271.異変(3)

「うおりゃぁっ!」


 サラさんが最後のオーガを切り倒した。一撃を受けたオーガは倒れると、ピクリとも動かなくなる。これでせん滅の完了だ。すると、後方にいたハリスさんが駆け寄ってきた。


「みんな、怪我はないか?」

「はい、大丈夫です」

「私はちょっとかすり傷を負ってしまったな」

「回復しなくて大丈夫ですか?」

「あぁ、問題ない」

「じゃあ、オーガを回収するぞ」


 ハリスさんの一声で私たちは武器をしまって、オーガをマジックバッグにしまい始めた。


 今、私たちはビスモーク山の中腹より上の位置にまで来ていた。冒険者ギルドからの指名依頼で、この辺りの調査と魔物の間引きを行うためだ。


 夜の食事会の翌日、私はオルトーさんに今回の指名依頼の件を話して仕事を休ませてもらった。オルトーさんは残念がっていたけれど、また仕事をすることを約束すると快く送り出してくれた。


 それから三人で冒険者ギルドに寄り、指名依頼を受けて山ごもりの準備をした。念入りに準備をして、馬車に飛び乗って久しぶりのビスモーク山にやってきた。


 私たち以外にも指名依頼を受けていた冒険者たちはいるらしく、いつもより休憩所が賑やかになっていた。そして、今回はその指名依頼を受けた冒険者パーティーが一日の終わりに集まって報告会を開くことになっている。


 お互いに情報を共有しあい、異変の原因を突き止めるのが目的だ。でも、もし異変を見つけたらどう対処するのだろう? 報告が先なのか、対処が先なのか……それは私たちに一任されるのかな?


「よし、オーガの回収が終わったな。何か異変となるものはあったか?」

「私はいつも通り戦っていたが、いつも通りのオーガだったと思う。特別強くなっていることもなかった」

「私も同じです。強いて言えば、出てきた数が多くなったところでしょうか。やはり、数は増えていると実感しますね」

「本体の異変はなく、数の増加が見られるということか。よし、今日はここまでにして山を下りよう」


 ハリスさんの指示で山を下りることになった。そろそろ日が暮れるし、完全に暗くなる前には下りないと危ないからね。


「帰り道も気を付けていこう。数が多くなっているということは、遭遇率も高くなっているはずだ。リルは注意しながら進んでいってほしい」

「分かりました。索敵は任せてください」


 マジックバッグを背負うと、周囲に気を配りながら山を下りていった。


 ◇


 山を下りると日が暮れて、夕食を取った。その後、指名依頼を受けた冒険者たちで集まって報告会を開く。


「まずは俺からだ。山頂付近の様子は魔物が活発になっていたのが分かった。数も多くなっていて、魔物同士の小競り合いも多く見られたな。問題のドラゴンは特に変わった様子は見受けられなかった」


 山頂付近の調査に行った冒険者パーティーの報告から始まった。いつもと比べて魔物が活発になったり、数が多くなったりはしていたみたい。ドラゴンに異変がなかったのは救いだと思う。


 次に、中腹辺りを調査した私たちだ。ハリスさんが代表して話してくれる。


「中腹付近のBランクの魔物は数が多くなっている。遭遇率も高く、探さなくても簡単に出会えるくらいにまでに増えているだろう。特別な個体は見受けられなかった。だが、魔物が多くて捜索範囲がそこまで広く探せなかったから出会えなかった可能性もある」


 そう、魔物の数が多くて私たちの捜索範囲はいつもよりは狭かった。これで捜索をしたというよりは、魔物を間引いていたといった方が合っているかもしれない。明日、もっと広く捜索が出来ればいいのだけれど。


「次は私たちですね。中腹より下の魔物たちも数が多かったです。そこで討伐はせずに様子を窺っていたのですが、どうにもいつもとは様子が違ったようなんです」

「どんな風に違ったんだ?」

「誰かに率いられているような感じです。統率されていたように見えました」

「それはどの魔物だ」

「オークです」


 魔物の名前を聞いて、他の冒険者はハッとした表情になった。


「それはネームドが現れたんじゃないか? オークはネームドが良く出現する魔物だろう?」

「特別な個体を見つけることが出来なかったのですが、その可能性は考えてました。ネームド、もしくは変異種が出現した可能性があります」

「数が多くなるとそういうのが出てくるからな、可能性は高いだろう。もしかしたら、中腹や山頂にもそういった個体が生まれている可能性が高い」

「うむ、数が多くなっている原因はネームドや変異種の出現が理由にもなっているからな」


 魔物の数が多くなっている原因がネームドや変異種の出現なんだ。でも、ネームドと変異種の違いってなんだろう?


「あの……ネームドと変異種の違いってなんですか?」

「あぁ、それか。ネームドは魔物を率いることが出来る特別な個体、変異種は普通の個体がなんからの理由で進化した魔物だ。ネームドは統率力を持ち、変異種は高い戦闘力を誇る」


 なるほど、ネームドは統率力を持つ魔物で、変異種は個別に強くなった魔物のことか。どっちも出現したら大変なことになりそうだ。


「今回の異変……このビスモーク山全体の異変だと思っていいかもな」

「はい。あちこちで魔物の数が増えていますし、そう考えてもいいでしょう」

「その異変の原因がネームドや変異種の出現によるものか突き止めなくてはな。もし、そいつらに出会ったらどうする?」

「まずは報告を大事にしよう。事情を知らない冒険者が来て、餌食になったら大変だ」

「私も賛成です。何かが起こる前にきっちり報告をし合って、危機に対応していきましょう」

「よし、なら明日以降からはネームドや変異種の捜索だな。報告会を終わる、解散」


 三チーム合同の報告会は終わり、私たちはテントの張ってある場所まで戻ってきた。そこでまた、明日の予定を話す。


「というわけで、この異変はネームドや変異種の出現が原因の可能性が高くなった。明日からは討伐をせずに、森に潜伏しつつ目標を探ることになるだろう」

「そういう任務は苦手なんだが、やるしかないな。手を出せないのが痛いが」

「魔物に見つかった時はどうしますか? 逃げますか?」

「いや、逃げたら逆に危険だ。魔物の数が増えていて遭遇率が上がっている。そんな時に闇雲に森の中を逃げると、いらない戦闘を呼び込んでしまうかもしれない」

「なら、魔物に見つかった時は戦闘だな。良かった、逃げなくて済むのはいい」


 よし、明日はネームドや変異種の捜索に全力を尽くそう。索敵なら私の聴力強化があるし、活躍できると思う。この異変の原因を突き止めて、今回の依頼を無事に成功させるぞ。

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