260.魔物討伐~ビスモーク山~(15)

 新しいマジックバッグを手に入れた私たちは、ビスモーク山に再び出かけた。今度は十日の滞在を目標にして、必要なものを持ってやってきた。


「いよいよ、魔物討伐を本格的にはじめる時が来ましたね」

「あぁ、腕が鳴る」

「まだBランクの魔物討伐に慣れていない部分もあると思う。だから、慎重にいこう」

「そうですね、慎重にいきましょう」


 Bランクの魔物討伐を始める朝、山の中腹を目指して私たちは歩いていた。六日ぶりとなるBランクの魔物討伐を前に気合も十分だった。


「一日どれくらいの数を相手にしましょうか」

「この間は十体いけたから、十体でいいんじゃないか?」

「目標は高いのはいいが無理はいけない。八体から十体くらいに収めておこう」

「それぐらいでいいと思います。サラさんはどうですか?」

「そうだな、無理は良くなかったな。確実に討伐していこう」


 まずは肩慣らしからはじめて、いけそうになったら頑張ればいい。


「まず今日は三人の連携の復習からやっていこう」

「それはいい考えだ。まだまだ連携して間もないから、しっかりと確認しあったほうがいいだろう」

「また新しい連携を思いつくかもしれませんし、頑張りましょうね」


 連携が上手くいくかいかないかで討伐の難易度は各段に違ってくる。ここはしっかりと学び直して、失敗がないようにしたい。


「もし、新しいことに挑戦してみたかったら事前に言ってくれ。俺はそれに合わせて動くようにする」

「分かった。新しい攻撃方法を試したくなったら、突然やるんじゃなくて事前に相談だな」

「そうですよね、突然新しいことを始めたらどう対応していいか分からなくなりますからね。賛成です」


 歩きながら戦闘の相談をし合う。こうして事前に話し合うことで、戦闘はぐっと楽になると思う。やっぱり、事前に知っているのと知らないとでは全然違うから、話し合いは必要不可欠だ。


「そろそろ、山の中腹だ。リル、お願いできるか?」

「はい」


 山の中腹に辿り着くと、聴力強化をして辺りの気配を探る。えーっと、一番近くに感じる声は……あっちかな。


「あっちの方にいるみたいです」

「よし、行くぞ」


 先頭をサラさん、その後ろに私とハリスさんがついていく。しばらく森の中を進んでいると、赤黒い物体が森の奥に見えてきた。木の陰に隠れて、オーガを数える。


「全部で二体だな」

「はじめの攻撃はハリスだな。その後、私たちはどうする?」

「とりあえず、一体を確実に仕留めましょう」

「よし、ならハリスの攻撃したオーガ以外を狙おう」

「そういうことなら、煙幕の弓矢を射る。そうしたら、一体のオーガに集中できるだろう」

「ありがとうございます。それでいきましょう」


 やることは決まった。ハリスさんが煙幕の弓矢を構えると、私たちは走り出す。


「リル、どっちが仕留められるか競争だ」

「負けませんよ」

「私もだ」


 走りながら雑談できるほど、私たちはリラックスして戦えている。緊張感がないのは問題かもしれないけれど、リラックスできているのは良い証拠だ。


 私たちは剣を構えてオーガに向かっていった。


 ◇


 私たちの快進撃が始まった。Bランクの魔物は強い、一人で戦うと危険度が高いしCランクを討伐していたほうがお金になる場合が多い。それでも、私たちはBランクの魔物と戦い続けた。


 私も含めて三人とも向上心があったから、戦い続けられたんだと思う。上のランクに行きたい、その気持ちがあったから三人で苦しい戦いも乗り越えられた。


 はじめのひと月は苦しい戦いばかりだった。毎回、同じ魔物と戦っているのに、同じ戦い方などない。だから、その時々によってしっかりと連携を取りながら戦わないといけなかった。


 戦い終わってはしっかりと話し合い、何が良くて何が悪かったか情報を共有した。そのお陰もあってか、戦いは数をこなしていくごとに少しずつ楽になっていた。


 その積み重ねがあったからか、二か月にもなると苦しい戦いは無くなっていた。自分たちが強くなったのか、それとも連携の経験が増えたお陰か、それとも両方のお陰かもしれない。


 私たちは確実にBランクの魔物を討伐することができるようになっていった。楽な戦いはなかったけど、ひと月前の苦しい戦いをしなくなった。それだけでも確実に進歩している。


