302.家探し(3)

「これから行く物件はどんなところだ?」

「三階建ての家ですね。その中の一室が希望する物件になります」

「三階建ての家か……確か私の家から徒歩で四十五分くらいかかるところだったな」

「ヒルデさんの家からちょっと遠いですが、それくらいの距離なら許容範囲かなっと思いまして」


 地図を見ながら通りを進んでいく。通りを進んでいる時は周囲に建っている建物も確認する。自分の住むかもしれない家の近くにどんなお店があるのか事前に把握しておきたいからだ。


「この周辺は住宅地が多いな」

「そうですね、お店は個人商店が多いみたいです」

「大通りに比べたら賑やかじゃないが、人通りはそれなりにあるから安心だな。人通りが少ないとリルを歩かせるのに心配になる」

「もう、私はそこまで子供じゃないですよ」


 目的地が近い場所には住宅地が立ち並び、その間に個人商店がポツポツと建っている。普段使い食料品とか買えるお店もちゃんとあるみたいだ。品揃えは……ちょっと少ないかな。


「あ、見えてきました。あの家らしいです」

「ほう、あの家か。新しい方じゃないか?」

「そうですね、外観は綺麗ですね」


 通りを歩いていると、目的の建物が見えてきた。近くに寄って観察してみると、建物自体は新しいものらしい。とても綺麗な状態を保っているようだ。


 その建物の入口に行き、扉を開く。すると階段があり、上へと繋がっているようだ。


「希望する階は何階だ?」

「三階の右です」

「よし、行こう」


 私たちは階段を昇り、三階を目指す。共用部分を見てみると、汚いところはなく綺麗な状態を保っているみたいだ。これだけ綺麗なら住みたい気持ちが膨れてきた。


「ここだな」

「開けますね」


 鍵を開けて、扉を引いた。まず玄関が飛び込んできた。狭くもなく、広くもなく、丁度いい大きさだ。


「まぁ、玄関はこんなもんだろう」

「問題は中ですね」


 私たちは靴のまま家の中に入っていく。玄関を抜けた先には扉があり、それを開けた。すると、その先はリビングになっていた。一辺が八メートルくらいあり、広々とした空間が広がっていた。


「ほう、一人暮らし用にしては広いほうだな」

「これくらいの広いほうがいいです。ダイニングテーブルを置いて、ソファーを置いたりしたらいい感じじゃないですか?」

「そうだな、リルにとっては丁度いいか。同じ部屋に台所もついているな」


 広い部屋の端には台所がついていて、キッチンカウンターや流し台まである。


「確か水は魔道具で出るんだったな」

「はい。水も流れて出ていくらしいです」

「使い勝手は良さそうだ」


 前世で使っていたように台所が使えるのが嬉しい。これなら問題なく使えそうだ。リビングには大きな窓があり、そこにはベランダがあるみたい。そちらの方へ行き、窓を開ける。


「このベランダで洗濯物が干せそうですね」


 それほど広くはないが、狭くもない。一人分の洗濯物を干すには十分なスペースが確保されていた。


「これくらいのスペースがあれば問題なさそうだな。洗濯物を洗うには、ここから見える井戸のところで洗うみたいだ」

「あそこで洗うんですね。多分共用スペースなんで、使う時は気を付けないといけませんね。洗濯物を自動で洗う魔道具っていうものはありませんか?」

「それは聞いたことがないな。もしかしたら、探したらあるかもな」


 洗濯機があれば洗濯するのが楽になるんだけど、聞いたことがないかー。というか、どんなものが魔道具にあるのか知らないな。今度、魔道具店に行って商品を見ておくのも悪くない。


