261.錬金術師のお手伝い(1)
冒険者ギルドの内部にある待合席に私たちは座った。
「それじゃあ、しばらく休息ということですね」
「がっつり稼いだし、体を休めてからまた討伐をしたいな」
「実をいうと私もクタクタになっていたところだ。だから、休息は助かる」
ビスモーク山での討伐を数か月に渡りほぼ休みなしで行ってきた私たち。討伐は順調に進み、かなりの魔物を討伐することが出来た。そのお陰でランクアップのポイントやお金を沢山稼げた。
だけど、ほとんど休みなくビスモーク山で戦ってきたせいか、みんなに疲れが溜まってしまったみたいだ。これじゃあ、次の討伐の時に大きな怪我をしてしまうかもしれない。というわけで、長期の休みを取ることにした。
「かなりお金を溜めたし、しばらく遊んでいても問題はないだろう」
「あぁ、ランクが一つ上がるだけでこんなに稼げるとは思わなかったよ」
「戦いでかなり強くなりましたし、いい鍛錬にもなりました」
「魔物が沢山出てきたからな、そのお陰かもしれない。でも、あの数はちょっと異常じゃなかったか」
「確かに、ちょっと異質な感じは受けた。魔物を沢山討伐しているはずなのに、日に日に数が多くなったからな」
「そういう巡り合わせに出会ったんでしょうかね」
討伐は順調だったのは、魔物が沢山現れてくれたからだ。それも日に日に数を増していったので、討伐数は右肩上がりだった。そんな魔物の数が増えると怪我をする冒険者も増えるみたいで、冒険者の入れ替わりが激しかったのを覚えている。
私たちとしてはラッキーだったけど、日々の討伐が精一杯な冒険者としては死活問題なのだろう。私たちみたいに上のランクで戦うより、下のランクで戦っている冒険者が多かった。
「お互いの宿泊施設の情報も交換したし、これならいつでも連絡が取れるな」
「お金が沢山溜まったからな、もしかしたら宿泊施設を良いところに変えるかもしれない。その時は連絡するよ」
「私は今のところ変えるつもりはありませんので、安心してください」
「俺も新しい宿泊施設に変えようかな」
お金が増えると、他のところを充実させたくなる気持ちも分かる。でも、私は今のところで満足しているし、宿泊施設をグレードアップするよりも、自分の暮す家のために貯金をするほうを選ぼう。
「じゃあ、とりあえず解散だな。俺はしばらく町でゆっくりするよ」
「私も町でゆっくりしようかな」
「私は町の仕事を請け負おうと思います」
「リルは凄いな、まだ働くのか?」
「休んでもいいんだぞ?」
「いいえ、体は元気なので大丈夫です。それに早くBランクになりたいから、頑張ります!」
「ははっ、リルは本当に凄いな」
「これだと、私は追い抜かれて先にリルがBランクになってしまうな」
二人は休むつもりだけど、私は仕事をしようと思う。体は元気なのに、休んでいるのがもったいないからね。ここでさらにランクアップを目指して、一人暮らしの資金を溜めるぞ!
◇
ハリスさんとサラさんと一度別れた私は、一日の休みを取ったあと、すぐに冒険者ギルドへとやってきた。久しぶりに朝早くにくると、冒険者ギルドは人でごった返していた。久しぶりに人に揉まれながら、クエストボードをチェックしていく。
何かないかな……と見ていくと話し声が聞こえた。
「げっ、あの仕事まだ募集しているのか?」
「え、どの仕事だ?」
「ほら、有名錬金術師の補助の仕事だよ」
「有名ならいいんじゃないの?」
「いやいや、仕事がめちゃくちゃ細かいんだよ。本当に細かすぎて、コツコツ仕事が出来る奴じゃないとあれは勤まらんわ」
錬金術師か……確か魔力を使って色んなものを作る職業だったような。先ほどの人たちが言っていた、錬金術師のクエストを眺めてみる。
ふむふむ、錬金術の補助って書いてある。誰でもできる細かい作業をするのが得意な人募集、魔力がある人など尚可。作業はそんなに難しくないのかな? ただ、さっきの話を聞くとかなりコツコツした作業を求められるっぽいね。
ということは、私向きの仕事じゃないかな? 芸は細かくないけれど、誰でもできる作業をコツコツとやるんだったら私にもできそう。それに討伐で体も疲れているかもしれないから、動きがそんなにないのもいい。
それに私は魔力がある、きっと依頼者の希望に沿っていると思うんだよね。それにしても、錬金術の補助か……どんな仕事をするのか気になる。うん、この仕事を受けてみよう。
