295.スタンピード(18)
「やったぞ、ラプトルを全て倒した!」
誰かが声を上げた。周りを見てみると、立っているラプトルは一体もいなくなっていた。次第に冒険者たちはざわつき、所々から歓声が上がる。
すると、ヒルデさんが近づいてきた。
「どうやら、終わったみたいだな」
「本当に終わったんですか?」
「ラプトルはいなくなった、スタンピードの終わりだ」
本当に終わりなんだろうか? いつまでも続くと思っていたスタンピード、終わる感覚がない。呆然としていると、後ろに控えていたギルド職員たちが前に出てきた。
「魔物が他にいないか確認してきます」
「それまで、冒険者の皆様はここで待機してください」
ギルド職員が馬を走らせて確認しにいった。その声を聞いた冒険者たちから歓声が止み、辺りはざわつき始める。
ビスモーク山の山頂付近の魔物と戦った、その後に控える魔物はいないはずだ。でも、万が一のこともあるのでギルド職員が確認しに行ったのだろう。
私たちはギルド職員の確認が終わるまでその場で待機となり、みんな重い腰をおろして少しでも体を休めた。夕方だった空はあっという間に暗くなり、夜になる。
寝ずに済む薬の効果も切れて、私たちは睡魔と戦いながらギルド職員からの報告を待った。うつらうつらしていると、馬のひづめの音が聞こえてくる。ギルド職員が戻ってきた。
半分寝ていた私たちは起き上がり、ギルド職員からの言葉を待つ。
「魔物は確認されませんでした。スタンピードの終わりです!」
その言葉を聞き、待っていた冒険者たちが一気に沸き立った!
「スタンピードの終わりだ!」
「私たち、生き残ったのね!」
「やってやったぞー!」
ワーッとなってみんなで盛り上がる。私たちも一緒になって盛り上がった。
「やりましたね、スタンピードに勝ったんです」
「あぁ、長い戦いだったな。私たちはやり遂げたんだ」
「やってやったな」
「あぁ、スタンピードを終わらせた」
ヒルデさん、ハリスさん、サラさんと一緒になってお互いを称え合った。すると、ギルド職員が声を上げる。
「今日はこのまま町に戻って休んでください。その後、冒険者ギルドにて報酬をお渡しいたします」
体は疲労困憊だ、寝るならベッドの上で眠りたい。そう思っていたから、ギルド職員の言葉は本当に助かった。他の冒険者たちは動き出し、町へと戻っていく。私たちもその後を追い、町へと戻っていった。
「今日一日はゆっくり休んで、報酬とやらは明日貰うことにしようか」
「それがいいと思います」
「なら、明日冒険者ギルドで待ち合わせをしないか?」
「そうだな、一緒に報酬を受け取ろうか」
一日ゆっくり休んで、それから冒険者ギルドで待ち合わせすることになった。お祝いはその後からでも大丈夫だよね。
私たちは町へと戻り、一日ゆっくり休みを取った。
◇
「おまたせしました」
「いや、今来たところだ」
「そんなに待っていないぞ」
「私も今来たところだ」
一日休んだ後、冒険者ギルドに行く日になった。冒険者ギルドの前ではヒルデさん、ハリスさん、サラさんが来ていて待っていてくれた。
「町の中を歩いてきたんですが、お祝いムードでしたね」
「あるところでは祭りみたいになっているところもあるぞ」
「スタンピードが終わったんだ、浮かれる気分にもなるさ」
「私は宿屋の食事をおごってもらえたぞ」
町の中はスタンピードを解決したとあって、とても賑やかになっていた。まるで祭りみたいで、歩くだけでも楽しかった。自分たちがスタンピードを解決したから、その喜びようを見てこっちも嬉しくなる。
話ながら冒険者ギルドの中に入ると、中は冒険者でごったがえしていた。
「考えることはみんな同じか。仕方がない、長蛇の列に並ぶとしよう」
受付には長蛇の列ができており、みんな今日報酬を受け取りに来たみたいだ。私たちは大人しく列の最後尾に並び、自分の順番を待った。待つ間、雑談しつつ時間を潰していく。
自分の番までは二時間もかかってしまった。
「スタンピードの参加者ですか?」
「はい」
「冒険者証を確認しますね」
受付のお姉さんに冒険者証を渡すと、画面を見ながら話しかけられた。
「リル様ですね。かなりの活躍をされておりますので、追加報酬がございます」
「個人の活躍も見てくれていたんですか?」
「分かる範囲ではありますが、ギルド職員が見ておりましたので。かなりの数の魔物を倒し、特別な個体の討伐、Aランクのドラゴンの討伐……本当に凄い活躍でしたね、お疲れ様です。リル様の報酬は60万ルタになります」
「そんなに頂けるんですか。あ、報酬は全て貯金でお願いします」
「かしこまりました」
予想以上に追加報酬が貰えた。というか、冒険者の数が多くて個人の活躍なんて見てもらえないと思っていたけれど、そうじゃなかったみたい。そうか、私の活躍を見ててくれた人がいたんだ、嬉しいな。
だけど、次に聞いた言葉は私をもっと驚かせた。
「今回かなりの活躍をされましたので、ランクが上がります。本日からリル様はBランクとなります」
「Bランク……私が、Bランク?」
「はい、おめでとうございます。リル様はBランクに上がりました」
私がBランク……それは本当? 頬をつねってみたら痛かった。ということは夢じゃない? 私……とうとう目標のBランクになったんだ。
「こちらが冒険者証になります」
受付のお姉さんから冒険者証を受け取ると、そこにはしっかりとBランクの文字が刻まれていた。本当に私……Bランクになったんだ。嬉しさがこみ上げてきて、飛び跳ねてしまう。
「やった、目標のBランクだ!」
すると、後ろにいたヒルデさんが頭を撫でてきた。
「やったな、Bランクは目標だったんだろう?」
「はい、ようやく目標を達成することができました」
「本当に良かったな。これで町に住むことができるじゃないか」
「はい! 私、町に住むことが目標だったのでとても嬉しいです」
これで町に住むことができる。町の住民になれるんだ!
「良かったな、おめでとう」
「リルがBランクか……先を越されてしまったな」
ハリスさんとサラさんも笑ってお祝いしてくれる。それがとても嬉しくて、笑顔が消えない。とうとうBランクになったんだ、こんなに嬉しいことはない!
難民だった頃から町に住むことは一つの目標だった。その目標ができたのは何年も前になるんだろう、とにかくここまでが長かった。時間もかかって、大変な思いをしたけれど全てが報われた気がする。
もう一度冒険者証を確認する。うん、どこからどうみてもBランクと書いてある。嬉しい、この日が来てくれたのが本当に嬉しい。一人で喜んでいると、手続きを終えた三人が集まってきた。
「これからリルのお祝いをしようじゃないか」
「それはいいな」
「賛成だ」
「お祝いですか? そんな、悪いです」
「仲間なんだから、それくらいはさせてくれ」
「仲間……」
そうだ、この三人とは仲間なんだ。コーバスに出て一人だったけど、私にも仲間と言える人たちができていたんだ。一人じゃないっていうのがとても嬉しい。
「おめでとう、リル」
「リル、おめでとう」
「おめでとう」
「ありがとうございます!」
三人にお祝いされると、Bランクになった実感が高まった。私、とうとうBランクになったよ!
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