323.施策実行(1)

 難民を受け入れる体制を整えて、後は難民が町に来るだけとなった。難民を移動させるための幌馬車を借り、私たちは難民の村へと急いだ。久しぶりに来る難民の村は以前よりも活気があり、とても明るい印象だった。


 私は早速まとめ役の所を訪ねる。


「やぁ、リル。お陰様でみんなの協力で村が復興してきたよ」

「そうですか、良かったです」


 以前よりも明るい表情になったまとめ役、順調に復興が進んでいるようで何よりだ。少しの雑談をした後、本題を話した。


「それで今日は以前から伝えていた、難民を町に移動させたい件について相談に来ました」

「あぁ、あの話だね。みんなには今回の件を伝えてあるから、あとは希望を募るだけだよ」

「そうでしたか、助かります。では、難民たちを集めてもらってもいいですか?」

「もちろんだ」


 まとめ役は話を受けてくれると、早速動いてくれた。まとめ役が近くにいた難民に話しかけると、その難民は散らばって他の人に用件を伝える。そうやって村にいる難民に話が伝わると、村の広場に次々と難民が集まってきた。


 集まるまでしばらく待っていると、ここに集まってくる人影がいなくなる。ということは、これでみんな揃ったのかな?


「うむ、これで集まったみたいだ。話を始めてもいいか?」

「はい、お願いします」

「じゃあ、みんな集まったところで話を始める。集まってもらったのはほかでもない、以前話していた町に住む件についてだ」


 まとめ役が話始めると、ざわついていた難民たちが静かになる。


「ここにいるリルが我々の面倒を見てくれているのは知っているな。この人が先導して進めてきた件だ。じゃあ、リル後は頼む」

「はい。この度、みなさんを受け入れる態勢が整いました。みなさんは宿屋に宿泊しながら、働いてもらい、自立を目指してもらうことになります」


 話を黙って聞いていた難民たちは少しざわついた。


「宿屋に泊まれるのか?」

「てっきり、外にテントを張って暮すとでも思ったわ」

「思ったより待遇がいいな」


 宿屋で泊まれるとは思ってもなかったのか、好感触で良かった。


「宿屋の宿泊費は一定期間領主様からの支援があります。その後は自分で働いたお金で支払うことになります。また、通常宿屋で行うはずの調理、掃除、洗濯を自ら行うことになりました。手間が増えますが、その分宿泊費を抑えることができましたのでお金は貯まるのは早いと思います」


 簡単な説明をした後でも難民たちは少しざわついていただけだ。どうやら、悪い印象はないみたいで良かった。


「他にも細々とした支援がありますが基本はみなさんが働いて、宿泊費を支払い、自立に向けて働いてもらうことになります。働く場所は冒険者ギルドで求職者になったり冒険者になったりして、それぞれ希望した職につけます」


 全体に向けて説明していると、一人の難民が前に出てきた。それは気にかけていた一人の少女、ミウだった。そのミウは私に詰め寄ると切羽詰まったように話しかけてくる。


「冒険者になれるって本当!?」

「えっと……希望をすれば誰でもなれますよ」

「そうなんだ……」

「どうしましたか?」


 ミウは冒険者になれることを聞くと、少し押し黙った。何を考えているのか分からないが、ミウが口を開くのを待っていると……。


「なら、町に行く。町に行って冒険者になる!」

「冒険者にですか? ミウには辛い職業になると思いますが……」

「それでもなる! なって、魔物を倒すの!」


 そういえば、ミウの唯一の肉親だった祖父母は魔物に殺されちゃったんだっけ。その復讐のために、冒険者になるってことかな? あんまり褒められた理由じゃないけれど、私にそれを止める権利はない。


