317.進む復興(2)

 気力が戻った難民は畑の復興、技術がある人は家屋の修繕や建築、女性たちは干し肉加工。それぞれが役割分担をして、活動が始まった。


 今まではスタンピードで村が荒らされただけでなく、トリスタン様の支援も行き届かず、そのせいで気落ちしてしまっていた。未来への展望が見えなくなって、難民たちは絶望していた。


 そんな時に私はやってきた。本当は私に任された仕事じゃなかったけれど、見捨てておくことができない。トリスタン様の許しを得て復興に力を注ぐことができた。


 力を注いだ結果が見え始めると、難民たちはさらに活力を取り戻していく。


「見てみろ、作物の葉が元気になっているぞ!」

「今までは萎れていたが、生きていたんだな」

「二度と倒れないように世話を続けよう!」


 私たちの地道な活動が実を結んだのか、作物は力を取り戻し始めた。作物を支えたり、テープを巻きつけたりした作物が元気を取り戻し始めたのだ。萎れていた葉はピンと広がり、しっかりと茎が治っていることが窺える。


 それを見た難民たちは大喜び、収穫が期待できるとあって作物の世話に力を注いだ。中には枯れてしまった作物はあったけれど、復活した作物が多かったためみんな喜んだ。


 畑の復興が目に見えて分かると、難民たちは気力を取り戻した。畑仕事をしたり、狩りに行ったりと精力的に活動を始めた。やはり希望があると人は前を向いて歩いて行けるようになるね。


 道具が手に入った大工やきこりも活動を始めた。きこりたちは真新しい道具で木を切り出し、加工して木材に変える。その木材を使って大工が壊れた家の修繕を始めた。


 働き出すとみんなとても生き生きして、とても嬉しそうにしていた。自分に役目があるっていうのが、生きる力になるのだろう。みんな張り切って活動を開始すると、みるみるうちに家屋が修繕されていく。これだったら、新しい家が建つのも時間の問題だ。


 大量の肉を支援物資として貰うと、女性たちは集まってそれらを干し肉に変えた。やはり食糧があるとなると、人は明るくなる。肉を加工しているところを窺うと、みんな楽しそうにお喋りをしながら手を動かしていた。


 食べる物があるってだけで安心するし、それは日々の活力にもなる。日々生きることに絶望し何にもしないでいるのと、希望を持って何かの行動をするのとでは気の持ちようが違ってくるだろう。


 これでなんとか復興の足がかりは作った、あとは難民たちそれぞれが頑張っていってもらうしかない。未来に向けて歩み出したのだから、きっと大丈夫。


 それでも、全ての人が活力を取り戻したわけではない。一部の人はスタンピードの魔物に怯えていたり、全てを失って無気力で過ごす人もいる。そういう人たちは復活まで時間がかかるだろう。


 そして、私が出会ったあの少女もまた……。あの少女が気になって、私は村の中を探した。見つけると大体一人でいて、難しい顔をしている。


 声をかけると、こちらを睨んですぐに走り去ってしまう。まともに話すことができていない。どうしたものかと、まとめ役に相談してみた。


「あぁ、その子の名前はミウだな。農村に祖父母と暮していた十三歳の女の子だったみたいだ」

「祖父母……その人たちは今どこにいるんですか?」

「どうやら、魔物に襲われて亡くなってしまったそうなんだよ。ミウは同じ村の人に連れられてここまで逃げてきたんだ」

「そんなことがあったんですね」


 ミウと言った女の子、どうやらスタンピードで肉親を亡くしてしまっていたらしい。そんな境遇だったなんて知らなかった、辛い思いをしていたんだね。


「他にも肉親を亡くした子供たちがいるんだが、その子供たちは身を寄せ合ってこの村にいる。だけど、あの子はその中には入らないんだよ」

「どうして入らないんですか?」

「魔物に祖父母を殺されたことで、魔物を恨んでいるみたいなんだ。その感情が強くて、子供たちの輪に入るよりもそっちの方を考えていたいような感じなんだよ。一人きりは不安だからどうにかしてあげたいんだけど、頑なでな」


 そっか、あの復讐っていう言葉は魔物に対しての言葉だったのか。一人で難しい顔をしているのも、魔物のことを考えているからに違いない。でも、何も力もない少女がいきなり魔物に復讐をするのは無理だ。無茶をしなければいいんだけど……。


「一人だと心配ですね。せめて輪に入ってくれればいいんですが」

「そうだな。まぁ、食事を渡せば食べてくれるし、生きていく力はあると思う。しばらくは注意して様子を見てみるよ」

「お願いします」


 今はミウのことはまとめ役に任せた方が良さそうだ。私はミウのことをお願いして、自分の仕事に取り掛かることになった。


 ◇


「そうか、村はそこまで復興したか」


 何度目かの難民の村の訪問が終わり、私はトリスタン様のところに報告に来た。報告に来たと言っても、トリスタン様に呼ばれて来た訳だけどね。


 畑や家屋の復興、支援物資の配給。それらの様子を事細かに説明をすると、トリスタン様は嬉しそうな顔をした。どことなく安堵している様子を見るに、難民の村が気がかりだったに違いない。


「畑の作物はこのままいけば七割くらいの収穫が見込めます。家屋の修繕、建築の技術を持つ人もいて復興が進んでいます。また、肉を沢山支援したことで難民の誰もが喜んでいました。以前に比べて大分活気が出てきたと思います」

「七割ぐらいか……それぐらいなら難民の村で食べる分には困らないだろう。道具不足で進まなかった家屋の修繕が進むのはいいことだ、そのまま作業に当たってもらおう。肉の支援が上手くいって良かった、あとは難民たちでやりくりをしてもらおうか」


 説明を聞いたトリスタン様は終始上機嫌だった。難民の村の現状は知っていたため、懸念材料が多かったのだろう、手を尽くせなくて不安に思っていたところがあったみたいだ。


 でも、村の復興を聞きその懸念も消えた。なんだか、雰囲気も柔らかくなったように思う。それだけ気を張っていたのだろう。少しはトリスタン様のために動けたかな?


「報告にあった通りに順調に復興をしてくれればいいが……。これからも難民の村には視察に行くのか?」

「はい、依頼された仕事が終わるまで行き来することになると思います。なので、その都度村の様子を確認しようと思います」

「うむ、頼んだぞ。これで私も少しは気が楽になりそうだ。と言っても問題は山積みなんだがな。それで、本来の依頼した仕事は進んでいるか?」

「はい、考えが大分まとまってきましたので。そろそろ実行をと考えています」


 もちろん、私は任された仕事も忘れてはいない。難民の村の復興に携わる中、どうやって難民を町民に変えるか考えてきた。


「今、決まった部分だけで構わない。内容を話せるか?」

「はい。まず、難民を町民に変えるには難民が町にいないと話になりません。私がいたところでは集落を作ってそこに住んでいましたが、コーバスの周りには魔物が出現しない場所がないため、町の外に集落を作ることができません」

「そうか、町の外に集落を作ることは不可能か。ということは、町の中に住まわせることが必要になるな」


 難民を町の中に住まわせるのは決定事項だ。次に出てくる問題は難民をどこに住まわせるか。


「難民一人一人に住まいを与えるのは費用がかかり過ぎる。それ以前に市民権がないと、そういった住宅に住まわせることができない」

「はい、おっしゃる通りです。でも、それを解消させる手を考えました」

「ほう、市民権もないのに難民を住まわせる手があると?」


 私が考えた手、それは……。


「宿屋を利用します。それも経営が困難な状態の宿屋をです」

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