 すると、一戦でのかかる時間が減っていき、より多くの魔物と戦うことができた。少しずつ増えていく討伐数、討伐数が増えると討伐報酬や素材報酬なども同じく増えていった。


 マジックバッグを買った時は本当にお金を回収できるくらいに稼げるんだろうか? と、不安だったがそれは杞憂だったみたい。だって、二か月もかからずに元が取れてしまったんだから。


 これには三人で驚いた。Bランクの魔物の討伐報酬と素材報酬はそれなりに高い、高いからこそ数をこなせるようになるとかなりの金額を稼ぐことができた。


 マジックバッグの元が取れると、俄然やる気が出てきた。私たちは魔物討伐に精を出し、次々と魔物を討伐しては換金をしていく。そして、今日もその換金に訪れた。


「見ろよ、来たぞBランクハンターたちだ」

「今回もかなりの日数をビスモーク山で過ごしてきたみたいだな」

「今日はどれくらいの魔物を出してくるんだ?」


 私たちが冒険者ギルドに現れると、周りがざわつく。それもそうだ、マジックバッグ三つ分の魔物を出して、高額報酬を受け取り続けているのだから注目されても可笑しくはない。


 みんなの注目を集めながら、私たちは受付のお姉さんに呼ばれた。


「魔物の換金をお願いします」


 顔なじみになっている受付のお姉さんはそれだけをいうと、それだけで理解してくれた。


「ただいま人員を補充しますのでお待ちください」


 そういうとお姉さんは後ろに下がって、人手を集めてきた。


「では、お願いします」


 私たちも慣れた手つきで、マジックバッグから魔物を取り出していく。取り出した魔物を鑑定して、紙に査定額を書く。鑑定した魔物を冒険者ギルドのマジックバッグに入れる。


 そして、また私たちのマジックバッグから魔物を取り出しては鑑定をしていく。そのやり取りが長くなるにつれて、周りからの注目も増していった。


「おいおいおい、どんだけ魔物を出してくるんだよ」

「Cランクの魔物じゃないよな、Bランクなんだよな」

「あんなに討伐してくるなんて信じられねぇ」


 査定が進むごとに人だかりができて、人の声も大きくなる。みんなが見守る中、ついに査定額が発表される。


「お待たせしました。今回の報酬額は、132万ルタになります」


 その瞬間、周りから大きな声が上がった。


「すげー、そんなに稼げるのか!」

「Bランクの魔物、俺も倒してー!」

「くそっ、羨ましいぜ!」


 一部のお金を貯金に回し、残りのお金を手持ちに持つ。みんなの注目を集める中、私たちは残りのお金を分配するため受付から離れて待合席に座った。


「今回も凄い注目を集めましたね」

「あんだけ討伐してきたのだから、当然だろう」

「私はちょっと恥ずかしいぞ」


 報酬をお互いに分けて、そんなことを言う。そんな時、強い視線を感じた。ふと、振り向くとサラさんとハリスさんの元パーティーメンバーの姿が見える。


 その人たちは羨ましそうにこちらを見て来ていた。でも、サラさんとハリスさんは反応を示さない。だって、もう戻る必要はないんだから。今は、このパーティーが一番いいよね。


「今回もお疲れさまでした。少し休んだら、また討伐にいきましょう」

「そうだな、何日ぐらい休む?」

「私はすぐにでも行ってもいいが、休みは必要だよな。三日ぐらいはどうだ?」

「いいですね、三日休んだらまた討伐しにいきましょうか」


 用事も済んだ私たちは席を立った。


「よし、これからお疲れ様の宴会をしに行こう。お金もたんまりあるしな」

「今日はどこに行く?」

「私、オススメの場所があるんですが……そこでどうですか?」

「いいな。そこに行ってみよう」


 頼りになるパーティーメンバーと一緒に食事へと行く。この町に来て、ようやく仲間といえる仲間に出会えた。それが嬉しくて、一緒に行動をするのが嬉しくて笑顔が溢れてくる。


 はじめは上手くいくかどうか不安だったパーティー結成だったけど、いい人たちに巡り合えて本当に良かった。心強い仲間がいるだけで、孤独の不安が消え去ってくれる。


 最高のパーティーメンバーと一緒に夕日で照らされる道を歩いていった。一人じゃない帰り道がこんなに楽しいだなんて、久しぶりだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る