331.冒険者になるために(2)
資料室で資料を見た私たちは早速町の外に出てみた。まずはランクが一番低い魔物を相手にする。そのランクの魔物と戦えるようになったら、ランクを上げていこうと思う。
町のすぐ近くの草原に行くと、そこにはスライムやホーンラビットが生息している。歩くとすぐにスライムを見つけることができた。
「あれがスライムです」
「あれが……思ったよりも怖くないわ」
「怖くなくて良かったです。戦いますか?」
「もちろんよ。そのために来たんだから」
ぽよんと跳ねるスライムを見ても怖気づかない。ショートソードを抜くと、ミウはスライムに近づいていった。
「突然飛び跳ねてくるかもしれませんから、気を付けてくださいね」
「分かったわ」
初めての戦闘だ、見守っていてハラハラする。ある程度まで近づくと、ミウは剣を構えた。ずるずると体を引きずるスライムとの距離を計ると、飛び出していった。
「やぁっ!」
ミウは構えた剣を振り下ろした。しっかりと間合いを詰めたお陰か、剣先は見事にスライムを捉えた。そして、急所であるスライムの核の破壊に成功する。
デロンとスライムの体が地面に広がって溶けていく。これでスライムの討伐完了だ。
「スライム討伐、おめでとうございます」
「呆気なかったわ」
「素早く間合いに入って、攻撃を仕掛けたからだと思います。躊躇なく動けたお陰で、スライムが攻撃に転じる前に倒せましたよ」
「そうなの……私でも魔物が倒せるんだ」
グッと手を握るミウ。手ごたえを感じたのだろうか、その顔は自信で満ち溢れていた。
「さぁ、スライムの核を拾ってください。それが討伐証明になり、お金になります」
「分かったわ」
ミウはスライムの核を拾い上げると、地面に置いておいた肩掛け鞄の中に入れた。
「私、どんどん魔物を倒すわ。沢山倒して、人間の恐ろしさを分からせるの」
スタンピードの復讐、なんだろうか? その目に宿った闘志はとても熱く感じた。魔物と戦う理由は人それぞれだから、口出しはできないけれど……あまり深入りして欲しくないと思う。
でも、ミウにとって魔物への復讐は生きる糧になっている。だから、無理やりそれを止めさせるわけにもいかない。上手く誘導して復讐心を和らげることができれば……。
「ねぇ、あそこにもスライムがいるんだけど……倒してもいい?」
「えっ、あぁ、いいですよ。見守ってますから、安心して行ってきてください」
考え事をしすぎた。慌てて返事をすると、ミウはスライムに近づいていく。そして、さっきと同じように剣を構えて、一振りしてスライムを討伐した。
今のところ、安心して見守っていられる。無茶な行動はしてないし、無駄に怖がったりもしていない。ちゃんと魔物に立ち向かっていけてるし、しっかりと討伐できている。
しばらくミウの討伐を見守っていたが、特に問題らしい問題は起こらなかった。逆に順調すぎて、こっちが戸惑ってしまうくらいだ。
ホーンラビットと戦った時もちゃんと魔物の動きを観察して攻撃を避けれたし、逆に攻撃を当てれた。冒険者の素質を持っているんじゃないかって思うほどに順調な滑りだしだ。
草原にいる低ランクの魔物を全て狩る勢いでミウは魔物討伐をしていった。ホーンラビットなんて、肩掛け鞄に入りきらないほど狩ったので、代わりに私のマジックバッグを使ったくらいだった。
その戦闘も夕暮れ前になる頃には終わった。スライムとホーンラビット合わせて三十体以上も倒せたんだから、結果は上々だった。
「こんなに倒せて凄いです。初めての討伐なのに、全然危なげなかったですよ」
「ううん、まだまだ。まだ倒さなくっちゃ。この草原にいる魔物を全部駆逐してやるんだ」
「でも、今日は終わりです。続きは明日やりましょう」
「だけど……あっ」
その時、ミウの体がふらついた。本人は気づいてなかったみたいだけど、体は疲れてしまっている。
