236.領主クエスト、魔物駆逐作戦(11)

「うりゃああぁっ!!」


 ゴーレムの胸に現れた魔石に冒険者が斧を振り下ろす。


 ビキッ!


「ちっ、まだだ! もう一撃が必要だ!」


 魔石に大きなヒビが入ったが、割れなかった。すると、ゴーレムの動きが激しくなり斧を持った冒険者を殴り飛ばす。魔石を傷つけられて興奮しているゴーレムは手あたり次第に殴り始めた。


「あんな中、どうやって近づけばいいんだ」

「でも、いかないと倒せないぞ」

「お前が行けよ」

「俺は……ちょっと無理だ」


 一層激しくなったゴーレムの動きに他の冒険者は引き気味だ。このままでは、激しく暴走するゴーレムの餌食になってしまう。早くなんとかしないと!


「タクト君、援護をお願いします!」

「分かった、任せなよ」


 杖を構えて魔力を高めるタクト君。しばらく待っていると、魔法が発動した。


「まずは身動きを止める、いっけぇ!」


 凄まじい冷気を感じると、冷気はゴーレムの下半身に向かっていった。ゴーレムの下半身にまとわりついた冷気は氷になって、地面とゴーレムの下半身を凍らせた。そのお陰でゴーレムはその場から動けなくなる。


 その隙に私は身体超化をしてゴーレムに立ち向かった。ブンブンと振っている腕に当たらないように、ゴーレムに向かってジャンプした。


「はぁぁっ!」


 ひび割れた魔石に全力の一撃を振るった。


 パリーンッ!


 魔石は真っ二つに割れた。すると、激しく動いていたゴーレムの腕が止まり、脱力する。しばらく棒立ちだったゴーレムは頭の先から石ころになって崩れ始めた。


 ゴーレムの上半身が石となって崩れ落ちると、周辺にいた冒険者たちは歓声を上げる。


「やった、ゴーレムを倒したぞ!」

「よーし、よしっ!」

「よっしゃぁっ!」


 近くにいた冒険者たちは飛び上がって喜んでいた。ふぅ、なんとかなって本当に良かった。剣を収めてタクト君に近寄る。


「援護ありがとうございました」

「僕のお陰でゴーレムを倒せたようなものだね」

「そうですね、あれがなかったらこんなに早く倒せなかったです」


 タクト君の氷魔法がなかったら今頃どうなっていたんだろう、少なくとも一撃では倒せなかったと思う。二人で話していると、斧を持った冒険者が支えられながら近づいてきた。


「二人とも、助力に感謝する。お陰でここにきたゴーレムを倒すことができたよ」

「力になれて良かったです。私たちは持ち場があるので戻りますね」

「あぁ、そっちの仕事もあったはずなのに本当にありがとよ」


 お礼を言われた私たちはその場を立ち去り、元の場所に戻っていった。元の場所に戻ると、弱い魔物との戦いは終わっていてみんなが一休みしているところだった。良く見ると、ラミードさんも戻っていた。


「お前らお疲れさん」

「ラミードさんのところも終わったんですね」

「あぁ、なんとか協力して倒すことができた」

「僕の魔法のお陰でゴーレムを倒せたようなものだけどね」


 ラミードさんのところのゴーレムも倒せたみたいだ、これで現れたAランクの魔物は全て倒せたことになる。一時はどうなるかと思ったけど、なんとかなって本当に良かった。


 時刻はもう夕暮れだ、今日一日ずっと戦闘だったから体が疲れている。


「今日の戦闘は終了ですかね?」

「どうだろうな、一度スタンピードになると魔物は夜になっても活動を続ける。スタンピードの原因である赤い霧に魔物を興奮させる何かがあるらしいのが原因だ」

「げー、寝ずに戦闘を続けるの? そんなの無理だよー!」

「始めの波が終わったからな、次の波がいつ来るのか分からない」


 スタンピードを起こさせる赤い霧にそんな効果があったなんて知らなかったな。魔物は夜活動しないと思っていたけど、スタンピードは事情が違うみたい。


 じゃあ、今夜は寝ずに番をしないといけないのかな。暗がりの平原で魔物の姿が見えるか不安になってきた。見え辛いから同士討ちとかもありえそうだ、気を付けないと。


「次の波がいつくるか、きっとギルド員たちが確認してくれると思う。それまで俺たちはここで仮眠でも取ってればいい。他のところも戦闘が終わったみたいだしな、のんびりしようぜ」


 そういったラミードさんは自分のマジックバッグから食糧を取り出して、食べ始めた。良く見れば他の冒険者たちも早めの夕食を食べている。こういう時間を利用しないと食事もまともにできないよね。


「ふー、仕方ないなぁ。僕も食べよう」

「私も食べます」


 周りの様子を見て、私たちも食事を取り始めた。こんな時、美味しい食事があればやる気も満ちるんだけど、持ってきているのはパンと干し肉と干し果実と水だけだ。やっぱり、タクト君みたいに料理を持ってくるべきだったかなー?


