304.突然の依頼(2)
突然舞い込んできた領主様の依頼。それを目の前にして私は固まってしまった。
「リルちゃん、大丈夫?」
「は、はい……大丈夫です。でも、どうして私なんかに依頼をしたんでしょう? どこで私を知ったのか、見当も付かなくて」
「それなら、おかしいところはないわ。今までリルちゃんは領主様のクエストをこなしていたでしょ? その結果報告を上げていたから、そこでリルちゃんを知ったのよ」
えっ、領主様のクエストって事後に報告されるものだったの? 今まで領主様のクエストは二つ受けてあるし、スタンピードも参加した。それだけの活躍で領主様に私が認知されたってこと?
「今までのリルちゃんの活躍は目覚ましいものだったわ。12、3歳の少女が特別な魔物を倒したり、スタンピードに参加して強敵を打ち倒したりしたわ。他の人たちに比べて、目立つと思うのよ」
「私ってそんなに目立ってましたっけ?」
「そうよ、目立ってたわよ」
「な、なんだか恥ずかしいです」
私が思った以上に活躍し目立っていたみたいだ。それを自覚するとなんだか恥ずかしくなってくる。必死になってたから、周りからどういう目で見られていたかなんて気にしてなかったな。
「リルちゃんの活躍は領主様まで届いていた、それくらい凄い冒険者なんだから。だから、胸を張っていいと思うわ」
「自分では分かりませんが、アーシアさんがいうんだったらそうなのかもしれません」
「もう、そこまで謙虚にならなくてもいいのに。まぁ、それがリルちゃんのいいところでもあるわね」
くすり、とアーシアさんが笑った。そして、その笑顔のまま言葉を続ける。
「でも、良かったわね」
「えっ?」
「だって、リルちゃんは領主様に感謝を伝えたくてここまできたんでしょ? 念願が叶うじゃない」
「あっ……」
そうだ、私がコーバスに来た理由は領主様に感謝を伝えたかったからだ。難民の時に生きながらえたのは、領主様からの支援があったから、ここに今こうしていられるのは領主様のお陰なんだ。
アーシアさんに言われてそれに気づくと、体の奥から喜びが溢れてくる。私、とうとうここまできたんだ。領主様に会えるくらいまで名の知れた冒険者に成り上がったんだ。
はじめは何もなかった難民だった。それから少しずつ仕事をして、やれることを増やして、次に繋げていく。そうやって繋いだ先には大きな仕事が待っていて、それを頑張ってこなした。
私は自分の力でここまできた。ただ毎日をコツコツと仕事をして、その日のやるべきことをこなしていく。その繰り返しをして、自分の評価に繋げていった結果がこれだ。
何もなかった難民から、名の知れた冒険者になった。それがどうしようもなく嬉しくて、笑顔が零れる。
「私……いつの間にか凄い冒険者になれたんですね」
「そうよ。はじめはただの少女冒険者だと思っていたのに、その少女冒険者は少しずつ実績を積んでここまできたの。本当に凄いことだわ、おめでとうリルちゃん」
「……はい!」
ここまでこれたんだ、自信を持とう。ようやく、気持ちが落ち着いてきた頃にアーシアさんは話を進める。
「それでね、三日後にこの手紙を持って領主様の屋敷に行ってほしいの」
「話はそれだけですか?」
「そうね、私たちには詳しい話の内容が伝わってないの。どうやら、屋敷で詳しい話をするみたいね」
「じゃあ、ここではどんな仕事が任せられるか分からない、ということですか」
もしかして、あまり外には漏れさせたくない内容かもしれない。そんな重要な仕事を任せられるなんて、ちょっと怖いな。もし、私には難しい仕事だったらどうしよう。
「なんだか不安になってきました」
「そうね、仕事の内容が分かれば心構えをしてから訪ねることができるからね。こればかりはどうしようもないから、向こうで話をするまで待たなきゃいけないわ」
「私にできる仕事でしょうか?」