「次は寝室だな」


 そう言って、部屋の壁にある扉を開いてみる。寝室の広さはリビングの半分以下だった。


「こっちは狭いな。まぁ、純粋に寝るだけの部屋になるということか。ベッドを置いて、タンスやクローゼットを置けばいっぱいだな」

「できれば小さな机も置きたいんですが、この広さで入るでしょうか?」

「ギリギリ入りそうだが、そうなると大事な寝室が圧迫感のある部屋になってしまうな」


 もうちょっと寝室は広い方がいいけれど、これは仕方がないか。部屋は大体みたし、最後に本命の風呂場を見に行こう。寝室を出て、隣に扉があるのでそこを開けてみる。


 そこは小部屋になっていて、きっとここは脱衣所になるんだろうな。その小部屋の壁にも扉があり、そこを開けてみる。すると浴槽とシャワーが見えた。


「思ったより小さいですね」

「これでは足を伸ばして入れないな」


 浴槽は真四角の形をしていて、入るには膝を抱えて入るしかない。風呂付の物件は少なかったから、あるだけありがたいんだけど……これはちょっとな。


「お風呂は残念でした」

「じゃあ、ここの物件はやめにするか?」

「この後見る物件次第でしょうね」

「そうか、なら次の物件を見に行こう」


 この物件は一通り見終わった。早く次の物件に行こう。


 ◇


「次の物件は大通り近くになりますね。ヒルデさんの家みたいに大通りに面している家が理想なんですが」

「私の家は中々いいと思うぞ。だけど、リルが欲しがった風呂はないがな」


 次の家に向かって歩いていく。次は大通りに近い家になっていて、通りはとても賑やかだ。お店も大小沢山あり、ここだと買い物に困ることはなさそうだ。


「五階建ての建物……きっとあれですよ」


 大通りから普通の通りに移り、すぐに目的の建物を見つけた。五階建ての建物だ。建物の外観は色の付いたレンガを使用していて、カラフルで見栄えがいい。大通りが近いと建物も洒落ているね。


「建物はいいですね」

「結構可愛い建物じゃないか。リルにぴったりだ」

「そうですか? では、中に入りましょう。借りれる部屋は一階ですね」


 建物の中に入ると、エントランスのような空間があり、そこから階段が伸びている。今回は階段を昇らないから、玄関までが近い。


「ここですね」


 目的の部屋の前までやってきた。鍵を開けて、扉を引くと玄関先が見える。ここは前の物件に変わりなく、狭すぎず広すぎずだ。


 そのまま中に入っていき、リビングに続く扉を開けてみる。すると、広いリビングが目の前に飛び込んできた。


「わぁ、広いですね。きっとさっきの物件よりは広いです」

「広いと圧迫感がなくていいな。これだったら、色んな家具を置いても大丈夫そうだ」

「はい! 寝転がれるソファーが置けそうです」


 うん、この広さなら大丈夫! 内装も綺麗だし、装飾したら映えそうな感じだ。窓の外はどうなっているかな? 窓を開けて外に出てみると、そこはちょっとした庭になっていた。


「庭か、鍛錬するにはいいと思うぞ」

「洗濯物を干せるスペースもありますし、鍛錬もできる……いいですね」


 ここも使ってもいいと書いてあったので、色んなことに使えそうだ。ふと、庭から続く広間が見えた。そこには井戸があり、そこは共用スペースになっているんだろう。


「井戸まで行けるのはいいが、向こうからも見えるのが気になるな」

「仕切りみたいなものが欲しくなりますね」


 共用スペースにいた人からはこちらが丸見えだ、ここは仕切りが欲しいところだ。でも、それ以外はとてもいい。ここから共用スペースに行けるのも加点対象だ。


 庭から家の中に戻ると、今度は寝室に続く扉を開ける。すると、先ほどよりも広いスペースが広がっていた。


「前のよりも広いですね。ここなら、タンスやクローゼット、机なんかも置けます」

「圧迫感がないし、いいんじゃないか? ここならぐっすりと眠れるだろう」


 寝室は合格! ということは、最大の難関でもある風呂場次第でどうなるか決まる。私たちは風呂場のある場所へと移動した、その場所は玄関からリビングに続く廊下にあった。


「じゃあ、開けますよ」

「いいぞ」


 風呂場があると思われる扉を開いた。すると、そこは前よりも広い脱衣所があった。


「脱衣所はいいですね。ですが、問題は浴槽です」

「リルが一番気にしている所だな。さて、どうなるか」


 洗い場の扉の取っ手に手をかけて、ドキドキしながら開いた。すると、長い浴槽が一番に目に入ってくる。こ、これだ!


「この大きさなら足を伸ばして入れます!」

「おお、良かったな。リルの理想の浴槽か」

「はい、これならゆったりとお風呂に入れます」


 やった、この物件は当たりだ! 洗い場は普通だけど、浴槽が大きいのがいい。これなら日々の疲れもきっと癒えると思う。


「ということは、この物件に決めるのか?」

「はい! 私、ここに住みたいです!」


 住みたい家が決まった! ワクワクとした気持ちでつい声を上げてしまったけれど、いいよね。希望通りの浴槽が見つかって本当に良かったよ、嬉しい!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る