 ◇


 食事を終えた私たちはその場で寝そべって休憩をした。次の波が来たらギルド員が教えてくれるみたいで、それまでは休んでいられるっぽい。ギルド員の言葉に甘えて、私は毛布に包まって地面の上で仮眠を取る。


 どれくらい寝たか分からないけれど、突然けたたましい鐘の音が響いて飛び起きた。


「次の波の魔物が来ます! 起きてください!」


 その声を聞き、頬を叩いて目を覚まさせる。毛布をマジックバッグに仕舞うと立ち上がった。当たりはまだ真っ暗、マジックバッグから時計を取り出すと、午前三時過ぎを差していた。


 次の波までしっかりと休めて体の調子がいい、だけど周りはまだ暗闇に包まれている。かろうじて輪郭は分かるが、その程度で戦えるのか不安だ。


 その時、一か所が明るく光った。


「こんなに暗いとやりづらいね。人もどこにいるか分からないし」


 そういうとタクト君が近づいてきた。


「この光を体にくっつけて。そしたら、居場所がどこにいるか分かるから、攻撃が当たらない」

「ありがとうございます。魔法でこんなこともできるんですね」

「まぁね。簡単な魔法だから、君でも扱えるかもね」


 そう言って離れていったタクト君は他の冒険者たちにも光の魔法を上げていた。あのタクト君が周りの冒険者のことを気遣っている? その事実にちょっとだけ信じがたい気持ちになった。


 すると、光を受け取ったラミードさんが近づいてきた。


「タクトの奴、ちょっと変わったか?」

「はい……今までだったらこんなことしないはずだと思います」

「まぁ、良い傾向だっていうことだな」


 この数時間でかなりの心の変わりようだ、でもお陰で冒険者同士がいがみ合わなくて済む。なんだか他人事のように思えなくて、ちょっとだけ嬉しくなった。


 この調子でみんなで協力して次の波も防ぎたい、そんな気持ちが溢れてくる。寝起きだけどやる気は十分だ。


「よーし、お前ら! 次の波の魔物もしっかりとせん滅するぞ!」

「おう! 俺たちの力を見せてやろうぜ!」

「何度かかってきても無駄だっていうことを教えてやろう!」


 ラミードさんが声を上げると、他の冒険者たちも呼応する。雰囲気はかなりいい、もしかしてタクト君の光の魔法のお陰かな? 結束力が強まった気がした。


 暗闇に包まれた今だからこそ、その結束力が強味になりそう。暗くてどんな魔物がくるか見えないけれど、気合は十分だ。そうだ、どんな魔物がくるか分かったほうがいいよね。


 私はタクト君と魔法使いの冒険者を集めた。


「このままだと魔物の姿が良く分かりません。なので、火魔法で攻撃して少しの間魔物の姿が見られるようにしませんか?」

「いいね、どんな魔物がくるか分かれば対応も楽になると思うよ」

「いいと思う。なら先手は我々が受け持った方がいいだろう」


 二人とも賛成してくれた。私はラミードさんにこのことを伝えると、ラミードさんも賛成してくれた。


「先制攻撃は魔法使いの火魔法だ! 火魔法で魔物の姿が露になるだろう、どんな魔物が来ているかしっかりと頭に記憶して戦えよ!」


 他のみんなにも周知してくれた、これで先制攻撃は私たちの火魔法となった。私たち三人は前に出て、魔物が近づいてくるのを待った。遠くから魔物の声が聞こえてきて、段々近づいているのが分かる。


 魔物との距離を図り、射程圏内に入るのを確認すると、三人で火魔法を発動させた。暗闇に浮かぶ巨大な炎は魔物たちに向かっていき、魔法を放った一帯は炎に包まれる。


 その炎に照らされて魔物の姿が露になる。ゴブリン、ワイルドウルフ、ポイズンアント、ロックリザード、飛びムカデだ。全部Cランク以下の魔物で構成されている。


「相手はCランク以下だ! 自分の力量にあった奴と戦え!」


 ラミードさんが声を上げると、冒険者は呼応して前に駆け出していく。二日目の戦いが始まった。

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