298.薬に必要なもの

 私はオルトーさんに説明を始めた。


「まず、隣にいる人を紹介します。この人はヒルデさん、私の冒険者の師匠に当たる人です」

「ヒルデだ、よろしく頼む」

「今日はヒルデさんに関することでオルトーさんにお話があるんです」

「ほうほう、この人がリルの師匠に当たる人だったんだね。はじめまして、オルトーだ。錬金術師でお店を開いている。リルには仕事を手伝ってもらって大変助かった」


 ヒルデさんとオルトーさんは近づき、握手をした。オルトーさんのお喋りは止まらないけれど、ヒルデさんもようやくこの状況に慣れてくれたみたいだ。


「で、どんな話なんだい?」

「ヒルデさんを見てください。左目と左足がありません」

「うん、そうだね。魔物にやられたのかい?」

「あぁ、大分昔に魔物にやられてしまったんだ」

「なるほど、なるほど。話が見えてきたぞ。つまり、ヒルデの左目と左足を元に戻したいわけだ」

「はい、そうなんです。オルトーさんに相談したいことは、ヒルデさんの左目と左足を治す薬を作ってもらいたいんです」


 オルトーさんはヒルデさんの眼帯と義足を見て状況を把握した。そして、私が核心について話すと、オルトーさんは腕を組んで難しい顔をする。


「私に薬をか……それは半分できて、半分できないな」

「どういうことですか?」

「私の技量をもってすれば、欠損部位を元に戻せる薬は作れる。だけど、材料がないから作れない、という訳だ。欠損部位を元に戻す薬は貴重でね、その理由が作ることが難しいことが上げられる。だけど、今重要なのはそこじゃない」


 オルトーさんが欠損部位を元に戻す薬を作れる。だけど、それ以外に懸念することってあるのだろうか?


「薬が貴重な理由のもう一つに、素材が中々手に入らないことが上げられるんだ。だから、市場には出回っていないし、錬金術師も薬を作って練度を上げられないから作れる人が限られてくるんだ」

「そうなんですね。そっか、素材が手に入らないとそうなりますね」

「だから、この薬が欲しかったらまずは素材をどうにかすることだ。この世にない素材じゃないから、探せば手に入ると思う。ちょっと待ってて、今からその素材を紙に書いてあげよう」


 オルトーさんは机に向かうと、紙に何かを書き始めた。それが終わると、その紙を私に渡してくる。


「必要な素材は五つですか。他の調合薬と比べると多いですね」

「調合が難しい理由に素材の多さという点もあるからね。素材が多い上に、繊細な素材だからこの薬は作れる人が限られてくる。まぁ、私はその中の一人という訳だけどね」

「オルトーさんと出会えてよかったです。そうじゃなかったら、きっとこの薬をずっと探していたと思います」

「そうだろ、そうだろ。リルがここで働けたのも偶然じゃなくて、運命だったのかもね。というわけで、私の弟子にもならないか?」

「今は遠慮しておきます」


 なんか調子いいなっと思ったら弟子の勧誘だった。今は錬金術師になる気持ちはないからね、正直に断っておいた。すると、オルトーさんは残念そうに肩を落とした。


「そうか、リルみたいな弟子がいれば大助かりだと思ったんだが。君からも一言添えてくれないか? 錬金術師も悪いもんじゃないよと」

「ふふっ、そんなことは言えないさ。リルを弟子に取りたかったら、リルを説得するんだな」

「弟子も師匠も手ごわいとは、残念だよ。でも私も諦めないからね、せっかくいい人材が目の前にいるのに指をくわえて見ているだけなんて我慢ならないよ」


 そこまで言われると申し訳ないな。というか、いつの間にか私の話になってる……話を戻さなきゃ。


「薬を作るためには、この素材を手に入れないとダメなんですね」

「そうだね。素材収集は基本、依頼者が探すことになっているんだけど、今回は特別だ。私の伝手を使って、素材がないか確認してあげよう。まぁ、その伝手を使っても手に入るかは分からないんだけどね」

