265.錬金術師のお手伝い(5)
「今日はこれをお願いね」
「わー、今日も凄い量ですね」
今日もオルトーさんの家でお手伝いの仕事だ。テーブルの上には沢山のキノコが乗っていて、今日も沢山の素材の下処理を任せられるみたいだ。
「このキノコをどう処理すればいいですか?」
「まずは少し濡らした布で全体を軽く拭いて欲しい。余分な汚れとか土とかついているから、それを取っていって欲しいんだ。そういうのがついちゃうと、効力とか味が落ちるし品質も良くないものが出来ちゃうんだ」
「たしかに、色んな物が付着しているように見えます」
「それを丁寧に取っていってほしい。取り終わったたら、キノコを半分に切って欲しいんだ。半分に切ることで、成分が早く溶けだしてくれるんだ。そうすると、余計な成分を出さずに済んで、いい品質のポーションが出来上がるんだ」
今日の一番目のお仕事は体力回復ポーションの下準備だ。あのポーションにはキノコが使われていたなんて、知らなかったな。
「あと二つの素材が必要だから、これが終わってもまだまだ仕事はあるよ。今日中に体力回復ポーションを作りたいから、そのつもりで仕事をして欲しい。中々忙しくなるけれど、リルならきっと出来ると信じているよ」
「期待に応えられるように頑張りますね」
「じゃあ、後はよろしく。私は作業をしているから、終わったら声をかけてね」
オルトーさんは自分の机に戻り作業を始めた。さて、私は与えられた仕事をやろう。イスに座って改めてキノコを手に取ってみてみる。キノコは赤茶色の大きなかさをしていた。このキノコが体力回復ポーションになるのか。
よくよく見ていると、汚れが付着しているように見える。小さな木の破片だったり、土だったり、ほこりだったり、とにかく色んな物がついているみたいだ。これを綺麗に取れば良いんだね。
私は用意されていた少し濡れたタオルを手に取ると、キノコを拭き始める。キノコを傷つけないように出来るだけ優しく拭いていく。かさの表面、かさの裏側のひだ、柄の部分。拭き取ってみると、タオルは汚れていた。
こんな汚れがついた状態で錬金術を使ってポーションを作れば、品質が落ちるわけだ。オルトーさんは品質や効力が高いものを作りたいらしく、使う素材の状態をかなり気にしているみたいだ。
今回のキノコもどれも状態が良いものばかりで、形が整っているものが多い。多分、そんな風に注文を付けていたから、そういうのが集まってきたんだろう。こういうこだわりがあるから、良い商品が生まれるんだな。
キノコを拭く作業は簡単だけど、気を抜くと汚れを見落としそうだ。地味な仕事だけど、丁寧にやらないといけないから、そこが大変だと思う。早く作業をしても汚れが残ったら困るし、かといって遅くなっても困る。
いい塩梅に仕事をするのっていうのは難しいものだと思った。何が正解とかがなくて、その時々で正解が違ってくるから、それを見極めるのが難しい。ちゃんと仕事が出来ているかなんて、自分では分からないから。
黙々とキノコを拭いていくと、タオルが汚れてくる。水の張った桶の中でタオルを綺麗にして、きつく搾ったらまたキノコを拭き始める。拭いた後も汚れが残っていないかしっかりとチェックをした。
そうして、着実にキノコを拭いていくと、なんとか全てのキノコを拭き終えた。かなり汚れていたのか、タオルを洗った桶の中の水はかなりの汚れが浮いていた。あのまま錬成をしていたら、これが入っていたと思うと少しゾッとする。
次はキノコを半分に切る作業だ。板とナイフを用意すると、キノコを切り始める。上下にナイフを動かさないとキノコは切れない。でも、力を入れすぎると潰れてしまうので、力の塩梅が難しい。
簡単な作業だと思ったら、それなりに難しい作業を続けていった。
◇
「キノコの状態も良かったよ、ありがとう。次はヘビだね。ヘビは頭を落として、皮を剥いで、内臓を取って、血を綺麗に洗って欲しいんだ。こういうのさばくのは平気?」
「魔物解体していたので、大丈夫です」
「そうか、なら安心だね。内臓とか血は臭みの原因となるから、とにかく綺麗にして欲しい。そうそう、作業は流し台のあるところでやってもらうね。こっちだよ」
オルトーさんに連れられて、違う部屋に入った。そこには調理器具が置かれている台所みたいだ。そこにあるキッチンカウンターの上には大きなボールに山のように積まれたヘビが置いてあった。
「板とナイフはそこにあるし、いらないゴミはこの箱の中に入れておいてね。そうそう、ここから水が出るようになっているからここを使って欲しい。水はいくらでも使っていいから、とにかく綺麗に処理をして欲しい」
「分かりました、綺麗さを優先しますね」
「うん、お願いね。じゃあ、私は作業をやっているね」
一通り説明を終えたオルトーさんは自分の持ち場所へと戻っていた。残された私は山と積まれたヘビを見て、ちょっとだけ嫌な気分になる。一匹のヘビを見るならまだしも、百匹くらいいそうなヘビを見るのは嫌だな。
まぁ、そんなことを思っても仕事が減るわけではない。気合を入れ直すと、腕まくりをして作業に取り掛かる。
台のところに先ほど説明された板とナイフを設置して、ヘビを一本板の上に乗せる。今にも動きそうな感じがして嫌だけど、そんなことは言っちゃいられない。力を入れてヘビの頭を切り落とす。切ったヘビの頭は流しのところに置いておいた。
それから、切ったところから皮にナイフで切れ目を入れて、今度はヘビの皮を剥ぐ。力を入れて皮を引っ張るとするすると外れていく。皮が千切れないように注意しながら最後まで皮を剥ぎ取ることができた。
次に腹の方にナイフで切り込みを入れると、中から内臓を取り出す。そこから、血が滲み出てきた。早速、蛇口を捻り水を出すと、内臓と一緒に血を洗い流す。綺麗に指で擦り洗いをして、赤い部分が無くなるまで洗い続けた。
時間をかけて洗った後に確認する。赤い部分は無くなったし、内臓を守っていた膜も無くなったみたいだ。こんなものでいいのかな、ちょっと不安になってきた。一度、オルトーさんに見てもらおう。
近くにあったタオルを使って手とヘビの水分を取ると、オルトーさんのところまで移動した。オルトーさんは書物を読んでいるらしく、近づいても中々気づいてくれない。
というわけで、いきなりヘビを目の前に出してみることにした。
「わっ!」
「オルトーさん、ヘビの状態を確認して欲しいのですが」
「あぁ、そうだね。ちょっと見させてもらうよ」
こちらの存在に気づいてくれたオルトーさんは、手に持ったヘビをまじまじと観察を始めた。
「頭はしっかりと落としている、皮は綺麗に剥ぎ取られている。内臓があった部分に血はないし、膜もない。うん、この状態はとてもいいと思う。だから、他のヘビもこんな風に処理してくれると嬉しい」
「見てくれて、ありがとうございます」
「数が結構あって大変かと思うけど、丁寧に仕事をしてね。前に処理が上手く出来ていなくて、品質の下がったポーションが出来たことがあるんだ。いつもとは違う飲み口になってね、売値が下がってしまったんだ」
処理が適切じゃないとそんなことになるんだ、これは気を付けて処理をしなくちゃ。オルトーさんに見てもらった後、台所へと戻る。処理の終わったヘビを空の桶に入れておくと、次のヘビに取り掛かる。
魔物解体に似ている作業だけど、繊細さが全然違う。一つずつ丁寧に作業をしていった。
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