267.錬金術師のお手伝い(7)
「今日は魔導線を作ろうと思う」
「魔導線ってなんですか?」
「魔道具に使われている、魔力を通す管のことさ。魔道具は魔力や魔法の力が備わっているのは分かるだろう? その力を十分に伝達するために、魔力を通す金属で作られた管が必要なんだ。全ての魔道具に使われていると言ってもいい品物さ」
どうやら今日は魔導線というものを作るみたいだ。初耳な道具だけど、どうやら魔道具に使われている特殊な金属で作られた管らしい。
「魔導線を作る業者はいるんだけどね、錬金術で作る魔導線の方が高品質で高い伝達率を誇るんだ。一般的な魔道具には業者の魔導線が使われていて、高級な魔道具には錬金術で作られた魔導線が用いられるんだ」
「使用用途が違うんですね」
「そういうこと。今は色々な魔道具が作られているから、需要が高いんだ。だから、今日も沢山作って、沢山売ろうと思う。ここで沢山作ると、研究費が稼げるからね。今日もリルにはお手伝いを頑張って欲しい」
今日のオルトーさんの気合が違う。どうやら、かなり儲かる商品らしくポーションの時とは様子が違う。
「今日のリルの仕事は、この三種類の物を粉末にすること」
「これはなんですか?」
「スライムの身を乾かしたものと二種類の金属だよ。スライムはおろし金で十分だけど、金属は固いからハンマーで砕いて、すり鉢で擂って欲しい。結構力のいる仕事だけど、出来そう?」
「どれだけ固いか分かりませんが、身体強化を使ってもいいなら、どれだけ固くても大丈夫そうです」
「あぁ、そうだったね。身体強化が使えるんだった。なら、平気そうだ。細かければ細かいほどいいから、頑張って粉末にしてくれ。じゃあ私は導線の調合をしているから、何かあったら声をかけて欲しい」
一通りの説明を終えたオルトーさんは大釜に向かい、素材を大釜の中に入れ始めた。私も与えられた仕事をしないとね。早速テーブルについて、素材を確認する。
スライムの身が錬金術の素材になるなんて思ってもみなかった。触ってみたら、乾燥した弾力のある何かといった感じだ。えっと、これをおろし金ですればいいんだね。
器の中におろし金を設置して、擦り始める。すると、いとも簡単にスライムの身は崩れていき、粉になって出てくる。うん、これはスイスイ仕事が捗りそうだ。
簡単に擦れるので作業はかなり速いペースで進んでいった。自分の顔より小さいスライムの身が二、三分で全てが粉になる感じだ。でも、量があるのでそれなりに時間がかかる。
かなりのハイペースで擦っていくと、スライムの身を全て粉にすることが出来た。器の中にはこんもりと削られたスライムの身が溜まっている。これで一つが完成したね。
次に金属の方に移る。金属は二種類あって、どちらも一センチくらいの小粒で歪な形をしている。これを粉末にするのは大変そうだ。でも、身体強化が使えるのなら、もしかしたらあっという間に終わるかもしれない。
二種類の金属をそれぞれ袋の中に入れて、用意された鉄板の上に置く。そして、その上から鉄のハンマーで金属を砕く。大きな音が響いて、一撃を喰らった金属は割れたみたいだ。
よし、腕だけ身体強化をして……どんどん砕いていくぞ。鉄板の上で金属をハンマーで叩いていく、テーブルが壊れないように力加減を気を付けて休みなく砕いていった。
はじめは凄く固い感触だったけど、砕いていく内に粒が小さくなって粒の感触が弱くなる。それをどんどん続けていくと、粒の感触がどんどん弱くなって、鉄板を叩いているような感触になった。
そこで袋の中を見てみると、粒状だった金属が粒の荒い粉状に変わっていた。これくらい粒が小さくなれば、あとはすり鉢で削っていけばいいね。ハンマーでの作業を止め、今度はすり鉢の作業に移る。
すり鉢は珍しく鉄で作られていて、この作業のために作られていたみたいに思える。そのすり鉢に粉々になった金属を一種類入れて、鉄の棒で金属を擦り始めた。
