316.進む復興(1)
必要な道具を揃えた私たちは手分けをして作物の処置にあたった。まずは私が見本を見せて、その後それぞれが作物の処置を始める。
支えの棒を地面に刺し、紐で括って固定をする。折れ方が酷い場合はテープを巻いて補強することも忘れない。地道な作業を繰り返していき、畑の作物が少しずつ起き上がり始めた。
その光景を私はセロさんと見ていた。
「順調そうだな。畑は広いから時間はかかるが、これだけの人が居ればやり遂げられそうだな」
「はい、多くの人が参加してくれたみたいで良かったです。それに体を動かしていれば、気分も上向きになるはずです。黙っていると、悪いことを考えてしまいがちになりますから」
「なんだか、経験者の話みたいだな」
「私もそういう時がありましたから。考えないようにするために体を動かしていたことが」
集落を出るか出まいか悩んでいた時、黙っていたら気分が落ち込むので普通に仕事をしていた。仕事をしていると悩みを考えなくて良かったから、その時だけは普通でいられた。
本当は悩みを解消するほうがいいんだけど、すぐには解消するのは無理だと思った。だから、ちょっとした時間稼ぎになればいいな。その間に悩みを解消できるように動いていこう。
あと、この村で困っているのは住居の問題だ。魔物の襲撃によって家屋が壊されたところが沢山あった。それに新しい難民が押し寄せたことで、住居が足りない状態になっている。
テントは支給されているみたいだけど、ずっとテントでなんか生活できない。だから、早く住居の修復や建築に取り掛からないといけないだろう。
この中にそれをできる人がいればいいんだけど。そういうのはまとめ役が知っていそうだから、聞いてみよう。私たちはまとめ役を探して歩き回り、作業をしているまとめ役に話しかけた。
「すいません、聞きたいことがあるんですが」
「おう、なんだ。なんでも言ってくれ」
「住居の修復は始めないんですか? 修復すれば住める家屋もあると思うんですけれど……」
「あぁ、それか。今回のスタンピードで魔物と戦おうとした人たちがいて、その人たちが道具を持って魔物と戦ったみたいなんだ。その時、道具を破損してしまって今は道具がない状態なんだ」
「じゃあ、作れる人はいるってことですか?」
「あぁ、いる。今、そいつらを集めてくるな」
まとめ役はそう言って、人を探しに歩き始めた。そうか、この村には大工みたいな人がいるんだ。今までは道具がなかったから修復できなかっただけで、道具を手に入れられればなんとかなりそうだ。
しばらく待っていると、まとめ役が四人の男性を連れてきた。
「待たせたな、彼らが担当している。家を造るのが二人、森に行って木を切るのが二人だ」
「俺たちはできればすぐに直したいと思っているんだが、道具がなくて困っていたんだ」
「もしかして、あんたが道具を用意してくれるのか?」
「現状が分からなかったためすぐには動けませんでしたが、領主様に言って道具を用意してもらいます」
「本当か!? それなら、家の修復ができる」
「家を建てることもできるな」
私が道具を持ってくるのを約束するとその男性たちは喜んだ。どうやら、道具がなくて何もできない状況がとても歯がゆく思っていたらしい。
「では、道具を持ってくるのでその時は家屋の修理と建築をお願いします」
「任せておけ、道具さえあればこの村を復興することができる」
「新しく来た奴らの家も造らないとな」
「そうです、新しく来た人の中に家を造れる人とか木を切ることができる人を募集したほうがいいと思います。仕事は沢山ありますから、できそうな人がいれば募ったほうがいいでしょう」
「みんな気落ちしていてそんな場合じゃなかったが、少し復活した今なら行動ができそうだ。この村の復興のためにも、他に人を集めてくる」
未来への展望が見えてきた今、みんな前を向いて歩き出してくれた。気落ちして何も考えられなかった頃から復興に向けて考えることができはじめている。これはいい傾向だ、このままみんなの力を借りて復興を成し遂げたい。
◇
すぐにコーバスに戻った私はトリスタン様に事情を説明し支援を求めた。すると、道具を買う予算を当ててくれた。これで道具を揃えることができる、私はセロと一緒に道具を買いに行った。
