299.冒険者ギルドにて
オルトーさんのお店から冒険者ギルドまでやってきた。お昼を過ぎた時間のこともあって、冒険者ギルド内は閑散としている。数週間前までここが冒険者でごった返していたなんて思えない静けさだ。
「さて、依頼はどこで出せばいいんだ?」
「いつもの受付カウンターじゃダメですよ。あっちの横にあるカウンターじゃないと」
「そうなのか。そういえば、リルは以前冒険者ギルドで働いていたって言っていたな。その経験か……助かるよ」
私が教えたカウンターを見て、ヒルデさんは私の頭を撫でた。こんなことで頭を撫でられるなんて……そこまで私は子供っぽいかな?
ヒルデさんがそっちのカウンターに移動をすると、早速受付のお姉さんに話しかけた。
「失礼、ここで依頼を受け付けていると聞いたんだが」
「はい、依頼の申請はこちらで間違いないですよ。どうぞ、イスにおかけになってください」
受付のお姉さんが話した通りに私たちはイスに腰かけた。
「依頼を申請したいとのことでしたね。ちなみにどのような依頼でしょうか?」
「見つけて欲しい素材があるんだ」
「素材入手の依頼ですね。では、こちらの用紙に必要事項を書いてください」
受付のお姉さんから紙とペンを渡された。ヒルデさんはそれを受け取ると、真剣な顔つきで紙を見る。そして、ペンを手に取って書き始めた。
私は隣に居ながらヒルデさんが書く項目を間違いがないかチェックする。間違いは全くなくて、ヒルデさんは素早く書き進めていった。だが、ある項目で手が止まってしまった。
「どうしたんですか?」
「いやな、ここの報酬の欄なんだが……素材の価値が分からなくてな」
「そういえばそうですね」
貴重な素材というけれど、一体どれほどに貴重なものなのか分からない。ここは慎重に考えないと、場合によっては素材が集まらないことになりかねない。
「報酬……一つに付き百万ルタくらいだせばいいのか?」
「えっ、それは多すぎなんじゃないですか?」
「でも、高くないと集まらないだろう?」
それはそうだけど、ものには限度がある。流石に百万ルタはかからないよね? うーん、こういう時は受付のお姉さんに相談だ。
「すいません、報酬について相談したいんですけれど」
「はい、どのようなことですか?」
「ここに書かれてある素材の基本的な値段というのは分かりますか?」
「記憶装置に過去のデータが残っている場合があります。お調べしますか?」
「お願いします」
お姉さんに紙を渡すと、お姉さんは紙を見ながら装置を動かしていく。紙に何かを書きながら装置を動かして調べてくれた。
「お待たせしました。こちらが過去の取引データです」
調べ物が終わったお姉さんが紙を手渡してきた。その紙を見ると、素材の名前の隣に値段が書かれていた。一つに付き五十万ルタから八十万ルタくらいの値段が書かれている。
「少し安くなったな」
「安くなったと思っても、いい値段になりましたね」
「それだけ貴重な素材なのだろう。お金はある、これくらいの値段なら問題ないだろう?」
「そうですね、過去にこの値段で取引されているので問題ありません」
予想よりも高かったけど、過去に取引されている値段だからこれくらいが丁度いいんだろう。ヒルデさんは用紙の報酬欄に教えられた値段を書いた。
「よし、書けた。これで頼む」
「はい、確認しますね」
お姉さんは渡された紙を真剣に読み、間違いがないか確認した。それから何かを計算すると、それを紙に書いて渡してくる。
「はい、問題ありません。では、こちらが手数料込みの支払金額になります」
「冒険者証だ。ここの口座から引き落としして欲しい」
「かしこまりました。お預かりいたしますね」
ヒルデさんが冒険者証を差し出し、お姉さんがそれを受け取る。その冒険者証を使い、装置を使って処理をする。しばらくすると、冒険者証が戻ってきた。
「出金いたしました、こちらをお返ししますね」
「あぁ」
「では、以上で手続きは終了となります。素材が見つかった場合は用紙に書いた住所にご連絡いたしますので、ご安心ください」
「よろしく頼む」
「またのご利用お待ちしております」
これで依頼が完了した。私たちは席を離れて、待合席の場所へと移動をする。
「早く手続きが終わって良かったな」
「特に問題なくて良かったです。貴重な素材なので、値は張りましたね」
「まぁ、あんなものだろう」
今までに稼いだお金があるヒルデさんは余裕そうだ。そうだよね、もう働かなくてもいいくらいのお金を持っているんだもの。私もお金は持っているけれど、そこまではないからなぁ。
