264.錬金術師のお手伝い(4)
ポーションを零さないように、漏斗を使って細い瓶に慎重に入れていく。入れる量も間違わないように、最後は特に慎重に入れた。数滴違うだけでも、後々になれば大きな差になるから集中力が必要だ。
大釜に入ったポーションを瓶に移し替える作業は結構大変だ。オルトーさんはきっちり分量を決めて作ったから、ポーションの数もきっちり決めている。数に差がないように、きっちりとポーションを入れないといけないところが神経を使う。
はじめは普通にポーションを入れるけど、最後の数滴になると集中力を使う。瓶を平行なところに置いて、最後は一滴ずつ入れて規定の量を入れる。ここで間違えれば面倒くさくなるから、最大限の注意を払う。
そうやって、最後に集中して入れたポーションに蓋をすれば完成だ。この作業を百本以上だ、気が遠くなるような作業をずっと続けていく。
一人でポーションを入れる作業を続けていき、徐々に大釜の中に入ったポーションが減ってきた。あともう少し、あともう少し。そう思いながら、集中を切らすことなく作業を進めていった。
そうして、とうとう最後のポーション瓶にポーションを入れるところまでやってきた。大釜に残ったわずかなポーションを小さな匙ですくいながら、瓶に入れていく。最後の瓶、規定の量が入るかな? それが一番心配だ。
大釜に入った僅かなポーションを小さな匙ですくって入れる。最後はとびきり時間がかかる、大釜をひっくり返して入れることが出来ればいいんだけど、そうしちゃうと零しそうな気がして出来ない。
ちまちまと小さい匙でポーションをすくって瓶に入れた。あとは残っていないよね? 大釜を少し傾けて、ポーションが溜まっていないか確認する。うん、もう小さな匙ですくえる量はないみたい。
最後のポーションの瓶を確認すると、規定の量まで入っているのが確認できた。良かった、最後の瓶が多かったり少なかったりしたらどうしようかと思っちゃったよ。
でも、これで無事仕事の完了だ。最後のポーションを木箱にしまうと、オルトーさんに近づく。
「オルトーさん、ポーション瓶に入れ終わりました」
声をかけてもオルトーさんはうんともすんとも言わない。仕方がない、また強引に気づかせよう。作業中みたいだから、揺らすのはやめにして、目の前に手を差し出してみよう。
私はオルトーさんの隣に移動すると、顔の前に手を出して振った。
「オルトーさん」
「わっ、びっくりした。あー、ごめん、何かな?」
「作業が終わりました」
「本当?」
そう言ってオルトーさんは席を立ち、ポーションが入った木箱に近づいた。それから、一本ずつポーションの瓶を手に取ると、中身をチェックする。どうやら、入っている量を確認しているみたいだ。
「うん、どれも量が均一だ。ここまで丁寧に仕事をしてくれると助かるよ。この作業、地味に大変だからさ、少しの誤差が出るかもって思っていたんだけど、リルは優秀だね」
「褒めて頂いて、嬉しいです」
仕事を褒められた、嬉しい。結構気を使ったから、ほとんどの瓶は同じ量になっているはずだ。
「じゃあ、次の仕事はこの大釜を洗うこと。井戸の傍で洗ってきて欲しいんだけど、持てる?」
「身体強化が使えるので、これくらい重くても大丈夫ですよ」
「そうか、良かった。もし無理なら、筋力増強手袋を貸そうかと思っていたところだよ」
「筋力増強手袋ってなんですか?」
「錬金術で作った特殊な力のある手袋だよ。これを使うと力が何倍にも膨れ上がるんだ。力仕事にはうってつけの錬金物だよ。私はこれを使って、力のいる作業とかもしているんだ。これがあるとないとじゃ大違いさ」
へー、錬金術って物も作れるんだ。てっきり、薬的な物ばかりだと思っていたよ。
「じゃあ、大釜を洗ってきますね」
「あぁ、お願いするよ。終わったら、また声をかけてね。あ、そうそう。洗う道具は外の木箱に入っているから、それを自由に使ってね」
「はい、分かりました」
私は体に身体強化の魔法をかけると、大釜を持った。大釜を持ちながら中庭に続く廊下を進み、一度大釜を置いてから扉を開ける。また、大釜を持つと井戸の傍に近づいた。
えーっと、木箱は……あった、扉の近くに置いてあった。木箱に近づいて中を見てみると、色んな道具が入っていた。私が使うべきものは……このスポンジでいいかな?