そこで私は以前行商の旅で経験した値切りをやってみせる。あの時は値切りをされる立場だったけど、今回は逆だ。少しでもいい道具を、少しでも多くの道具を手に入れるために沢山値切ってみせた。
以前の経験があったから、値切りは大成功。いい道具を手に入れることができたし、種類も豊富に手に入れることができた。これだけあれば、みんなが喜んでくれる。
道具を揃えて難民の村に出発しようとすると、トリスタン様から難民の村用の肉を買ったと報告が入った。スタンピードで大量に手に入ったオーク肉が馬車二台分も積まれていてビックリした。
どうやら、元から安い上に悪くなる直前だったらしく、安いお金で大量に手に入れることができたみたいだ。これで難民たちはお腹も膨れるし、残った肉を使って干し肉を作って今後の蓄えにもすることができる。
私は意気揚々とコーバスを出発して難民の村についた。いつもの馬車が来た事、見慣れない荷馬車が二台も来たこともあり、村に入ると難民たちの注目を集めてしまう。
みんなが注目する中、いつものところに馬車を止めるとまずはまとめ役のところに向かった。まとめ役は畑にいて、今も作物の復興に手を貸していた。
「まとめ役さん、戻りました。お約束通り、道具を持ってきました」
「おお、本当か!」
「それに領主様からの支援で肉を大量に運び入れました。干し肉作りを手伝ってくれる人を集めてくれませんか?」
「なんだって、領主様からの支援だって。それはありがたい、支援が滞っていたからみんなが喜ぶ。待ってろ、今人を集める」
道具と肉のことを話すとまとめ役は大いに喜んだ。そして、すぐに動き出して人を集めてくれた。集まったのは女性たちと数人の男性だ。女性は干し肉づくり、男性たちは大工ときこりたちだった。以前より人数が増えているところを見ると、どうやら新しい難民に仕事ができる人が混じっていたみたいだ。
必要な人数が集まると、馬車が止まっているところまで戻ってきた。そして、道具を大工やきこりに渡す。
「おお、こんなにいい道具をくれるのか!」
「今まで使っていた道具よりもいいものだ、助かる!」
「必要なものを揃えたつもりですが、足りないものはありますか?」
「いや、これだけあれば十分だ。木も切れるし、家屋の修繕や建築だってできる」
「ようやく、俺たちの出番が来たって感じだ。よし、今すぐにでも取り掛かろう。本当にありがとう!」
男性たちは喜んで道具を受け取り、村の方へ歩いて行ってしまった。これで住居関係の復興も進んでくれるだろう、頑張ってくれると嬉しい。
その男性を見送った後は、荷車に積んである大量の肉を女性たちに見せた。すると、歓声が上がる。
「まぁ、こんなにお肉があるのね!」
「これだけあれば、しばらくは大丈夫そうね」
「早く干し肉に変えちゃいましょう」
目の前の大量の肉を見て喜んだ女性たち、食糧事情が良くなるとみんなどことなくホッとした表情になっている。支援が滞っていたから不安だったよね、でもこれでしばらくは大丈夫そうだ。
「あの……この馬車を作業場の近くに移動できないかしら」
「もちろん、大丈夫ですよ。ここじゃあ、作業できませんものね」
「ありがとう!」
干し肉に加工するために馬車を動かし始めた。先頭を女性たちが歩き、その後をゆっくりと馬車が追っていく。すると、一緒に来ていたまとめ役が話しかけてきた。
「あんなに沢山の肉を貰えるとは思ってもみなかった。リルが来てから、みるみる村が良くなってきた。礼を言う、本当にありがとう」
「いえ、そんな……私は領主様のお望みの通りに動いているだけの代役です」
「それでも、リルが色々と働きかけてくれたお陰だろう。そのお陰で復興が進んでいった、みんなが前を向き出して歩き始めた……リルのお陰だ」
褒められるとなんだか照れ臭い。でも、私が働きかけてからこの村は少しずつ良くなっていっているのが分かる。だから、このままの調子で力を尽くしてあげたい。元難民として、みんなの力になってあげたいんだ。
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