237.領主クエスト、魔物駆逐作戦(12)

 二日目の魔物駆逐作戦は順調に終わった。Aランクの魔物は現れず、強くてもBランクまでだ。そのBランクの魔物もそれほど量はいない。ほとんどがCランク以下の魔物ばかりで、戦いやすかった。


 個人的にきつかったのは体力面での持久力だ。始めから全力で戦うと、中盤に差し掛かってから体の動きが凄く鈍くなった。なんとか体力回復ポーションを飲んで凌いでいたが、もう少し考えて戦っていればと思った。


 小刻みに休みはあるものの、一日中戦う経験は他にはない。普段の魔物討伐とは比べようもないほどに忙しく大変な討伐だった。夕方前には第二波の魔物の群れはいなくなり、私たちはその場で地面にうずくまって体を休める。


 次に目が覚めたのは日の出の頃だった。ギルド員が起こしに来なかったため、私たちは泥のように眠っていたみたい。それで、まるで私たちが起きるのを待っていたかのようにギルド員は現れた。


「調査の結果、魔物の群れはもういなくなったみたいです。なので、魔物駆逐作戦はこれにて終了となります。ご協力ありがとうございました」


 どうやら、もう魔物がいなくなったみたいだ。その話を聞いていた冒険者たちは安堵のため息を吐く。


「つきましては、倒した魔物の素材を臨時報酬として持ち帰っても大丈夫です。早い者勝ちになります」


 その話を聞いた冒険者たちは一気に沸いた。魔物の素材を持って帰ってもいいんだ、これは嬉しいな。ということは、マジックバッグの容量が多い人が臨時報酬を多く手に入れることができるっていうことか。


「魔物の素材を回収した後は、残った魔物を焼却処分します。火魔法を使える人は焼却にご協力ください。使えない人は魔物を集めるお仕事をお願いします」


 魔物の焼却処分か、確かにこのまま魔物を放置しておくのは良くないよね。普段なら他の魔物が処理してくれるとは思うんだけど、これだけの量が処理できるとは思わない。


 冒険者たちがマジックバッグを持って、魔物の死骸を物色し始めた。マジックバッグにも限度があるから、計画的に入れないとすぐにいっぱいになりそう。


 倒した魔物の中でお金になりそうなのは……Aランクのゴーレムかな? でも、ゴーレムから取れる素材って何だろう? あの体の素材だった石は素材として売れなさそうだし、割れた魔石なんかはどうだろう?


 ゴーレムを倒した場所に行くと、人だかりができていたが、辿り着いた瞬間に人が去って行った。どうしたんだろう、とゴーレムの瓦礫を見てみると、魔石らしいものは一つも残っていなかった。


 遅かったか……気を取り直して次だ。次にランクが高いのは火食い鳥だ、何が素材になるか分からないから、本体をマジックバッグに入れておこう。


 周辺を歩き回ると、火食い鳥の死骸を見つけることができた。これでようやく一つ目、次の火食い鳥は……と顔を上げてみると、他の冒険者も火食い鳥をマジックバッグに次々と入れ始めていた。


 これは……火食い鳥の争奪戦になっているみたいだ。私は急いで火食い鳥を見つけてはマジックバッグに入れ始めた。だけど、火食い鳥に目をつけている冒険者が沢山いるせいか、周りから火食い鳥の死骸がなくなりつつある。


 周囲を見渡しても、火食い鳥の姿は見えなくなった。私のマジックバッグの中はあと四分の一は入れられる。こんなに討伐を頑張ったんだから、臨時報酬は沢山欲しい。


 残りのスペースには何を入れたほうがいいんだろう。しばらく黙って考えていると、私の目にワイルドウルフの死骸が目に入ってきた。


 ワイルドウルフ……そうだ! ワイルドウルフから毛皮を剥ぎ取って、毛皮だけをマジックバッグに入れれば省スペースに沢山の素材を入れれるんじゃないかな。ここで、魔物解体の技術が役に立つとは……仕事はなんでもやってみるものだね。