粉々になっても相手は金属、生半可な力では粉にはならない。だから、身体強化で力を入れてゴリゴリと擦り始める。すると、粒状だったものが砕けて、どんどん粉状になっていく。
部屋にすり鉢で金属を擦る音が響き渡る。今日も地味な作業だけど、力のいる大変な仕事なのには変わりない。気を緩めることなく仕事を続けていく。
◇
二種類の金属を粉に変えることができた。金属を粉に変えるのは大変だったけど、身体強化のお陰でなんとかやり遂げることができたね。
私はオルトーさんに近づき、声をかけた。
「オルトーさん、粉にできました」
「お、そうなんだね。結構早くできたんだ、助かるよ。じゃあ、出来た粉を隣にある中釜に全部入れてくれるかな?」
「分かりました」
声をかけると一発で気づいてくれて、ちょっと驚いた。調合中は集中力がいるから、絶対に気づいてくれないと思ったのに。まぁ、それはいいか。言われた通りに隣の中釜に粉になった素材を入れよう。
私は粉になった素材を順番に中釜の中に入れた。これから何が出来るんだろう? と、想像力を膨らませながら、オルトーさんに再度声をかける。
「オルトーさん出来ましたよ」
「ありがとう。じゃあ、私の持っている錬金術の棒を持って」
「はい」
オルトーさんから錬金術の棒を受け取った。
「それから、錬金術の棒を持ちながら魔力を通して。リルからしたら、ちょっとの魔力でいいよ。あんまり魔力を込め過ぎても困るから」
「ちょっとの魔力……これくらいですかね」
言われた通りに錬金術の棒に魔力を流す。それを見たオルトーさんは笑顔になった。
「うん、魔力の通りもいいし、込める魔力も抜群だよ。身体強化を使っていたリルを見ていたんだけど、繊細な魔力操作も得意みたいだね。冒険者なのに、錬金術みたいな魔法の扱い方をしていたよ」
「そうなんですか? 魔力や魔法を込めるお仕事もしていたので、その経験が役に立っている感じですかね」
「へー、そんな仕事もしていたんだ。そのお陰で繊細な魔力操作ができるようになったのかもしれないね。錬金術の素質があるみたいだから、錬成も手伝ってもらうね」
「えっ」
これって錬成していたの!?
「い、いえいえ、私なんかが錬成なんて……」
「大丈夫、大丈夫。難しい部分は終わっているから、あとは一定の魔力を込めて混ぜるだけなんだ。初心者でも簡単に出来る作業だよ」
「私なんか初心者じゃありませんよー!」
「でも、実際に出来ているし問題はないよ。いやー、弟子がいるってこういう気分なのかなー。とても、いい気分だね。リルもその気があったらいつでも錬金術の道に来なよ。その時は弟子として取ってあげるからさ」
私がオルトーさんの弟子? 錬金術師への道? そんなつもりで仕事なんてしていないのに、突然言われても困るよー!
「いやー、冒険者は荒業が専門だから、錬金術みたいな繊細な魔法を使う人なんていないと思っていたのに、これは驚きの発見だね。リルは錬金術師として鍛えれば、きっとすぐに頭角を現すと思うよ」
「錬金術ですかー……全然想像できないです」
「今も話しながら、しっかりと魔力を通しているし、通している魔力も一定だ。無意識下でも魔力操作が出来るのって凄いことだと思う」
「いやいや、魔力や魔法を魔石に込める仕事をしている人のほうがよっぽどこの仕事に向いてますよ」
「でも、その人たちが実際に魔法を使うと言ってもそうじゃない。ただ、魔力や魔法を込めるだけじゃ、リルみたいにはできないよ。リルは魔法について色んな経験をしてきたからこそ、こういう芸当ができるようになったんだ」
褒められているんだろうけど、なんだか恐縮してしまう。私が錬金術をか……全然考えられない。でも、錬金術を使えれば、出来る仕事は増えそうな感じだ。町の中で確かな仕事ができるようになるってことだよね。
その後もオルトーさんとお喋りをしながら、二人で並んで調合をし続けた。
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