ない。」香織は決意を固め、ヴィットリオを追いかけた。


ルカのレストランに戻ると、ヴィットリオがすでに厨房に入り、特製トスカーナ風リブステーキの準備をしていた。香織と涼介は静かに近づき、ヴィットリオの動きを監視した。


「今だ!」香織は機転を利かせて、ヴィットリオが毒を仕込もうとする瞬間に飛び込んだ。「ヴィットリオ、何をしているのですか?」


ヴィットリオは驚き、手に持っていた小瓶を落とした。小瓶の中には、透明な液体が入っていた。


「やはり……あなたがルカを毒殺しようとしていたのですね。」涼介が厳しい口調で言った。


ヴィットリオは一瞬動揺したが、すぐに冷静さを取り戻した。「あなたたちには関係ない。これは私の問題だ。」


「いいえ、関係あります。ルカの命を守るためにここにいるんです。」香織は毅然とした態度で答えた。


その時、ルカが厨房に入ってきた。「何が起こっているんですか?」


香織はルカに向かって、全ての経緯を説明した。「ヴィットリオがあなたを毒殺しようとしていたのです。この絵画の秘密を独占するために。」


ルカは驚きと怒りを隠せなかった。「ヴィットリオ、なぜこんなことを……」


ヴィットリオは黙り込んだが、香織と涼介の目の前では逃げられないと悟り、観念した。「私はこの絵画の秘密を解き明かし、名声を得たかっただけだ。しかし、ルカ、あなたにその名誉を奪われるのは耐えられなかった。」


その瞬間、警察が駆けつけ、ヴィットリオは逮捕された。彼の動機が絵画の秘密を独占するためであったことが明らかになった。


事件が解決した翌日、香織と涼介はフィレンツェの美しい景色を眺めながら、ルカと共にカフェでリラックスしていた。


「本当に助かりました。あなたたちがいなければ、私はどうなっていたかわかりません。」ルカは感謝の言葉を述べた。


「私たちの仕事ですから。」香織は微笑みながら答えた。


「これで安心して料理に専念できますね。」涼介も同意し、カフェラテを一口飲んだ。


フィレンツェの美しい街並みと穏やかな雰囲気の中で、香織と涼介は次の冒険に思いを馳せていた。


「次の依頼も楽しみですね。」香織が言った。


「そうだな。どんな事件が待ち受けているのか、わくわくするよ。」涼介も笑顔で答えた。


その時、香織の携帯電話が鳴った。彼女は画面を確認し、驚いた表情を浮かべた。「レベッカからのメッセージよ。彼女がエジプトのナイル川で新しい宝石の発見を手伝ってほしいと言っているわ。」


「ナイル川か……また壮大な冒険になりそうだな。」涼介は興奮を隠せない様子だった。


香織は微笑みながら頷いた。「ええ、次の目的地はナイル川ね。新しい事件が待っているわ。」


フィレンツェの夕日が二人を包み込み、新たな冒険への期待が高まった。探偵たちの新たな一日は、ナイル川での新たな謎解きと共に始まろうとしていた。


次なる事件の幕開けを予感させる夜、香織と涼介は新たな挑戦に向けて歩み始めたのだった。

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