「もちろん、いいですよ。では、ミウは町行きに決定ですね。それじゃあ、他に町に行きたい人はいますか?」


 私が難民たちに話しかけると、ざわつきが一層強くなった。しばらく待っていると、数人の難民が前に出てくる。


「私、町に行きたいです」

「俺も町にいく」

「俺もだ」

「分かりました、ありがとうございます。他にいませんか? 全部で三十八人行けることになってますので、まだまだ募集してますよ」


 私が声をかけると、ざわつきが多くなる。それから一人、また一人と町に行きたい人が前に出てくる。しばらく、そんな状況が続いていくと時間はかかったが町行きの難民たちが集まった。


「では、この三十八人で決定します。宿屋に空きが出来次第また募集をしますので、今後も町行きのことを考えてくださると嬉しいです。では、話を終わります」


 なんとか町行きの難民を集めることができた。話が終わると、残る選択をした難民たちはバラバラに散っていき、町行きを決めた難民たちは私の傍に集まった。


「では、これから馬車に乗って町に向かいます。私物を持っていく人は持ってきてください。持ってきたら、あそこにいる馬車の中に乗ってくださいね」


 この村の物を残している人もいるだろうから、その物を持ってくる時間は必要だ。私がそういうと、難民たちは散らばって行った。


 ◇


 馬車は難民を乗せて村を出発した。途中野宿はしたが大きな混乱もなく、二日の道のりを経てコーバスに辿り着く。馬車は町中へと進み、夕方前に宿屋に到着した。


「ここがみなさんが泊まる宿屋です。ちょっと事情があって汚れてますが、明日にみんなで綺麗にしますので今日だけは我慢してください。寝具だけはピカピカになってるので、寝心地はいいですよ」


 そう言って、私は難民たちを宿屋の中へと移動させた。すると、老夫婦が難民を迎い入れてくれて、食堂へと案内する。私は馬車を見送った後に食堂の中へと入っていった。


 食堂の中ではどうしたらいいか分からない難民たちが突っ立っていた。状況を確認するために老夫婦に話を聞く。


「これから夕食の時間ですか?」

「そうね、もうできあがっているんだけど、配っていいのかしら?」

「難民自身に取りに来てもらいましょう」


 丁度、夕食の時間だった。私は手を叩いて注目させると、話し始める。


「じゃあ、これから夕食を配りますから、食事を取りに行ってください」


 私が指示を出すと難民たちは動き出した。厨房の近くに行って並び、老夫婦が食事をよそった食器を受け取って好きな席に座っていく。


「じゃあ、食事を取った後に今後の予定を話します。今は食事を楽しんでください」


 みんなが座ったのを確認すると、そんな言葉をかけた。難民たちは話を聞き、早速食事に手を付け始める。村で食べていたものよりも良い食事を目の前にした難民たちはみんな嬉しそうな顔をしていた。


「リルちゃんとセロさんも食べるでしょう?」

「いただいても大丈夫なんですか?」

「もちろんよ。忙しい身なんだからしっかりと食べないとね」

「ありがとうございます」


 老婆の勧めもあって、私たちは食事をいただくことになった。食事を受け取ろうと厨房の前にいると、老婆が話しかけてくる。


「こんな満席の食堂、一体いつ振りかしら。またこんな日が来るなんて……嬉しいわ」

「とっても賑やかで楽しそうですよね。これからはずっと忙しいですけれど、大丈夫ですか?」

「体が動くか心配だったけど、思ったより動いてくれたわ。体は衰えていても、動きは覚えていたみたいでね。体が自然と動くのよ」

「そうですか、それは良かったです」


 食堂を見て嬉しそうに話す老婆。ハキハキと受け答えをする様子を見ても、最初に見た頃よりも元気になっているみたいで良かった。すると、そこに食事をよそっていた店主も話に入ってくる。


「またこんな光景が見れる時が来るなんてな。彼らに負けないようにわしたちもまだ踏ん張らないとな」


 店主も嬉しそうな顔をしていった。この場は難民にとっても老夫婦にとってもいい場所なのには変わりない。この場所から再出発を図るんだ。

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