「大丈夫よ。領主様ができない仕事を振るわけないじゃない。きっと、リルちゃんにもできる仕事よ」
私にできる仕事……とにかく色んな仕事を経験したから、どれか一つでも役に立てばいいな。よし、悩むのは止めだ。きっと大丈夫だから、強い気持ちを持って屋敷を訪ねよう。
「あっ、貴族の屋敷を訪ねるんですよね。恰好とか気を付けたほうがいいですか?」
「冒険者として呼ばれたんだから、冒険者の恰好をしておけばいいと思うわ」
「それもそうですね」
後、気になるのはないかな? よし、気を強く持ったしこれでなんとかなりそう。
「それじゃあ、話は以上よ。もし、何か聞きたいことがあったらいつでも相談しに来てね」
「はい、ありがとうございます」
話し合いは終わった。それにしても、私が領主様に呼ばれる日が来るなんて思ってもみなかったから本当にビックリだ。失礼がないようにしておかないと。
◇
それから三日が経ち、領主様の屋敷を訪ねる日が来た。その日は朝からシャワーを浴びて身ぎれいにし、昨日の内に綺麗に洗濯した冒険者の服に着替えた。
それから宿屋を出て、歩いて領主様の屋敷へと向かう。このコーバスに来た時は外から見るだけだったけど、今日はその中に入る日だ。気をしっかり持っても、緊張はしてくる。
そして、とうとう領主様の屋敷の前に辿り着いた。高い塀に門があり、塀の内側は背の高い木が生えていて中の様子は分からない。すると、門の横に立っていた門兵が話しかけてきた。
「何の用だ」
「今日、ここを訪ねるように言われた冒険者です。これがその手紙です」
「ふむ、拝見しよう」
門兵に手紙を渡すと中身を確認する。
「Bランクの冒険者、リル殿だな。話は聞いている、入ってもよし」
「ありがとうございます」
「屋敷の出入口までは私が付き添おう」
「門を開けるぞ」
門兵によって大きな門が開かれると、もう一人の門兵が付き添ってくれる。
「よし、行くぞ」
「はい」
門兵は私を先導して、屋敷までの道のりを歩いていった。その道中、門兵の人に話しかけられる。
「こんな小さい子が呼ばれるなんて凄いな。どんな活躍をしたんだ?」
「色んなことをしました。特別な魔物を倒したり、スタンピードに参加したり」
「そんな年齢で危険なことをやっていたのか……」
私の話を聞いて門兵の人は驚いていた。やっぱり、この年齢でそういうことで活躍する人はあまりいないから驚かれちゃうよね。
「そうそう、領主様はとても気のいい人だけど、失礼がないようにな」
「はい。気を付けようと思っているんですが、何をどうすればいいのか分からなくて」
「何、普通にしていたらいい。きっとそれで大丈夫だ」
普通か、普通に接して失礼がないのかな? どんな風に接しようかと考えていると、門兵が立ち止まった。
「ここが領主様がいる屋敷だ」
「わぁ、大きい」
門兵の言葉に私は顔を上げた。すると、目の前には大きな建物が見えた。四階建ての建物で壁は白く、屋根は青い。綺麗な窓がズラッと並んでいて、みんなとても綺麗だ。
「こっちだ」
門兵の人に促されて屋敷に近づく。屋敷の出入口の扉も大きくて、人が数人すれ違えるほどだ。その扉を門兵が叩く、しばらくすると中からメイドが現れた。
「何か用ですか?」
「今日、領主様に面会される冒険者のリル殿をお連れした」
「まぁ、そうですか。そちらの方がリル様ですね」
「は、はい」
「では、後はこちらで対応します」
「よろしく頼む」
メイドと門兵がやり取りすると、門兵は来た道を戻っていき、メイドは扉を開けて私を中まで通してくれた。
「お話は伺っております、Bランクのリル様で間違いないですね」
「はい。あ、こちらが手紙になります」
「はい、確かに。では、お部屋へご案内いたします」
そういうとメイドは歩き出し、私はその後を追った。
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