「いえ、少しでも手に入る可能性が高くなるなら助かります。私たちは私たちで素材を探してみようと思います」

「ん? 私の薬のためにリルも一緒に素材を探してくれるのか?」


 不思議そうな顔をしてヒルデさんがいった。そんなの当たり前だ。沢山お世話になったのに、今までろくな恩返しができていない。今がその時だと思うので、ヒルデさんが元の体に戻るまで全力を尽くす。


「ヒルデさんへの恩返しです」

「恩を着せるようなことはしてないと思ったんだが……まぁ、助かるよ。ありがとう」

「おやおや、いい師弟関係を結んでいるみたいですね。羨ましい限りです。リルを弟子に持つと、いいことが起こりそうな気がしてきました。私は諦めませんよ」


 なんかオルトーさんに執着されているように思うんだけど、大丈夫かな? 錬金術師も楽しそうだけど、私は今の生活が気に入っているからなる気はないんだけどなぁ。


「まぁ、その話は置いておいて。素材が手に入れば私が調合します。もちろん、料金はいただきますが素材を持ち込んでくれた場合は調合料だけなので安いと思いますよ」

「お金には困っていないが、そうしてくれると助かる」

「では、素材がいつ手に入るか分からないから、密に連絡を取り合おう。そうしたら、余計な手間をかけなくてすむしね」

「連絡は私が取りますね。じゃあ、そういうことでよろしくお願いします」

「私からもよろしく頼む」

「任されたよ。そっちこそ、素材の入手を頑張ってね。早く体を治したいんだろう? だったら、色んな手を使ってでも素材を入手するんだ」


 オルトーさんの手助けもありつつ、私たちの素材探しは始まった。


 ◇


 オルトーさん宅からの帰り道、私はヒルデさんと一緒に道を歩いていた。


「リルから聞いた話通りにお喋りな男だったな。あんなにお喋りなのは珍しい」

「はじめは圧倒されてましたもんね。でも、慣れると楽しい人ですよ」

「色んなところで働いてきたから、適応能力が高いだけじゃないか? 今になってリルが実は凄い奴なんじゃないかって思えてきた」


 私が凄い奴? 普通だと思うんだけど、違うのかなぁ?


「そんなことよりも、素材ですよ。入手する素材が分かったので、あとは素材を探すだけです。どんな手段を使います?」

「そうだなぁ、金はあるから冒険者ギルドに依頼をする形を取ろうと思う。幅広く依頼をすれば、入手できる確率も上がるだろう」

「そうですね、その手がありました。冒険者ギルドに依頼をすれば、入手確率が上がりそうです」


 普段の依頼でも何かを入手してくれっていう依頼があるから、適任だね。


「あとは、自分で素材を取りに行くかだな。まずは素材のありかを調べて、取りに行けそうなら自分で取りに行く感じだ」

「自ら採取ですか、それだったら確実に素材が入手できますね。私もお手伝いします」

「リルが手伝ってくれるのか?」

「目標のBランクに到達しましたし、今の私には時間があります」


 そう、今の私は何でもできる。ヒルデさんの恩返しだって、しっかり返せる時間があるんだから。


「それはいいが、家探しはどうするんだ? 町に住むことが目標だったから、家を探してそこに住むまでが目標じゃないか」

「そうなんですよね。家探しもやらなくちゃいけないんです」

「家探しは付き合ってやる。一応、先輩だしな」

「助かります。こうして、ヒルデさんへの恩が重なっていくんですね」

「こんなもの恩を着せるほどじゃない。ただの師匠として、弟子が良いところに住んで欲しいだけだ」


 ヒルデさんは優しいな、こんな私に付き合ってくれるなんて。その信頼に応えるためにも、欠損した部位を治す薬を手に入れなくっちゃ。


「それじゃあ、冒険者ギルドに行って手続きしましょう」

「そうだな。じゃあ、行くか」


 私たちは素材を入手するため、冒険者ギルドに依頼を出しに行った。

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