「ほら、無理はしたら明日に響いてしまいます。まだ魔物を倒したいと思うのなら、今日は止めるべきです」
「私はまだやれるのに……」
「体は無理だと言ってますよ。さぁ、冒険者ギルドに寄って、宿屋に帰りましょう」
ミウの体を支えると、荷物を持って町へと戻っていく。ミウも体があまり動かなくなったのを感じたのか、今は素直に従ってくれる。でも、その目はまだ熱を帯びていた。
思い通りにいかなくてもどかしい気持ちは分かる。そんなに気張っていたら、いつかへばってしまいそうだ。今はまだ復讐することしか頭にないけれど、少しずつ普通の冒険者になれるように助力をしていかないとね。
◇
それからミウは毎日にように町の傍の草原に行ってスライムやホーンラビットを討伐していった。初めの三日間は心配でついていったが、それ以降はミウ任せになった。
それでこそ、一日目は倒れそうになるくらい戦ったが、二日目からは倒れないように気を付けて体力を温存していた。それでも、体がフラフラになるまで魔物討伐をしたのだが……。
明らかに私の時よりもハイペースで魔物討伐をしている。でも、あの時の私に比べると年齢は高いし、体つきだってしっかりしている。あの時の私以上にやれるのは当然なのかもしれない。
そんなハイペースな魔物討伐が進んでいたある日、ミウが相談してきた。
「ねぇ、そろそろゴブリンと戦ってもいいんじゃない? 私、結構スライムとかホーンラビットを倒してきたよ」
沢山のスライムとホーンラビットを倒してきたからか、自信がついてきたみたいだ。
「日に日に討伐する数は増えていますし、その分沢山戦ってきたのでしょう。でも、ランクが一つ上がるだけで魔物は強くなります。今までと同じだと思ったら痛い目に合いますよ」
「それは分かっているわ。でも、私も強くなっている。敵が弱いままだったら、私はいつまで経っても成長しないわ」
確かに、弱い敵ばかり相手をしていれば成長は鈍くなる。冒険者として強くなるためには、戦う魔物の強さも上がらなくてはいけないだろう。
私の時とは違う、ミウにはミウの合った戦い方があるはずだ。きっとミウの成長速度なら、上のランクの魔物と戦っても大丈夫かもしれない。
「分かりました。それでは、上のランクのゴブリンと戦うことにしましょう」
「ゴブリン……とうとうっ」
ミウの表情が険しくなった。どうやらゴブリンには相当な思い入れがあるみたいだ。目には憎しみが宿り、手はきつく握られている。正直、ゴブリンと戦うことに不安はある。だけど、いつかは戦わないといけない相手だ。
「ミウ、心配だから私も行きますからね」
「それでいいわ。でも、ゴブリンを倒すのは私よ」
強い目をして言ってきた。その強い復讐心を持ったままゴブリンと対峙したらどうなるんだろうか? 不測の事態が起こるかもしれない……気を付けていこう。
◇
翌日、私たちは近くの森へと向かった。私が集落を作るために偵察をしたゴブリンが沢山いたあの森だ。その森についてから、ミウの気迫がさらに上がった。
「ゴブリン、ゴブリン……どこ?」
ミウは世話しない様子でゴブリンを探し歩いた。鋭い眼光で周囲を注意深く観察し、ゴブリンの痕跡を探しているみたいだ。このままゴブリンと出会せたらどうなるんだろう……少しの不安が過った。
その時、草むらがガザガザと揺れた。すぐにミウはそちらを向き、剣を構える。すると、草むらから緑の体をしたゴブリンが出てきた。
「ギャギャッ!」
ゴブリンはこちらに気づき、距離を縮めてきている。一方、ミウの方は……ゴブリンを見て興奮で息が上がっていた。やっぱり、ゴブリンには相当な思い入れがあるみたいだ。
どう出る? 注意深くミウを見ていると――。
「許さない、ゴブリンッ! うわぁぁっ!!」
剣を乱暴に振り回してゴブリンに突進していった。
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