330.冒険者になるために(1)
「じゃあ、ミウ。まず冒険者になるために必要なこと、それは講習を受けることです」
「講習って何?」
私たちは冒険者ギルドまでやってきた。そこでやることは、冒険者初心者向けの講習を受けること。まずは冒険者がどんな存在で、どんなことをする人なのか知る必要がある。
受付に並び、自分たちの順番を待つ。すると、自分たちの順番が回ってきた。
「あら、リルちゃんじゃない。今日はどうしたの?」
「この子が冒険者になりたいんです。だから、初心者講習とかあれば受けたいんですけれど」
「もちろんあるわよ。時間は……この後一時間後にあるわ。二階の第二会議室でやるみたい。時間が来たら、その部屋に入ってもらえれば無料で受けられるわ」
「分かりました、ありがとうございます」
良かった、講習は実施しているみたいだった。私たちは受付を離れ、待合席でしばらくの間時間を潰す。
「リルも本当に冒険者なの?」
「はい、そうですよ。あ、武器とか見ます? 今、マジックバッグに入ってて……」
疑わしいような目で見てきたので、証拠の品としてマジックバッグに入れていた剣を取り出してみた。その剣を見せると、ミウの顔色が変わる。
「本当だ……じゃあ、これで魔物を倒したことがあるの?」
「もちろんありますよ。数えきれないほどの魔物を倒しました」
「そうなんだ。ねぇ、私でも魔物を倒せることができるよね」
「もちろん、できると思います。魔物を倒せるようになるためにも、講習をしっかり受けて基礎を築かなくてはいけません。他にも訓練もしなくてはいけませんし、魔物を倒すまでの道のりは近くはないですよ」
「そうなの……てっきり武器を持ったらすぐに魔物と戦えるとばかり思っていたわ」
「まぁ、できなくはないですが……」
武器を持ってすぐに魔物と戦うこともできるだろう。でも、それはかなり危ない。武器の扱い方も分からないし、どんな魔物と戦うのかも分からない。そんな状況で戦うことになったら、不利になるのはこちらの方だ。最悪、怪我だけではすまされないかもしれない。
「私、早く魔物を倒したい。あいつらに人間の怖さを思い知らせたい」
ミウは切羽詰まったような表情をした。スタンピードの影響で魔物を怖がる人は大勢いるのだが、この子は違う。魔物に対しての怒りを感じていて、恐怖を感じている素振りがない。
我慢してなきゃいいんだけど……心配だ。そんなことをしていると、講習の時間が来た。私はミウを会議室に送って待合席で時間を潰す。
それから一時間後、ミウは戻ってきた。
「お疲れ様です。講習はどうでしたか?」
「冒険者っていうのが良く分かったわ。それで、次は何をすればいいの?」
「魔物と戦うための武器を選びましょう。そのために、冒険者ギルドで講習を受けたほうがいいですね」
「また講習?」
「だって、どうやって魔物と戦ったらいいのか分からないでしょう? 私が教えてもいいのですが、はじめはちゃんとしたところで習った方がいいですよ」
連続の講習と聞いたミウはちょっと不機嫌だ。まぁ、講習は時間がかかるし、場合によってはつまらないものだからね。でも、ここはしっかりと受けてもらおう。
私たちは再び受付に行って、訓練の講習をしているか確認した。すると、冒険者の新人向けに講習をやっていることが分かった。それに申し込むと、三日間の訓練をすることに。
へー、ここでは初めから期間が決まっているんだ。場所が違うとやり方も違ってくるね。これでミウの三日間の訓練が決まった。ミウが訓練している間に私は鍛冶屋を回って、良い武器屋を探すことにしよう。
◇
三日間の訓練は滞りなく終わった。普段使わない筋肉を使ったからか筋肉痛になってしまったみたい。私の時はポーションが貰えたけど、ここでは貰えなかったみたい。だから、私は頑張ったご褒美に体力回復のポーションを渡した。
そのお陰で筋肉痛はマシになり、しっかりと訓練を受けきることができたみたい。訓練を受ける前と後じゃ、顔つきが変わってたように思える。それだけ、覚悟が固まってきたって感じかな?
