235.領主クエスト、魔物駆逐作戦(10)

 暴走し始めたゴーレムは地団駄を踏んで、目の前にいるラミードさんに襲い掛かった。荒々しい動きで腕を振り上げ、重い拳で殴りつける。


「うりゃぁあっ!」


 その一撃を剣で弾き飛ばすが、ゴーレムはそれでは止まらない。すぐにもう片方の腕を振り上げて、ラミードさんを殴りつける。その一撃もラミードさんが弾き飛ばした。


 激しい応酬が繰り返され、両者とも引かない。


「援護が必要みたいです。でも、魔法を打ったらラミードさんに当たる可能性が」

「だったら爆発は止めてあげるよ。その代わり、氷の刃をお見舞いしてやろう」


 タクト君が杖を構えて魔力を高めると、大きな氷のつららができあがった。


「ラミードさん! 氷の攻撃が行きます、気を付けてください!」

「おう!」

「行くよ!」


 タクト君が杖を振ると、氷のつららが物凄いスピードでゴーレムに向かっていった。真っすぐに飛んだ氷のつららは、ゴーレムの胸に直撃する。


「当たった!」

「やったか!?」


 巨体のゴーレムがよろけるほどの衝撃、期待に胸が膨らむ。ゴーレムを見守っていると、グラリと傾いた体が止まり、なんとか持ち直した。直撃はしたが、まだ威力が足りなかったようだ。


「ちっ、ちょっと外したみたいだね」


 ゴーレムの胸を見てみると、魔石にヒビが入ったように見えた。あともう少しの衝撃が欲しい。私も攻撃に加わろうか、そう考えた時ゴーレムがこちらを向いた。嫌な予感がする。


 するとゴーレムはラミードさんを無視して、こちらに駆けてきた。


「まずい! 弱点を攻撃されたから、そっちに標的が変わったぞ!」


 真っすぐこちらに向かってくるゴーレムは腕を振り上げた、攻撃が来る!


「そんな攻撃、防いでやる!」


 タクト君が杖を構えると、前方に魔法の壁ができあがった。これで防げて、お願い!


 近距離まで近づいてきたゴーレムが腕を振り下ろしてきた。そして、魔法の壁とぶつかり――


 パリンッ!


 魔法の壁が壊れた。


「なっ!?」


 驚くタクト君。そこにゴーレムがもう片方の腕を振り上げてきた、危ない! 私は身体超化をして、タクト君の前に立ち塞がった。剣を盾にして、足で地面を踏ん張る。絶対に受け止める!


 ゴッ!!


 ゴーレムの拳が剣に圧し掛かった瞬間、物凄い圧力が体にかかる。負けそうになる力を振り絞り、ゴーレムの一撃を防ぐことができた。なんとかタクト君を助けることができたね。


「うおぉぉっ!!」


 ラミードさんがゴーレムの横から襲い掛かった。剣を振り、胴体に一撃を当てるとゴーレムはよろめく。


「今の内に距離を取れ!」

「はい! タクト君、こっちへ!」

「う、うん」


 ラミードさんがゴーレムを引き付けている間に、私はタクト君の両肩を支えて離れた場所に移動させた。


「怪我はないですか?」

「だ、大丈夫。そっちこそ、その……大丈夫、だった?」

「はい、特別な力を使ったのでなんてことはないです」

「そ、そっか……」


 タクト君が無事だった今、気にしなきゃいけないのはゴーレムを足止めしてくれるラミードさんのことだ。弱点が見えているゴーレムを倒すチャンスだ、ここは助太刀しに行こう。


「私はラミードさんに助太刀しに行きます。タクト君は隙ができたらゴーレムに攻撃を仕掛けてください。もちろん、仕掛ける前に一言もお願いします」

「分かった」


 私はラミードさんの元へと向かった。ラミードさんは一人でゴーレムの攻撃を受け止めてくれている。


「ラミードさん、助けに来ました!」

「助かる! こいつの攻撃を受けつつ、隙ができるのを待つんだ!」

「はい!」


 ゴーレムの右側にラミードさん、左側に私。配置に付くと、身体超化をかけた。ゴーレムの攻撃が来る!


 腕を振りかぶり、拳を飛ばしてきた。それをラミードさんが強引に弾き飛ばす。今度は私の方に拳が飛んできた。体に力を入れて、その一撃を受け止める。重たい一撃だったけど、受け止めることができた。


 そうやってゴーレムは交互に拳をぶつけてくる。かなり早く拳をぶつけてくるので、攻撃するチャンスがない。むしろ、この攻撃を受け止めずに避けて攻撃に移ったほうがいい?


