238.領主クエスト、魔物駆逐作戦(13)

 馬車は途中の町に停まりつつ、コーバスに向かっていった。そして、三日後の昼すぎに久しぶりのコーバスに辿り着く。門を進み、冒険者ギルドに到着した。


「報酬を渡しますので、第一会議室に来てください」


 馬車を下りた私たちはすぐに解放される訳ではないらしい。ここで帰ったら大事な報酬が受け取れなくなってしまう、私たちは大人しく第一会議室に行った。すると、人数が多すぎて第一会議室に入りきらなかった冒険者たちが廊下に溢れていた。


「中で順番に報酬を渡しますので、しばらくお待ちください」


 ギルド員たちは忙しく声を上げていた。仕方がない、このまま自分の順番が来るのを待つか。報酬を受け取った冒険者が数人ずつ出ていくのをみながら、廊下で順番を待つ。


 かなり速いペースで列は進んでいって、私も会議室の中に入ることができた。それからしばらくして、ようやく自分の順番がやってくる。


「冒険者カードを出してください」

「はい」

「ただいま確認しますね」


 冒険者カードを差し出すと、ギルド員は何かの紙を見ながら確認をし始める。


「Cランクのリル様ですね。これが今回の報酬です」

「ありがとうございます」

「あと、リル様には特別報酬が出されるみたいです。明日、朝の十時にここに来てください」

「分かりました」


 特別報酬? 何か特別なことをしたっけ? ……あ、そういえばゴーレムを倒したな。その報酬なんだろうか? まぁ、詳しいことは明日に分かることだし、今日はのんびりしよう。


 クエストの報酬を受け取ると、一階に行きカウンターに行った。戦場で回収した魔物の素材を買い取って貰うため。と、思ったら同じことを考えていた人ばかりで帰ってきた冒険者でカウンターはいっぱいになっていた。


 まぁ、仕方がない。並んで待ってようかな。少ない列に並んで自分の番を待つ。その時、聞きなれた声が聞こえる。


「リルちゃん!」

「あ、アーシアさん」

「無事に帰ってきたのね、良かった」


 カウンターの奥からこちらにやってきたアーシアさん、私の姿を見てホッと安心したみたいだ。


「無事にスタンピードを乗り越えたみたいね、本当に良かった。心配していたんだから」

「ご心配おかけしました。怪我もなく帰ってこれました」

「もう上で報酬は受け取ったのよね?」

「はい。でも、明日特別報酬が渡されるみたいで、明日も来ないといけないみたいです」

「特別報酬!? 一体どんなことをしたのよ」


 特別報酬と聞いてアーシアさんは特別に驚いて見せた。やっぱり、特別なことなんだなっと思った。


「多分ですけれど、Aランクのゴーレムを倒したことだと思います」

「えっ、リルちゃんがAランクのゴーレムを倒したの」

「私一人の力じゃないですが、倒しました」


 ゴーレムの話を聞いたアーシアさんは難しい顔をして頭を抱えた。


「リルちゃんって町の中の仕事のほうが上手だと思っていたのだけれど、町の外でも凄く活躍できているみたいね。そんな冒険者、他にはいないわよ」

「両方頑張ったら、いつの間にかこうなりました」

「片方だけでも凄いのに両方って……リルちゃんって何者なの?」


 じーっと見てくる、なんだか恥ずかしい。


「まぁ、ここで考えても仕方ないわね。リルちゃんが凄いっていうのには変わりはないしね。そんな貴重な人材がここにいてくれて本当に良かったわ」

「なんだか良く分かりませんが、喜んでもらえて良かったです」

「そろそろ、順番が回ってきそうね。それじゃ、またお話しましょう」


 アーシアさんはそう言ってカウンターの奥へと戻っていく。私はというと、自分の順番が呼ばれてカウンターに近づいた。


 ◇


 翌日、たっぷりと宿屋のベッドで寝た後に遅めの朝食を取って、冒険者ギルドに向かった。いつもと比べると遅い時間に行っているので、冒険者ギルドの内部は人がそんなにいない。


