314.畑の復興(1)
作物を立て直す手段を得て、私はまた難民の村にやってきた。まず、話すべきはまとめ役の人だ。すぐにまとめ役の人と出会い、話の場を設けた。
「えっ、作物を立て直す?」
「はい、今回のスタンピードで被害にあった農家の人たちも実践していることみたいです」
「そんなことが本当に……」
まとめ役は驚いた顔をして話を聞いていた。
「どうやら作物は茎が繋がっていれば、作物が持つ本来の力で立ち直るみたいです」
「あれだけ踏み荒らされた作物が……本当に復活するのか?」
「全てが復活するわけではなさそうです。ですが、作物が持っている力を信じて立て直しをしませんか?」
茎の状態次第では復活が無理な作物も出てくるだろう、だけどそれは全てではない。一部でも復活できる作物があれば収穫が見込めるということだ。そうすれば、今後の食糧不足を補えるだけの作物が取れるかもしれない。
まとめ役は難しい顔をして考えていた。今の話を信じていいのか分からない、そんな顔をしていた。専門知識がないから判断は難しいが、農家の人たちが実践しているんだったら間違いないはずだ。
「どうか、他の難民に声をかけて畑の復興に手をかけませんか?」
「……そうだな、少しの望みがあるんだったらそれにかけてみよう。まずは以前からこの村に住んでいる者たちに声をかけようと思う。その難民たちは畑の仕事をしていたし、きっと行動してくれるはずだ」
「この村の為にもお願いします」
まとめ役の説得が成功し、畑の復興を手がけることになった。
◇
まとめ役は村を歩き回り、以前からこの村に住んでいる人たちを集めた。集められた人はあまり覇気がなく、やる気が見られないように見える。きっと丹精込めて育ててきた畑が踏み荒らされて、やる気が折れてしまったのだろう。
でも、まとめ役の話に耳を傾ける気力は残っていたみたいだ。みんな、まとめ役の指示に従って踏み荒らされた畑の前までやってきた。目の前に広がった惨状を見て、その難民たちは苦悶の表情をした。
見たくない現実を見せられて辛い思いをしているみたいだ。だけど、現実から目を逸らしていたらいつまで経っても復興できない。ここは気を強く持って欲しい。
すると、まとめ役が他の難民も連れてきた。その難民たちは畑で作物を復興しようとしていた人たちだ。その人たちはみんな嬉しそうな顔をしてこの場にやってきた。
「人が集まったようなので説明を始める。スタンピードで畑が踏み荒らされてしまった。それはここの村だけじゃなく、他の村でも同様に畑を荒らされたみたいだ」
「それじゃあ、他の村での収穫も望めないってことか?」
「えっ、食べる物がなくなるってこと?」
「他の村まで食べる物がなくなるんじゃ、この村はもうおしまいだ」
まとめ役が他の村の現状を伝えると、みんな頭をかかえた。ここで作物が採れなくても、他の村に収穫があればきっと食べる物を回してくれる。そんな考えが見事に打ち破られたのだ。
みんな悲壮感が強い。スタンピードを受けた影響もあるようだが、前向きな考えをしている人は少なかった。それだけ、今回の件が心に響いていたのだろう。お互いに励まし合うこともできないまま、ここまで気落ちしてしまった。
「だが、こんなに踏み荒らされた畑でも復興はできるらしい。ここにいる領主様の代役として来られた、リルがその方法を携えてやってきたんだ」
「領主様の代役だって? こんな子供が本当に?」
「領主様は私たちを見捨てたんじゃないの?」
「俺たちは見捨てられたんじゃなかったんだ……」
トリスタン様の話になると、みんなの目の色が変わった。どうやら、見捨てられたと思っていたみたいで、悲壮感が強くなってしまっていたらしい。見捨てられていないことを知ると、みんな喜んでいた。
「ご紹介にあずかりました、リルです。領主様はこの村を見捨ててません。それどころか、忙しい合間を縫ってこの村のことを考えてくださっています。今回の件も領主様が率先して動いてくださったから実現しました」
「領主様がこの村のために?」
「じゃあ、今回の畑の復興も領主様が率先して動いてくれていたのか」
「私たちは見捨てられたんじゃないのね」
以前からこの村に住んでいる人にとって領主様は尊敬に値する人物だったらしい。明らかに態度を変えた様子を見て、とても安心した。心のよりどころを失っていたから、気落ちしていたんだ。
「踏み荒らされた作物は手当をすれば復活します。全ては無理かもしれませんが、収穫が全部なくなるよりはマシです。農家の人たちも今懸命に畑を復興させて、少しでも収穫ができるように諦めていません」
「ほら、俺の言った通りだ! まだ、作物は生きているんだよ」
「はい、作物はまだ生きています。その手助けをすれば、きっと収穫が望めるようになるでしょう。そしたら、食べる物に困ることはありません」
トリスタン様のこと、食糧不足のこと、両方の不安が解消される。それが目の前に現れた時、難民たちはざわつき始めた。以前と同じような生活は今は無理かもしれないが、食べる物に困らなくなるのは嬉しそうだ。
「こうしている間にも作物はダメになっていきます。早く処置をして、畑を復興させませんか? どうか、お願いします。みんなで力を合わせましょう」
頭を深々と下げて難民にお願いをした。ざわつき始めた難民だったが、その中である人たちが立ち上がった。それは、諦めずに畑を復興させようとしていた人たちだ。
「この人のいう通り、早くしないと作物がダメになっちまう。みんなの力を合わせて、作物を助けよう!」
「作物はまだ生きているわ。踏み荒らされたって、まだ生きているんだから。諦めるのにはまだ早いわ」
「みんなでまた畑仕事をしよう。以前と変わらない生活を取り戻すんだ!」
その人たちは声を上げて他の難民に訴えかけた。その言葉は他の難民たちに少しずつ浸透していく。すると、声が聞こえてきた。
「……私はやるわ。このままいたって何も変わらないもの」
「俺もだ。あそこまで育てた畑が復活するって聞いて、黙って見てられない」
「みんな、やろう。もう一度、畑を復活させるんだ」
一人ずつ声を上げ始めると、自分もと次々と声が上がった。それは伝染していくように広がり、大多数の人が賛成の声を上げた。先ほどまで覇気がなかったのが嘘のようだ。
その光景を見ていたまとめ役は驚いた顔をしたあと、嬉しそうに破顔した。
「お前ら……良かった、気力が戻ったんだな」
「良かったですね。みんなが立ち直って」
「あぁ、あんたのおかげだ。あんたが色々と領主様に掛け合ってくれたんだろう? 本当にありがとう、あんたは命の恩人だ」
まとめ役に両手を掴まれて、強く握られた。この流れはとてもいい。この流れを他のところにも持っていきたい。そう、新しく来た人も巻き込むべきだと思った。
「まとめ役さん、新しく来た人も巻き込みましょう」
「人手が足りないからか?」
「それもありますが、元気は伝染します。他のみんなにも元気になって欲しいので、一緒に元気になってもらいましょう」
「そうだな、動いている方が気がまぎれるかもしれない。よし、やろう」
やる気の溢れた難民たちを見て、この元気が他の難民たちにも広がれば嬉しい。私が集落でそうだったように、ここでもそれができればきっと素敵だと思う。
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