スポンジを持って大釜に戻ると井戸から水を汲み、大釜の中に入れる。腕まくりをすると、スポンジを片手に大釜の中を洗い始める。大釜は大きくて、私の腕だけじゃ底には手が届かない。大釜の中に体を入れて、底まで綺麗に洗っていく。
大釜にはポーションの独特な匂いがして、なんだか変な気分だ。ポーションの匂いに包まれるなんて、そんな経験今でしか味わえないよね。ここにいるだけで、怪我が回復していきそうだよ。
丁寧に大釜の中を洗うと、汚れた水を一旦捨てる。そこに新しい水を入れて、大釜の中を濯いでいく。中を綺麗にしたら、水を捨てて、もう一度井戸の水を入れる。そして、また捨てる。
あ、水魔法で水を出せば早かったかな? でも、もう終わったし、次はそうやって綺麗にしよう。大釜の中と外を綺麗にして、今度は水をふき取る作業だ。
道具の入った木箱にスポンジを戻すと、今度はタオルを掴む。大釜の中を綺麗に拭き、水滴がついた大釜の外も綺麗に拭いていく。大きいから拭くのが大変だけど、なんとか拭き終えることが出来た。
これで大釜の洗浄の仕事も終わりだ。ポーションを瓶に詰め替える仕事よりも随分と楽だ。それに体を動かしたから、体の調子がいいかもしれない。
身体強化の魔法を使って大釜を持ち上げると、家の中に戻っていく。廊下を進んで部屋に戻ると、大釜があった場所に戻す。これで一仕事完了したね。
「あぁ、大釜の洗浄が終わった? お疲れ様」
珍しい、オルトーさんがこっちに気が付いてくれた。
「今日はもうそんなに時間がないから、ちょっと早いけど今日の仕事は終わりにしようか。あ、その前にポーションを卸すところに出来たことを伝えないといけないんだった。リルには最後にその仕事をやってもらおうかな」
「はい、大丈夫ですよ」
「今、紙に場所を書くからちょっと待っててね。二か所ほど行ってもらいたいんだ、そこはいつも私のポーションを卸すところでねお得意様なんだ。っと、これでよし。はい、これがお店の住所ね」
オルトーさんに一枚の紙を渡された。なるほど、この二か所にいけばいいんだね。
「今日はその二か所にポーションが出来たことを伝えたら、直接帰ってもいいからね。って、明日以降の話は全然してなかった。先にそっちの話をすれば良かったね。それで、明日以降もここで働ける?」
「はい、しばらくは外の冒険がお休みなので大丈夫です」
「そうか、良かった。お店に卸す商品が溜まってしまってね、困っていたところなんだ。中々、お手伝いの人も来なかったし、でも一人で作るのは大変だし。まぁ、お手伝いの人が来てからでもいいかって思っていたんだ。よし、この機会に卸す商品をどんどん作っていくから」
オルトーさんは気合を入れるように両手を握った。ということは、似たような仕事が続くってことかな?
「いやー、リルが来て助かったよ。私の仕事は細かいことばかりだからさ、中々人が来ないんだよね。来たとしても仕事が上手くいかなかったりで、仕事が進まないんだよ。でも、今日のリルの仕事を見て安心して任せられると思ったよ」
「仕事を認められて嬉しいです。出来る限り頑張りますね」
「そうしてくれると助かるよ。ともかく、卸す商品は沢山あるからね、量も沢山作らなくっちゃいけないんだ。それに加えて細かい作業だろう? 私一人じゃとてもじゃないができなくてね、リルがいる内に色々と仕事を終わらせたいな」
私なんかの仕事でこんなに認めてもらえるのは嬉しいな。錬金術のお手伝いの仕事は初めてだけど、コツコツやる仕事だから自分に合っているんだと思う。この調子で明日の仕事も頑張ろう。
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