 二階に上がり、第一会議室へ行くと他の冒険者が集まりつつあった。そこで、ボーッと待っているとラミードさんとタクト君が部屋に入ってくる。


「よ、昨日ぶりだな」

「来るの早いね」

「お二人とも、おはようございます」


 この二人が来たということは、私の推測はあっているかもしれない。三人で固まって雑談していると、ギルド員が会議室に入ってきた。


「冒険者が集まったみたいですね。それではこれより特別報酬をお渡しいたします」

「この特別報酬はAランクのゴーレム討伐に力を尽くしてくれた冒険者に贈られます」

「また今回活躍してくださった冒険者は領主様に報告することになっています。そこから領主様の目に留まることになる冒険者もいるかもしれません」


 私の推測はあっていたみたいだ。それに、前回同様領主様に私たちの名前が教えられるらしい。ここで目に留まれば、特別な依頼をされることがあるみたい。目に留まって欲しいなぁ。


 そんなことを考えていると、特別報酬が配られ始めた。一人ずつ特別報酬が入った袋を手渡される。その時を待っていると、私のところにもギルド員が来た。


「リル様ですね。この度はご協力ありがとうございました。こちらが特別報酬です」


 袋を受け取るとずっしりと重かった。中身を見てみると、金貨が入っているのが見えた。ゴーレムって討伐報酬いくらくらいするんだろう? ちょっと気になる。


「それではこれで特別報酬の配布を終了します」


 その一声でその場は解散となった。ぞろぞろと冒険者が出ていき、私たちも会議室を後にする。と、その時ラミードさんが声をかけてきた。


「これで解散なんて寂しいと思わないか? ちょっと、そこで一杯やっていこうぜ」

「ラミードさん、そういうの好きですね」

「折角の機会だからな、タクトはどうだ?」

「んー、暇だからいいよ」

「よし、三人で飲みに行くぞ」

「酒は飲めないよ」

「私も飲めません」

「別に酒じゃなくてもいいんだよ、楽しく飲めればなんでもいいんだ」


 私たちはラミードさんに連れられて一階に下り、併設されてある酒場に行った。そこで注文をすると、みんなで一緒の席に座る。


「今回のスタンピード、どうにか防げて良かったな」

「天才魔法使いの僕がいたんだから、防げて当然だよ」

「確かに、タクト君がいなかったらどうなっていたか分かりませんね。まぁ、最初はどうなることかと心配しましたが」

「僕は悪くないよ。見た目で判断してつっかかってきたのが悪いんだからね」

「俺もどうなることかと思ったが、最後は上手く協力しあえたな」


 スタンピードを終えてそれぞれが感想を言い始めた。本当に最初はどうなることかと思ったけど、どうにか乗り越えたお陰で無事に帰ってくることができた。


 そうやって話していると、注文した飲み物とつまみがやってきた。ラミードさんは嬉しそうな顔をしてジョッキを持つと、私たちもコップを持つ。


「それじゃ、乾杯!」

「乾杯」

「かんぱーい」


 ジョッキとコップをぶつけると、中身を一口飲む。


「かー、昼から飲むエールは最高だな!」

「今って昼?」

「どっちかっていうと、朝ですかね」

「そんな細かいことは気にしなくてもいいんだよ!」


 そういうとラミードさんはガバガバとお酒を飲んでいき、速攻で酔っ払いに変わってしまった。


「本当にお前らはすごいな、こんなにちっこいのに他の冒険者を圧倒して……ってもう酒がねぇ。ちょっと買ってくるわ」


 グダグダと会話を続けていたラミードさんが酒が欲しくてお店のカウンターに行った。


「酔っ払いって面倒臭いね」

「まぁまぁ」


 すると、タクト君が席を立った。


「面倒くさいから後は君に任せるよ」


 流石タクト君、周りのことを全く気にしないで逃げる発言だ。仕方がない、私がラミードさんに付き合ってあげますか。どうやってラミードさんの酔っ払いから逃げようか考えていると――


「今回は色々と助けられたよ」

「えっ?」

「今後はリルと組んで魔物討伐もいいかもしれないね」

「それって」

「じゃあ、またね」


 それだけを言い残して、タクト君は去って行ってしまった。残された私は呆気にとられながら、コップに入った果実ジュースを飲む。


「良く分からないけど、仲良くなれたのかな」


 私にも友達と言える冒険者ができたのかな? 友達の冒険者か……そのことを考えると段々と嬉しくなってくる。ロイ以来だ、同世代の冒険者の友達ができて嬉しくて笑う。もっと、こういう友達をこのコーバスで増やしていきたいな。

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