「冒険者ギルドへの依頼が終わりましたし、次は自分たちでも素材を探すことを考えましょう」
「そうだな、まずは素材がどこにあるのか調べるところから始めないとな。冒険者ギルドにある資料室で探してみて、なかったら町の図書館にでも行ってみようか」
「それがいいですね。素材が近場にあればいいのですが……」
「もしかしたら、離れた土地にある素材かもしれないな。その場合、かなりの遠出をすることになる」
素材がどこにあるかも分からない、だからまずは調べるところから始めなくちゃいけない。でも、近場に素材がなかった場合遠出になるのか……なんかちょっとドキドキしてきた。
「遠出をするなら私もついていきますからね」
「そこまでしてくれるのか、ありがとう。リルがいると心強い」
「ヒルデさんが行けないようなところに生えている可能性もありますからね。そんな時は私の出番です」
ヒルデさんに恩返しができるチャンスだから、手を尽くしてあげたい。私がBランクになれたのは、ヒルデさんのおかげだからね。時間もたっぷりあるし、頑張って素材探しをやろう。
「リル!」
その時、私の名を呼ぶ声が聞こえた。振り向くとそこにはハリスさんとサラさんがいた。
「あ、お久しぶりです」
「あぁ、久しぶり。解体所の仕事が終わったって手紙で見たぞ」
「随分と長い間働いていたんだな。スタンピード後によくやるよ」
二人は話しかけながら近づき、私たちと一緒のテーブルに座った。
「今日はお二人揃ってどうしたんですか?」
「ビスモーク山が解禁されそうなんだ。だから、また魔物討伐をしたいと思ってな」
「とうとう、解禁されるのか。結構長い間、閉めていたんだな」
「そうみたいだ。それでリルを誘いに来たんだが、ヒルデも一緒にどうだ?」
二人はどうやら私たちをビスモーク山の魔物討伐に誘いに来たみたいだ。スタンピード後のビスモーク山は一時閉山し、冒険者は近寄れなくなった。そのビスモーク山がようやく解禁されるらしい。
「私のランクがもう少しでBランクに上がりそうなんだ。今回はその分のポイントを稼ぎたくて、ビスモークに行きたいんだ」
「それにスタンピードでの戦闘で自信がついた。早く力を試してみたいんだ」
二人ともそれなりに理由があるらしい。サラさんはBランク昇格のためのポイント稼ぎ、ハリスさんはスタンピードで鍛えられた力を試すこと。二人からは早くビスモーク山に行きたい、そんなオーラが出ていた。
「すいません。しばらくは魔物討伐ができなさそうです」
「なっ、どうしてだ?」
「ヒルデさんの欠損部分を治すための薬を作るためです。薬を作るための素材を探したいんです」
「素材採取か……」
私が二人の誘いを断ると、二人は驚いた顔をした。だけど、理由を話すと納得してくれたように頷いてくれる。二人の誘いには乗りたいけれど、今はこっちのほうが優先だ。
「その素材ってすぐ見つかるものなのか?」
「貴重な素材らしくて、多分ですけど中々見つからないと思います」
「そうだろうな。欠損部位を治すほどの力を持つ薬だ、素材もそれなりのものが必要なんだろう」
「はい。だから、しばらくはご一緒できないと思います」
二人についていって魔物討伐をするのもいい。だけど、それよりも大事なことがある。二人に話すと、二人は顔を見合わせた後に強く頷いた。
「そういうことなら仕方がない。しばらくは二人で活動することにするよ」
「それでだ、素材を探すの俺たちも手伝おうと思うんだ。どんな素材を見つければいいんだ?」
「いいんですか? ヒルデさん、あの紙を」
「あぁ」
ヒルデさんは素材の書かれた紙を出し、二人はそれを読んだ。すると、ハリスさんがマジックバッグの中から紙とペンを出して、その内容を書き写す。
「これでいいな。この素材を見つければいいんだな」
「はい、その五つの素材が必要なんです」
「ビスモーク山でこれと同じ素材がないか探してみるな」
「お二人とも、本当にありがとうございます」
「気にするな、困った時はお互い様だ。それに、ヒルデの欠損部位が治ったら冒険者をするつもりなんだろう? ぜひ、一緒に冒険してもらいたいな、と思っていたところだ」
「私たちにもちょっとした下心があるんだ。強いヒルデと一緒なら、もっと強い敵とも戦えるんじゃないかってね」
それでも、手伝ってくれることが嬉しい。ヒルデさんと顔を見合わせて、二人で笑った。心強い仲間がいるのっていいね、その思いが重なったみたいだ。
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