私はクエスト用紙を剥がすと、それを持って受付カウンターに行った。
◇
クエストが受けられることになり、私は錬金術師の家に向かっている。かなり大きな通りに面しているみたい。賑やかな通りを進んでいくと、目的の場所に辿り着いた。
その家は大きな煙突のある大きな家で二階建てになっている。ここが錬金術師のいる家か、案外普通の家だね。もっと個性豊かな家だと思っちゃったよ。
外観を観察した後、扉を叩いた。
「すいませーん。冒険者ギルドからクエストを受けた者です」
声を上げて待っていると、扉の向こう側から人の気配がした。すると、扉が開く。
「クエスト受けたって本当!?」
「えぇっ、あ、はい」
「助かった、早く中に入って!」
「えぇぇ!?」
肩までついた灰色髪をした青年が出てきたと思ったら、即行で手を引かれて中に連れ込まれた。そのまま家の中を通り、奥まで手を引かれていく。そして、扉を開けるとそこは井戸のある中庭だった。
その中庭には山と積まれた草が入った桶、水の張った桶、何も入っていない桶、タオルが入った籠、小さなイスが置かれている。
「はいはい、ここのイスに座って」
「は、はい」
「じゃあ、説明するね。この草はポーションの材料なんだ。ポーションの作り方はこの草と他の素材を合わせて煮て作るんだけど、この草には色んな汚れがついていてね、そのまま煮出すと不純なものが入ったポーションになっちゃうんだ。だから、この草を綺麗にすることが必要になってくる」
「草を洗うんですね」
「そう、洗って、タオルで水気を取って欲しいんだ。そうやって綺麗にすることによってポーションの質がグッと上がって、商品価値が高くなるんだ。この工程を省く錬金術師が多いから、他の人に比べて私のポーションは品質がとてもいいんだ」
「そ、そうなんですね」
「そうそう、成分は同じなんだけどね、ちょっとした工程で効果が少しだけ上がったり、飲み当たりが良くなったりすんだよ。だから、私のポーションは少し高いのに売れるんだ」
「売れるのは良いことだと思います」
「売れるのはいいよね、お金が手に入ったら、それで素材とか沢山買って研究とか沢山出来るようになるし。でも、だからね沢山売らないとそういうことが出来ないから、沢山売らないといけないんだ。まぁ、売るのはお店の人にお願いしているんだけどね」
物凄く喋る錬金術師だ。説明は分かりやすくていいんだけど、どんどん話が逸れていっているように思う。えーっと、私のすることは草を洗って水気を取ることだね。簡単だけど根気のいる作業だ。
「あの、草はどうやって洗いますか?」
「草の洗い方? 色々やり方はあるんだけど、やっぱり人の手で撫でるように汚れを落としていくのがいいと思うんだ。そのほうが、草も傷つかないし、成分が落ちることもないんだ」
「じゃあ、傷つかないように優しく洗いますね」
「うん、そうしてくれると助かるよ。あ、水は少し汚れたらこまめに変えてね。やっぱり、汚れた水で洗うのは良くないと思うんだ。口に入るものだから、そこのへんは丁寧にやってね」
「分かりました」
「じゃあ、私は中で作業をしているから、終わったら声をかけてね」
そう言い残すと青年は家の中に戻っていってしまった。
「あ、名前を伝えられなかった」
自己紹介をする前にいなくなってしまった。ちなみにあの青年の名前は分かる、オルトーさんだ、クエスト用紙に書いてあったから分かる。
オルトーさん、凄く喋る人だったな。結構早口だったけど、話の内容は聞き取れたし、なんとか話についていけた。色々と喋ってくれるから、聞くことが少なかったのが助かったな。
さて、私は仕事に移りますか。草を一つ取る、木の葉っぱみたいな形をしていて節がついている。その草をまじまじと見ると、わずかだが汚れがついている。本当にじっくりとみないと分からない程度だ。
その草を水の中に入れて、指の腹で優しく擦って汚れを落とす。両面を綺麗にしたら、今度は乾いたタオルで水気を取る。これで一枚の処理が終わった、空の桶に拭き終わった草を入れた。
この作業をずっと続けるのか、単純だけど量が多い分大変な仕事になりそうだ。とにかく、この量をやらないといけない、頑張るぞ!
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