272.異変(4)
朝、早くに山を登り、中腹付近までやってきた。今日は昨日の話し合いの通りに魔物と戦わずにネームドや変異種が出現していないかの捜索の日になる。
森の中に姿を隠し、魔物の様子を探っていく。森の中を進んでいると、魔物の気配がした。すぐにその場所へ行くと、オーガが複数たむろしているのを見つける。
「どうだ、特別な個体はいるか?」
「ここからだと、良く分かりませんね」
「あっちに移動しないか?」
群れの全体像が分からなかったため、移動して観察することにした。その場を離れて、違った場所から確認する。
「こっち側から見ても、特別な個体はいなさそうですね」
「いないが、数が多いな」
「どうする? 違う場所を捜索するか?」
「少し様子を見ませんか? もし、特別な個体がいるのなら、違った行動が見られるかもしれません」
「俺は賛成だ。サラはどう思う」
「そうだな、私も賛成だ。しばらく様子を見ることにしよう」
私たちは森に潜んだまま、そのオーガの群れを観察することにした。オーガたちはその場で立って、何やら話しているみたいだ。もしここで話の内容が分かったら、特別な個体の捜索も楽になるんだけどなぁ。
そうは言ってもオーガの言葉は分からないので、このまま行動を観察することになった。しばらくオーガはその場から動かなかったが、何かを察知した態度になる。
「なんだ、今あっち側を見たよな」
「あっちに何かあるんでしょうか?」
「私たちには分からない何かか……同類の気配でも察知したのか?」
オーガの変わった行動に私たちは釘付けになった。しばらくある方向を見ていたオーガたちは顔を見合わせて何かを話して、そして移動を開始した。移動した方向は先ほど向いた方向だ。
「よし、気づかれないように後を追おう」
「はい、行きましょう」
「移動は慎重にだな」
オーガから一定の距離を離して、私たちはオーガを追っていった。
◇
気づかれないようにオーガを追っていくと、色んなところにオーガがいるのが分かった。実感するのは、やはり数が多くなっているということ。きっと、何かの原因でこうなったに違いない。
進むにつれて、辺りにいるオーガが増えてきて段々と潜伏が厳しくなってきて、危ない場面もあったりした。なんとか息を殺し、移動をするオーガを追っていく。
「どこまで行くんだ? このままついていっても大丈夫なのか?」
「だが、何か目的があって動いているみたいだ。その目的を知りたい」
「周囲に最大限の注意を計りながら進んでいきましょう」
このまま進むと、危険な目に合うかもしれない。それでも、私たちの任務は調査なのだから、進むしかなかった。いつオーガに見つかるか分からない状況に緊張感が漂う。
慎重に進んで行くと、多くのオーガが集まっているのが見えた。きっとあそこに原因があるに違いない。私たちは顔を見合わせて頷くと、そこに近づいていく。
大勢のオーガが集まっているその場所は開けた場所で、遠くまで良く見えた。木に身を隠し、その場所を確認する。普通のオーガが集まっているように見えるけれど……
その時、オーガの中に一際大きな巨体が見えた。それは黒い肌をしていて、他のオーガと比べると明らかに背が大きく、体も巨体だ。間違いない、特別な個体だ。
「いたな」
「あれは、ネームドか? それとも変異種か?」
「良く見てください、いるのは一体じゃありません。似たような個体が他にもいます」
特別な個体は一体だけじゃなかった。二体、三体……いや、もっといる。見えるところだけでも、五体以上はいるみたいだ。きっと、見えない位置にもいるに違いない。
「特別な個体があんなに沢山。ということは、変異種か? 統率力のあるネームドではないのか?」
「だが、変異種がこんなにオーガを集めることがあるか?」
「ということは、今目に見えている特別な個体は全部ネームド?」
こんなにネームドが出現することなんてありえるんだろうか? それとも、見えない位置に別の個体、ネームドがいるってこと? 調査不足で良く分からない。
「こんなにオーガを集めることができるのは、ネームドがいるからだろう。だが、今見えている特別な個体はネームドじゃない」
「ということは、ネームドと変異種が同時に発生したということだろうか?」
「ネームドの姿を確認したいですね」
あれが変異種となれば、きっと他にも特別な個体……ネームドの個体がいるはずだ。このまま潜伏して、そのネームドの姿を確認したい。
「ちょっと移動しよう。もしかしたら、違う位置にいるかもしれない」
「よし、行こう。一か所に留まるのも危険だからな」
「あっちに気配がしません。あちら側に行きましょう」
私たちはネームドの姿を求めて、その場を離れて移動した。違う方向から見える位置を求めて森の中を木で姿を隠しながら移動する。もう少しで良い位置にいける、その時オーガたちから沢山の声が上がった。
雄たけびが辺りに響き、圧が凄かった。
「何かあったみたいだ、この位置からでも覗こう」
「ネームドが現れたのか?」
「この様子は異常ですから、その可能性はありますね」
私たちは移動を止めて、木に姿を隠しながらオーガたちを覗き見た。すると、奥の方から初めてみる個体が現れた。金色の長い髪を垂らし、巨大な角を生やし、腕が四本もある特別なオーガが現れた。
腕が四本のオーガを崇めるように、周りのオーガたちが雄たけびを上げている。変異種と見られた黒い肌をしたオーガも一緒になって雄たけびを上げていた。
「あれがネームドだな」
「あぁ、一体しかいない」
「強そうです」
ネームドのオーガが誕生した。しかも、ネームドだけじゃなく、変異種のオーガまでいる。今の状況がいかに危険なのか良く分かった。私たちは顔を見合わせて、頷く。早くここから離れよう、そう思った時だ。
「ガァッ!」
後ろから声が聞こえて振り向いてみると、オーガが二体いた。
「まずい、見つかった。行くぞ!」
ハリスさんの掛け声で私たちは走り出した。すると、私たちを見つけたオーガが後を追ってくる。
「リル、足止めだ!」
「はい!」
ハリスさんは走りながら弓を構え、私は魔力を高めた。ハリスさんは弓を射ると、矢はオーガの足に当たって爆発する。私はもう一体のオーガに向かって氷魔法で刃を出して投げた。氷の刃はオーガの足に刺さり、二体のオーガは地面に倒れる。
「索敵をしながら、この場を脱するぞ」
「リル、任せた」
「任せてください」
先頭を私が走り、その後をハリスさんとサラさんが追う。だけど、走りながら思ったことがあった。オーガに見つかったのに、その声を聞いてネームドたちが動いた気配がないということだ。
あの声を聞けば、何かしらのアクションをしてくるに違いないと思っていたけど、そうではなかった。そんな違和感を感じながら、私たちは逃げていく。
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