「さぁ、次はなんなの?」
「次は武器選びに行くよ。それで、なんの武器にするか決まった?」
「難しいことは良く分からなかったから、剣にするわ。剣だとリルに教わることもできるからね」
意外と目ざとい部分もあった。剣の扱い方だとミウよりは知っているので、何かと教えることができる。それに武器屋で見回った時に見た武器も剣が中心だったから助かった。
見回った中で安くて一番良いショートソードを売っていたお店に立ち寄った。そこで、ミウに剣を握ってもらい感触を確かめてもらう。
「どうでしょう?」
「うん、いいわ。これにする」
「良かったです。では、会計しましょう」
合った剣を見つけることができて良かった。会計を済ませて、ショートソードを装備させてもらうことに。
「いいですね。じゃあ、次は防具でも見に行きます?」
「これでいい」
「でも、危ないですよ?」
「お金はほとんど使っちゃったから、もう何も買えないわ」
えっ、ということは武器のお金しか貯めていなかったんだ。しまった、その辺しっかりとしておくべきだった。てっきり、十分なお金が貯まったとばかり……これは確認不足だった私のせいだな。
「リルだって剣だけじゃない。だから、私でも大丈夫なはずよ」
「まぁ、それはそうですが……剣しかないのではじめは慎重にいきますよ」
「それでいいわ。私は早く魔物を倒したいもの」
「まずは私と訓練です。魔物を倒すのはその後です」
「まだ、訓練をするの? 私なら大丈夫よ。もうしっかり訓練を受けたし、魔物だって倒せるわ!」
必死の形相で訴えてきた。ミウにとってそれだけ魔物は憎しみの対象なのか分かる、分かるけどここで怪我をするようなことは避けなければいけない。
「倒せるかもしれませんが、初めてなので危険は高いです。安全に魔物を倒せるように、念入りな訓練が必要になります」
「……分かったわ。一日だけよ、訓練は」
「ミウの出来次第ですよ」
引き下がってくれたミウだったけど、その目には闘志が宿っているように見えた。このやる気があれば、訓練も少なくて済むかもしれない。
「訓練が終わったら、次は資料室に行って魔物の情報を得ますよ」
「まだ、やることがあるの!?」
下準備は念入りに、ですよ。
◇
次の日、一日中ミウの訓練を見ていた。冒険者ギルドでしっかりと訓練を受けていたお陰か、変なところはなかった。基礎を習うと習わないとでは全然違うから、講習を受けさせて正解だったな。
魔物への強い憎しみがあるから心配だったけど、その分訓練は真剣だった。一振りに気迫が籠っていて、ちゃんと周りにも注意を払っている。正直、私の最初期の頃と比べればミウのほうが冒険者への適正があるように感じられた。
その訓練を見て、魔物と戦っても大丈夫だと確信を得た。ちょっと不安なところはあるけれど、ミウならきっと乗り越えられるだろう。あとは、困った時に手を貸せばいいだけだ。
その翌日、私たちは外へ出ていく前に冒険者ギルドに寄っていった。その冒険者ギルドのボードには周辺に住む魔物の討伐料金や討伐証明の部位などが書かれていた紙が貼ってある。
ミウにその紙の説明をして、それから資料室へと入る。私の時は文字が読めなくてまずは文字の勉強からしていたけど、ミウは祖父母に文字を教えてもらっていたのでその心配はない。安心して資料を漁れる。
その資料室でやることは、魔物の生態について調べることだ。私が口で教えても良かったが、それだとミウのためにならない。ちゃんとこういう場所があって、魔物のことを調べることの重要性を知っておいて欲しかったからだ。
司書の人に希望する資料を伝えると、すぐに持ってきてもらった。その資料を持って私たちは席へとついた。
「資料を捲ると魔物の情報が載ってますから、それを読んで記憶しておいてください」
「分かったわ」
資料室ではあまり喋れないから、初めにそう言っておく。ミウは資料を捲り、順番に魔物の生態について学んでいった。スライム、ホーンラビット……周辺にいるランクの低い魔物を情報を得ていく。
次はゴブリンの項目なのだが、そのゴブリンを目の前にしたミウの動きが止まった。はじめはじっくりと読んでいるのかな? と、思ったが文字を追っている訳ではなかった。
ジッとゴブリンの絵を見ている。一体どうしたんだろう? そう思って様子を伺っていると、ミウの表情が怒りで歪む。
「ゴブリンッ……」
歯ぎしりをしてその名を呼んだ。憎々しい相手を見るような目で絵を見つめる。その体が少し震えているみたいだった。ミウとゴブリンの間に一体何があったのか、それは聞けなかった。
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