 私はマジックバッグに入っていたナイフを手に取ると、ワイルドウルフの毛皮を剥ぎ取り始めた。


 ◇


「それでは、魔物の焼却を始めます! 火魔法を使えない冒険者は魔物を集めてください、火魔法を使える冒険者は集めた魔物の山に火を放ってください」


 素材採取は終わり、次に魔物焼却の仕事になった。火魔法を使えるのは二十五人程度で他は魔法が使えない冒険者だ。その他の冒険者が魔物を集め始めた。


 ある程度集めたら火魔法で燃やし始める。その繰り返しをずっと続けていくと、辺りには幾つもの炎の柱ができあがり、なんとも言えない肉の焼けた匂いが漂ってきた。


 あんまり美味しくないような匂いだ、匂いを嗅いでいるのがちょっと辛くなる。だけど、それを我慢して次々とできる魔物の山を燃やしていく。


 その作業を昼食後も続けていき、魔物の焼却を終えたのは夕暮れ間近になった頃だ。結局今日一日は倒した魔物の処分に時間を費やしてしまった。


 作業が終わるとまたギルド員が話を始める。


「作業お疲れさまでした。本来ならここで野宿をして、翌日に出立する予定でしたが、この場に一晩残るのも気分的に良くないと思います。なのでこれから馬車に乗り込み、この場所を離れたところで野宿をします」


 良かった、ここで野宿するってなったらどうしようかと思った。まだ魔物の焦げた匂いが充満しているし、早くこの場所から立ち去りたい。


 ギルド員が用意した馬車に乗り込むと、魔物を焼いた所から離れることができた。


 ◇


 野宿した次の日の朝、朝日が昇るとギルド員が声をかけ始めた。


「一時間後に出発します。朝食を取る人は早めに取ってください」


 そんなギルド員の声に目覚め、目がしょぼしょぼする内に朝食を食べ始める。他の冒険者ものろのろと活動し始めて、朝食を取り始めた。


 それから一時間後、朝食を取り終えた私たちは馬車に乗り込み出発した。コーバスに到着するのは三日後、来る時よりも倍近くかかっているのは帰りの馬車はのんびりと進むからだ。


「良かったですね。町があったら一泊してもらえるんですね」

「でも、この人数が泊まれる宿屋があるかどうか分からねぇぞ。百人は超える人数だからな、そんな宿があるのはそれなりに大きな町だけだ」


 ギルド員がいうには、帰り道は町を経由していくらしい。そうすると、町の宿に泊まれるので野宿をする必要がなくなる。そのことに喜んでいたけれど、ラミードさんのいうことも頷ける。


「だったら、宿屋は早い者勝ちか……」

「町に着いたら速攻で宿屋を探しに行かねぇとな」

「知っている町に行きますように」


 切実に宿屋に泊まりたい、そんな思いがひしひしと伝わってくる。野宿は魔物討伐の時に何度もしたから慣れているけれど、やっぱりベッドの上で眠りたい。それに着替えもしたいし、温かい食事も食べたいな。


「これは競争になりそうですね。私だって宿屋に泊まりたいので、負けません」

「俺も宿屋に泊まりてぇけど、難しそうだな」

「僕は絶対に宿屋に泊まるよ。野宿なんて体が痛くなるから、あんまり好きじゃないんだよね」


 話に混ざってきたタクト君は膜を張った水に包まれながら、振動のない馬車の旅を堪能していた。みんなが羨ましそうに見る中、タクト君は全く気にする素振りを見せない。


 タクト君の態度は変わらないが、馬車の空気は変わっている。戦う前はあんなにピリついていた空気が柔らかくなっているのだ。これもみんなで協力し合ったお陰だよね。帰りの馬車の中は快適だ。


「そういえば、タクト君。その魔法のやり方を教えてください?」

「これ? こんなの覚えてどうするの? もっと強い魔法のやり方を覚えたほうがいいんじゃないの?」

「なんだか気になってしまって」

「呆れた、こんな魔法を覚えるよりももっと有意義な魔法を覚えればいいのに。だから、君の魔法は中途半端なんだよ」


 タクト君が結構キツメなことを言っているが、馬車の空気は悪くはならない。口は悪いけれど、悪い人じゃないっていうことをみんなが知っているからだ。


 ため息を吐いたタクト君は呆れたように口を開く。


「……まぁ、教えてもいいよ。こんなので良ければ」

「はい、お願いします」


 帰りの馬車の中は終始穏やかな時間が過ぎ去っていった。

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