328.家の準備

 依頼された仕事の大部分が終わった。後は適度に様子を見に行くだけでいい状態だ。手が空いた私は新しい家にやってきた。


 広いリビングには何も置いていないし、寝室にも何もない。これから自分好みに物を入れていくことになるだろう、なんだかワクワクしてきた。


「まずは大きな家具から準備しよう」


 それらを入れないと、他の準備ができない。大きな家具と言ったらベッド、ダイニングテーブルとイス、食器棚、タンス、棚くらいだろう。あ、ゆっくりできるソファーも欲しいな。


 部屋を見渡してどこに何を置くかを決めていく。メジャーも持ち込み、どれくらいの大きさの家具にするか計っていった。それを紙に記入して、家具を選ぶ基準にする。


 よし、これで計測は終わりだ。じゃあ、実際に家具を見に行こう。部屋を後にすると、建物を出て大通りを進む。家具屋さんは事前にチェックしておいたから、その場所に向かうだけだ。


 人通りの多い大通りを進んでいくと、目的地の大きな建物が見えてきた。その中に入ると、広いスペースに沢山の家具が並べられている。この中からお気に入りを探すのは大変だけど、楽しそうだ。


 端にあったテーブルから一つずつ確認していく。欲しいのは二人掛けのテーブルとイスだ。一人で暮すけど、お客さんが来るかもしれないからイスはもう一脚あったほうがいいよね。いや、もう一脚あったほうがいいのかな?


 誰が来るか分からないから、大目に買っておくか……うーん、悩む。はっ、こういう時誰かと一緒だったらアドバイスを貰えたのかもしれない。ヒルデさんとかアーシアさんとかと一緒に来たほうが良かったかも。


 でも、早く家具は揃えておきたいし……うん、頑張って一人で家具を決めていこう。きっと、お気に入りがすぐに見つかるよね。


 ◇


 それから私はお店の隅々まで歩き回って、購入する家具を選んでいった。途中、これで本当に大丈夫なのか? という不安に襲われたが、そんなことを考えているといつまで経っても決められないので考えないことにした。


 一つ、また一つと購入する家具を決めていく。それを店員さんに伝えると、結構驚いた顔をしていた。まぁ、こんな子供が一人暮らしをするなんて普通は思わないよね。でも、事実だ。


 ようやく、自分で掴み取った自分だけの城。掘っ立て小屋から始まった私の人生は、ようやく普通の人と変わりない暮しをできるようにまでなった。


 私は堂々と一人暮らしをすることを店員に言うと、店員はそれ以上余計な反応を見せなかった。うん、私は一人暮らしをするんだ。


 十分な家具を購入したら結構な金額になったけど、今まで魔物討伐で稼いだお金がいっぱいあるから問題なく買えた。なんだったら、ランクアップした家具だって問題なく変える。


 家具は後日配送と組み立てをお願いして、家具店を後にした。この後の予定は魔道具店だ。前世の世界であった便利な家電グッツがないか見るため。大通りを進んでいくと、目的の魔道具店が見えてきた。


 その魔道具店は外見はとても立派にできていて、富裕層が入るような雰囲気になっている。ということは、魔道具はとても高い金額になりそうだ。でも、大丈夫! 今まで貯めてきたお金があるから!


 私は堂々とお店の中に入った。すると、すぐに店員がやってくる。


「いらっしゃいませ。今日はどのような魔道具をお探しでしょうか?」

「調理に使う魔道具はありませんか?」

「発火コンロのことですね。ございますよ、こちらになります」


 店員は私が子供でも丁寧に接待してくれる。店員が先導についていくと、棚にズラッと発火コンロが並んでいるところについた。


「こちらが発火コンロになります」

「ありがとうございます。しばらく見ていてもいいですか?」

「もちろんでございます」


 私はじっくりと発火コンロを見て回る。といっても、大体同じ形で使い方も同じのようだ。だけど、値段が違う。その差は値段の三割くらいあり、その違いが良く分からない。


「あの、値段に差があるのはなんでですか?」

「それは制作者が違うからですね。制作者が違うと、性能が変わってくるんですよ。例えばこの発火コンロは弱い火が沢山出るのに対して、この発火コンロは強い火が数個出る感じになっております」

「なるほど。じゃあ、火力を変える機能があるものはありますか?」

「もちろん、ありますよ。こちらになります」


 少し歩いた先にその発火コンロはあった。他のコンロと比べるとかなりコンパクトに仕上げられている。


「ここを押すと火が出ます。それからここのつまみを捻ると、火の大きさが変わります」

「これいいですね」

「はい、腕の良い制作者が作っております。値段は他より比べて高くなっておりますが、その分高性能になっております」


 うん、これはいいね。使い方も分かりやすいし、コンパクトで場所も取りやすい。値段は……十五万ルタか。


「じゃあ、これを二つください」

「ふ、二つでございますか?」

「はい、二つあったほうが便利なので」

「そ、そうですか……ごほん、ご購入ありがとうございます」


 もしかして、二つは買いすぎ? でも、二つあったら便利だしなー。まぁ、お金に余裕があるからいいよね! 折角の一人暮らしなんだから、不便があったら嫌だし。


「では、お会計されますか?」

「んー……食糧を保管する物はありますか?」

「もちろんございます。こちらになります」


 店員さんにいうと、すぐに場所を移動した。移動した先には箱のようなものがある。前世の冷蔵庫を思い出すような形状に期待感が膨らんだ。


「食糧を保管する箱でございます。食糧の保管には二種類の方法がありまして、一つは食糧を冷却して腐らせるのを遅らせるもの。もう一つは時間停止の魔法がかかったものでございます」


 冷蔵庫、あった! 良かったー、なかったらどんな風に食糧を保管しておけばいいのか分からなかったよ。でも、二種類か。一般的な冷蔵庫にするか、時間停止の魔法がかかったものがいいか……悩む。


 冷たい物が欲しい時には冷蔵庫は便利だけど、食糧を時間停止させて腐らせない方法も捨てがたい。あ、作った料理をそのまま保管しておけば、そこから出した時は出来立てのままになる。


 うーん、どうしよう。冷たい機能も欲しいし、時間停止の機能も欲しい。値段は……冷却機能があるものが二十万、時間停止が三十万か。よし、決めた!


「両方ください」

「りょ、両方でございますか?」

「はい、便利なので」

「そ、そうですね。二つあったほうが便利ですよね」


 マジックバッグに比べれば安いし、これくらいのお金ならすぐに取り戻せるから大丈夫! 店員さんは焦っていたけれど、在庫がなかったりするのかな? だったら、現品を貰えればいいんだけど。


 今のところ、必要な魔道具は終わりかな? 店員さんにお会計をお願いすると、丁寧に精算所まで連れてこられた。そこで支払いを済ませ、配送の手続きを済ませる。


 これで大きな買い物は終わった。お店を出ようとすると、中にいた店員さんが全員集まってきて、出口まで見送られた。


「「「ありがとうございました。またのお越しをおまちしております」」」


 こんなに丁寧にしてもらって申し訳ない。そう思いつつも、いい買い物ができて私は上機嫌で宿屋に帰っていった。

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