301.家探し(2)
「ここはどうだ? 広さも問題なし、希望した条件は当てはまるぞ」
「……ここはダメですね。ヒルデさんの家まで徒歩で一時間もかかります」
「そうか。中々いい物件だったから残念だ。じゃあ、次」
あれから冊子を見つつ、希望する物件を探した。気になった物件はメモに取っておき、必要になったら役人さんに伝えるつもりだ。
ヒルデさんと冊子を見ていると、突然鐘の音が鳴り響いた。どうしたんだろう?
「閉庁三十分前です! おかえりの支度をお願いします!」
どうやら役場が閉まる時間らしい。その時間まで私たちは残っていたということだ。
「今日はここまでのようだな」
「そうですね。あともうちょっとで全部見終わるのに残念です」
「仕方ないさ。明日またこよう」
最後にみた冊子のページをメモに取ると、冊子を閉じた。その冊子を持って、先ほどの役人がいる窓口へと向かう。すると、あの役人がこちらに気づいてくれた。
「いい物件は見つかりましたか?」
「いくつか見つかりました。これ、ありがとうございます。また明日、見に来ても大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫ですよ。明日お待ちしております」
冊子を役人に返すと、私たちは役場を出ていった。外に出ると気持ちのいい風が吹き抜けていく。思わず背伸びをして体のこりを解す。
「見ていただけなのに、ちょっと疲れちゃいましたね」
「そうか? 私は平気だ。読書は趣味の一つだから、見るのは楽しかったぞ」
「へー、そうなんですね。これからどうします?」
「一緒に夕食を取らないか?」
「いいですね。じゃあ、私のおすすめのお店に行きましょう」
今日はヒルデさんと一緒に夕食か、楽しい時間になりそう。
「明日も今日と同じようなことをしないか?」
「というと、午前中は素材探しで午後に家探しですね」
「両方進めたほうがいいと思うんだが、どう思う?」
「いいと思いますよ。私的には薬のほうを優先したほうがいいと思いますが」
「それじゃあ、ダメだ。リルの家探しも重要だと思うぞ」
私のことを考えてくれるヒルデさんは優しいな。うん、薬の素材探しも家探しも頑張ろう。
◇
翌日、私たちは冒険者ギルドが開く時間から資料室に入り浸った。昨日見ていない書物を片っ端から確認して、素材のありかを調べた。調べ始めて数時間、とうとうその時が来る。
「リル、最後の素材のありかが分かったぞ」
「本当ですか?」
「あぁ、ここに書いてある」
見せられたページを見てみると、確かに目的の素材のことが詳細に書かれていた。ヒルデさんはそれを見つつ、紙の情報を書き写していく。
「よし、これでいいな。資料室で事足りて、本当に良かった。図書館に行って調べるのは大変だから、ここで見つかって本当に良かったな」
「本当にそうですね。図書館に行っていたら、どれだけ時間がかかるか分かりませんから」
「でも、これで調べ物は終わった。あとは情報を精査して、探しに行ける場所なのかを知らないとな」
そうだ、情報の精査が必要で、内容によってはまた調べ物をしなくちゃいけないんだ。今いる地方になかったら、違う地方のことも調べないといけないし、それからまた調べないといけないことが発生しそう。
「まだ調べ物は終わりそうにありませんね」
「そうだな。ここから情報のことについて調べ物をしないといけないだろうな」
素材のありかを調べるだけでは終わらなかった。でも、これで薬に一歩近づけたことになるし、腐らずに頑張ろう。
「よし、ちょっと早いが昼食を取りに行こう。その後はリルの家探しだな」
「はい、よろしくお願いします」
今まで使っていた書物を片づけると、私たちは昼食を食べに資料室を後にした。
◇
昼食を食べた私たちはまた役場へとやってきた。昨日訪ねた窓口に行くと、見知った役人さんが対応してくれてすぐに冊子を差し出してきた。私たちはそれを受け取ると、仕切りのある机に移動して冊子を見始めた。
私の希望する条件は中々ないので、見つけるのが難航している。これもダメ、あれもダメ。次々と冊子を捲っていくと、残りのページが少なくなる。そして、最後のページに辿り着いた。
「最後のページの物件もダメでした」
「ふむ、中々リルの希望する物件はなかったな」
「それでも二件はあったので、よしとしましょう」
百件くらいあったリストの中から私の希望が通ったのは二件だけだった。風呂がついていないところが多かったので、そこで何十件も対象外となったのが大きかった。
でも、逆にいうと私の希望が通った家が二件もあった、なんていう考えもできる。ゼロ件よりもよっぽどましな結果だろう。何はともあれ、これで希望する家探しは終わった。次の段階に移ろう。
「次は内覧だな。希望する物件があれば、決める前に中身を見ることができる」
「そういうことができるんですね。実際に見てみないと分からないことってありますから」
「あぁ、そうだな。詳細には書かれなかったこともあるだろうから、最後は自分の目で見て決めたほうがいい」
仕切りのついた席から立つと、私たちはお世話になっている役人のところへと戻ってきた。
「すいません。こちらの冊子を見終わりました」
「そうですか。気になる物件はありましたか?」
「はい、二件ほどありました。それで家の中身を見てみたいのですが」
「はい、構いませんよ。希望する物件が書かれたページ数は分かりますか」
「こちらになります」
役人に一枚の紙を渡すと、席を立った。
「では、家の鍵をお持ちしますのでお待ちください」
役人は冊子を持ちながら、どこかへと消えていった。残された私たちは席に付き、役人が戻ってくるのを待つ。
しばらくすると、冊子を手に持った役人が戻ってきた。
「お待たせしました。では、家の内覧の件ですが、希望者が家に行き中を確かめてもらいます。鍵を預けるので、この鍵で中に入って確認してください」
「役人の人はついてこないんですね」
「はい。その代わり、鍵が盗まれないように希望者の情報を提示していただきます」
「なるほど、それだと悪いことはできませんね」
「はい、希望者を特定することで盗まれたりした時にそれなりの対処はさせていただきます。それで鍵の預かりなのですが、明日まで有効となっております。明日、鍵を返しに来ていただけなかったら、罰則が与えられます」
役人がついてこない代わりに、罰則を設けているんだ。それだと悪いことはできないよね。
役人から二つの鍵と地図を受け取った。
「こちらが鍵と物件周辺の地図になります。鍵を返す際はこの地図もお返しください」
「分かりました。じゃあ、借ります」
「はい。家が決まるといいですね」
話はそれで終了した。私たちは席を立つと、役場を出て行く。
「じゃあ、早速物件を見に行くか。どこから見に行く?」
「ここから近い場所に行きましょう」
「よし、そうしよう」
借りた地図を見ながら私たちは希望する物件を見に行った。
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