313.解決策
農家からの返信を待っている間に自分の仕事を進めることにした。難民を町民に変えるにはどうしたらいいか、考える。
まず、町民に変えるには市民権を買わなくてはいけない。コーバスの市民権は五十万ルタするらしく、難民それぞれに稼いでもらう必要がある。
じゃあ、難民をどうやって稼がせるかということなんだけど、これは私と同じやり方をしてもらおうと思っている。冒険者ギルドに登録して求職者または冒険者になって仕事をして日銭を稼ぐことが必要だ。
ここまでは簡単に考えがまとまった。だけど、ここからが私を悩ませている。コーバスで働くには、コーバスに通わなくてはいけない。今の難民の村にいたままでは距離がありすぎて働けないからだ。
だから、難民たちをコーバスに住まわせるか、その近くまで移住して貰わなくてはいけない。そこで、私は考えたのは町の外に難民の集落を作ることだ。そう、私がやっていた方法をそのまま使うのがいいと考えた。
外に作るには魔物がいない適切な場所が必要で、まずは下調べをしなくてはいけない。難民が住むのに丁度いい土地を探すため、私は町の外に行き偵察を始めた。
まずはコーバスを守る外壁近く。そこをグルっと一周してみることにした。コーバスの外周は草原になっていて、起伏がない。簡易的な家を建てるのに問題がないように見える。
だけど、そこには小さな魔物がいた。スライムやホーンラビット、初めて見る植物モンスターの足かけ草。細長い形をしていて、近づけば足に蔦を絡ませて、根っこ近くにある細い針みたいなもので獲物の体液を吸うモンスターらしい。
こんなモンスターもいるんだ、と目新しいものを見てちょっとだけ気分が上がった。でも、人の力で解けるしそんなに脅威ではないかも。これが大きくなったら危ないかもしれないけれどね。
外周を一周して見つけたモンスターはそれぐらいだ。脅威になるモンスターじゃないけれど、やはり住むならモンスターがいない場所がいいだろう。コーバスの外周は住むのに適さないと判断した。
次の偵察は森だった。コーバスに一番近い森で、徒歩一時間も掛からない場所にある。これならば、以前の集落と似たような環境になるかもしれない。期待を膨らませて森の中に入った。
そこで待っていたのは、ゴブリンの襲来だ。次から次へと襲ってくるゴブリンを軽く蹴散らし、森の中を散策する。だけど、ゆっくり見る時間はない。とにかく、ゴブリンが沢山襲ってくるのだ。
剣と魔法でゴブリンをある程度倒した時に考えた、この場所は住むのに適さない。こんなにゴブリンがいたんじゃ安心して暮せないし、暮したくないだろう。森に住む案は却下して、私は森を出た。
最後にコーバスから離れた場所にある平原の偵察を始めた。広い土地に平原というわりにはちょっとした起伏のある場所。ここなら広いし、住む場所にも困らなそう。
そう思っていた時期があった。平原を進んで行くと、ちらほらと魔物の姿があった。Dランクのブラックカウという牛の魔物で、頭に立派な角が生えている。そのブラックカウが悠々と平原を行き来し、呑気に草を食べている。
良く見るとゴブリンも少なからずいて、集団になってブラックカウと戦っている光景が見えてきた。魔物同士が戦うなんて珍しい、きっとゴブリンは腹が空いているからブラックカウを狙っているんだろうな。
長閑な平原に繰り広げられる血肉の争い。やっぱり、塀の外で人が住むのは難しすぎる。魔物がいない場所は少ないし、魔物がいる場所にはしっかりと塀のある町があった。
私は塀の外に集落を作ることを諦めた。でも、これで難民をどこに移住させるかはっきりと決まった。コーバスの中で生活させるしかない。そうと決まれば、どうやってコーバスの中で生活させるか考えよう。
◇
外の偵察から戻ると、セロが話しかけてきた。
「丁度良かった、リルに手紙が届いていたぞ」
「もしかして……」
「あぁ、リルが手紙を出した農家からだ」
待ちに待った返事が来た! 私は手紙を受け取ると、部屋の席に座り中身を確認する。その手紙の内容は私が欲していた内容だった。
まずは簡単な挨拶文とスタンピードが大変だったと近状が書かれている。そして、次に書かれていた内容は畑の現状だった。お世話になった村では少数の魔物が来て暴れたらしい。
畑は荒らされたが、それほど範囲は広くないみたいだった。被害が少なくて良かった、そう思って手紙を読んでいると、次に書かれていた内容に興味を引かれた。
踏み荒らされた作物を生育できるものとできないものに分けている、ということだ。手紙の内容によると踏まれただけの作物は茎がまだ繋がっているので生育はできるらしく、必要な処置をしたらまた生育するらしい。
だから、踏み荒らされたからといって諦めないで、作物は強いからきっと大丈夫だ。そんな言葉で締めくくられていた。優しい言葉に胸がジンと熱くなる。
「なんて書いてあったんだ?」
「農家の人たちも畑を踏み荒らされたけど、それだけだったら作物がまだ生きている状態なので大丈夫とのことです。だから、難民の村の作物も復活できるかもしれません」
「そうか、良かったな。それが本当ならみんな助かるだろう」
「はい」
早く難民の村に行って、このことを伝えないと。そう思っていると、扉がノックされた。そこから現れたのは執事さんだ。
「リル様、お忙しい中失礼します。伯爵様がお呼びでございます」
「私をですか?」
「なんでも、農業に関することだとかで」
「!? 分かりました、いきます」
私は執事さんに連れられて、トリスタン様の執務室へと急いだ。
◇
「良く来てくれた。立ったままで聞いてくれるか?」
「はい、大丈夫です」
トリスタン様の執務室に呼ばれた私は、執務机の前に立たされて話をされる。
「農家の今の情報が手に入った。スタンピードによって畑は踏み荒らされた、その情報は前からも入っていた。だが、その後の情報が入ってこなかった。それで、今回新たに畑がどうなったのか情報を収集してみた。そしたら、農家は畑の復興に手をかけていたことが分かった」
「そうでしたか。私のところにも手紙が届き、その農家でも畑の復興に力を注いでいると書かれてありました」
「どうやら、茎の損傷具合が少ない作物は生育できるらしい。農家は生育できる作物を立て直しているところだそうだ」
「そうみたいですね。私の手紙にもそう書いてありました」
「どうやら、私は早とちりをしてしまったみたいだ。畑は踏み荒らされてそれでおしまい、という訳ではなく再び立て直すこともできるのだと」
私も専門の知識がないから分からなかった。踏み荒らされた作物はそれでおしまいだと思っていたけど、そうじゃなかった。また立て直すことができる、一つの希望が見えてきた。
「今後、どれだけの作物が立て直せるかによって領地経営の仕方も変わってくる。私は急いで立て直された作物がどれだけになるか調べ直さなければならない。難民の村のことは任せるが、いいか?」
「はい、お任せください。この情報を難民の村に持っていって、実行します」
「あぁ、そうしてくれると助かる。もしかしたら、食糧危機を乗り越えられるかもしれない。大変かと思うが、作物の立て直しを図ってくれ」
「はい」
改めて畑の立て直しを頼まれた。トリスタン様もこれからもっと忙しくなるだろうし、迷惑はかけられない。私がしっかりと難民を導いていくんだ。そうと決まれば、難民の村へ出発だ!
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