 また拳が飛んでくる。今度はそれを左に避けて、地面を蹴って飛び上がる。体の中心である魔石の高さまで飛び上がると、剣を振った。だが、その気配を察したのかゴーレムは体を傾かせて、魔石の直撃を避けた。


 私の剣はゴーレムの体にぶつかって、体が少し欠けたくらいしかダメージを与えられない。すると、今までラミードさんを殴っていた拳が私の方に向かってきた。着地した私はそれを後ろに飛ぶことで避ける。


「今のでも、ダメか。何か大きな隙ができなければ、今の様子のゴーレムに攻撃は通じない」


 ゴーレムの暴走ともいえど、戦闘狂のようになるのではないらしい。そこそこ知能が残っており、自分の弱点を守ることは考えているみたいだ。どうにかして、大きな隙をつくらなきゃ。


「二人とも、伏せて! 氷魔法が行くよ!」


 その時、タクト君の声が聞こえた、援護だ。すかさず私たちはゴーレムから距離を取ると、私たちの頭上を大きな氷のつららが飛んでいった。氷のつららはゴーレムの顔に当たり、その衝撃でゴーレムが仰け反った。大きな隙が生まれた。


「行くぞ、リル!」

「はい!」


 ラミードさんと一緒にゴーレムに飛び掛かる。剣を大きく振り上げたラミードさんが魔石目掛けて剣を振り下ろす。


「うおりゃあぁぁっ!!」


 剣先は魔石に届き、魔石に大きなヒビが入った。


「もう一撃入れてやれ!」

「はぁぁっ!!」


 ラミードさんが入れたヒビ目掛けて、全力で剣を振り下ろした。そして――


 パリーンッ!!


 魔石は真っ二つに割れた。


「やったか!?」

「ゴーレムは!?」


 私たちは着地をして、すぐにゴーレムを見上げる。身動き一つしなくなったゴーレムはしばらくの沈黙の後、石となって崩れていく。ゴーレムの体は完全にただの石となり、地面の上に積み重なっていた。


 私たちの勝利だ!


「よっしゃぁ!!」

「やったぁっ!!」


 Aランクのゴーレムに勝った! その喜びが全身に行き渡り、嬉しすぎてジャンプをした。やった、やったよ! みんなでAランクのゴーレムを倒したんだ!


 一人で喜んでいると、ラミードさんが近寄ってきた。


「よくやったな、リル! お前のお陰だ!」

「そんな、ラミードさんがゴーレムの相手をしてくれなかったら、今頃どうなっていたか」

「こんな時に謙遜なんかするな!」


 頭をわしゃわしゃと強く撫でられた、髪の毛がぐちゃぐちゃだ。と、そこへタクト君が近づいてくる。


「僕の魔法は役に立った?」

「おう、役に立ったぜ。タクトが魔法できっかけを作ってくれたお陰だ、ありがとよ」

「ありがとうございます」

「ふふん、そうだろ」


 自信ありげな顔をして胸を張った。絶好のタイミングで魔法が飛んできたから、私たちは勝てたと思う。うん、タクト君のお陰で勝てたようなものだよね。


「さて、俺たちのゴーレムは倒したみたいだが。他のところはまだ戦っているようだ。加勢に行くぞ」

「ここを離れてもいいんですか?」

「見たところ、新手は来ていないみたいだ。少しぐらいここをあけても大丈夫だろう。今はAランクのゴーレムを倒すことが優先だ」

「うげ、まだあいつと戦うの? 勘弁して欲しいよ」


 確かに勘弁してほしいが、倒さなければ領内に入ってしまう。それだけは何としてでも防ぎたい。なら、ゴーレムと戦える私たちが加勢に行くべきだ。


「俺は左の方へ行く。リルとタクトは右の方に行ってくれ」

「分かりました。ラミードさん、気を付けていってきてください」

「やれやれ、また戦うのか」


 気を利かせてくれたのか、私とタクト君が組むことになった。一緒に戦った仲だし、次のゴーレム戦もなんとかなるよね。


「それじゃ、行ってくるぜ」


 ラミードさんが駆け出して行ってしまった。私たちもゴーレムの元にいかないと。


「タクト君、急ぎましょう」

「僕まだ回復もしてないんだけど」

「魔力が枯渇しているんですか?」

「いや、まだ平気だけど」

「なら、急ぎましょう」

「ちょっと待って、引っ張らないで!」


 私はタクト君を手を引っ張って、ゴーレムの下へと向かった。

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