234.領主クエスト、魔物駆逐作戦(9)

 地面を揺らしながら、ゴーレムがこちらに近づいてきている。遠くからでもわかる、その巨体は威圧感がある。これがAランクの魔物……正直言って怖い。


「おいおいおい、マジかよ。なんでAランクの魔物が出てくるんだ」

「スタンピードが起こった山岳地帯に生息してたんじゃないか、だから」

「そんなこと聞きたいんじゃねぇよ!」


 一緒に戦っていた冒険者たちがあからさまに狼狽えていた。明らかに格上の魔物の登場に焦りが見え始めている。


「ゴーレムが三体か……その内の一体はこっちに真っすぐ向かっているみたいだ」

「ということは、あのゴーレムは私たちが相手にするってことなんですね」

「あぁ、そうだ。あいつを倒さないと領内が大変なことになるぞ」


 そうだ、私たちの後ろには何の力も持たない人たちがいる。ここで食い止めないと、ダメだ。怖がる心を奮い立たせて、勇気に変える。


「へー、あれがAランクの魔物か。初めてみるよ、なるほどねー」

「タクト君は平気なんですか?」

「ん? まぁ、僕は天才魔法使いだからね、こんなことじゃビビらないよ」

「頼もしいですね」


 タクト君は余裕があって羨ましいな。私にもそういう余裕が欲しい。


「あれと戦うって? 俺には無理だ、下がらせてもらう」

「俺も無理だ。悪いけど、俺も下がらせてもらうぜ」

「あぁ、無理はしないほうがいい。リルとタクトはどうする?」


 冒険者たちは戦えないと首を横に振って後ろに下がっていった。残されたのは私とタクト君、タクト君はどんな返答をするんだろう?


「僕は戦うよ。僕の実力はAランクに匹敵すると思っているから、ゴーレムなんて楽勝だよ」

「それは頼もしいな。リルはどうする?」

「……私も戦います。何ができるか分かりませんが、死力を尽くします」

「分かった。二人とも無理はするなよ、力が足りないと思ったら後ろに下がってもいい。俺がなんとかする」


 タクト君と私はラミードさんと戦うことにした。まだ怖いけど、ここから先へは行かせたくない。強い思いで自分の心を奮い立たせる。


「さぁ、奴がくるぞ」


 ラミードさんがこれ以上にない真剣な顔つきで剣を構えた。接近まで百メートル、するとタクト君が前に出る。


「僕の射程圏内だ、さっさと攻撃を当てさせてもらうよ」

「ゴーレムの弱点は体の中心にある魔石だ。そこを砕くと動けなくなる」

「体の中心ね、分かった。じゃあ、本気出しちゃおうかな」


 杖をゴーレムにかざすと、タクト君の雰囲気が変わった。物凄い魔力の高まりを感じると、杖の先に無数の火の玉が浮かび上がる。


「いっけぇぇぇっ!!」


 ドン、ドン、ドン、ドン!!


 火の玉は物凄い速さで飛んでいき、真っすぐにゴーレムに向かった。そして、火の玉が着弾すると大きな爆発音がする。ゴーレムの胸の辺りで火の玉が何度も爆発した。


「まだまだー!」


 タクト君の杖の先から、無数の火の玉が飛び出していった。火の玉は全部ゴーレムの胸に着弾して、大量の爆発を引き起こした。すると、ゴーレムが地面に倒れる。もの凄い衝撃だった、この連続魔法は凄い。


「はぁはぁ、どうだ!」


 肩で息をしているタクト君、強い魔法を連発したせいかとても疲れて見える。


「凄いぞ、タクト! あの攻撃はゴーレムに効いたと思う」

「凄いです、タクト君! ゴーレムが倒れましたよ」

「へ、へへ……どんなもんだい」


 もしかしたら、今の攻撃で倒したかもしれない。淡い期待を持ちながらゴーレムを観察していると、倒れたゴーレムがゆっくりとだが起き上がってきた。


「なんだよ、倒したと思ったのに」

「それだけ、ゴーレムが固いってことだ。でも、無傷ってわけじゃないみたいだぞ。見てみろ、胸の辺りがヒビ割れているぞ」


 起き上がったゴーレムの胸元を見てみると、大きなヒビが入っていた。あの大量の爆撃であそこまでの傷を負わせたというべきか、あそこまでしか傷つかなかったというべきか、どっちだろう。


「あれだけの傷を負わせることができれば、弱点の魔石までもう少しだ。倒しやすくはなったぞ」

「どんなもんだい」

「流石ですね、私も負けてはいられません」


 体の中心にあると言われている魔石まであともう少しだ。体にできたあの亀裂を上手く利用して、弱点の魔石を出したい。何かいい案はあるだろうか?


「俺がゴーレムを引き付ける。お前らは隙を見て胸元を攻撃しろ」


 そういったラミードさんはゴーレムに近づいていった。五メートルはあるであろうゴーレムの前にラミードさんが立つと、ラミードさんが小さく見える。それくらいゴーレムは大きかった。


 そのゴーレムがラミードさんを前にして、動き出す。腕を振り上げて、拳で攻撃した。


「ふんっ!」


 重い一撃だったのに、ラミードさんは剣で簡単に受け流して見せた。すると、胸元まで高くジャンプをして剣を振る。


「うらぁぁっ!」


 振りかぶった剣は胸元に重くぶつかり、またヒビが広まった気がした。見ている場合じゃない、私も攻撃をしないと。あのヒビを広げる方法か、壊す方法は……そうだ、氷を使おう。


「ラミードさん、魔法で攻撃します!」

「分かった。俺が引き付けている間に任せる!」


 ゴーレムは正面にいるラミードさんに向かって何度も拳をぶつけていた。ラミードさんが潰れる前に魔法で攻撃を開始しよう。


 魔力を高めて、前に掲げた手のひらの前に水球を作る。大きな水球を作ると、それをゴーレムの胸に向かって放つ。水球は胸に当たって破裂した。


「水なんてどうするの?」

「まぁ、見ててください」


 再度魔力を高めると、今度の魔力は氷魔法を発動させる。水のかかった胸に向かって氷魔法をぶつけた。すると、ゴーレムの胸は一瞬で氷漬けにされる。これで、あとは爆発させるだけだ。


「タクト君、一度だけ爆発魔法をゴーレムの胸に当ててください」

「あの状態で? まぁ、作戦があるならいいよ、やってあげる」

「ラミードさん! 爆発魔法を使います、一度ゴーレムから離れてください!」

「分かった! うおぉぉっ!!」


 拳を振り押してきたゴーレムの腕を剣で弾き飛ばした。その衝撃で仰け反ったゴーレム、胸元ががら空きになった。今がチャンスだ!


「くらえっ!」


 そこにすかさずタクト君が魔法を発動させた。杖から射出された火の玉は真っすぐにゴーレムの胸元に飛んでいくと、大きな爆発となった。その瞬間、ゴーレムの胸元の石も派手にはじけ飛んだ。


 爆発の火と煙が消えると、そこに現れたのは大きく胸元を抉られたゴーレムの体だった。よく見ると、違う材質で赤いものが見えている。あれがゴーレムの弱点でもある、魔石なんだろうか?


「今の爆発ではあんなに抉れることがなかったのに、どうして?」

「ゴーレムの体にあった亀裂の隙間に水が入り込み、それが氷となって一度固まります。氷は固まる時に膨張して中で亀裂を押し上げるんです。その時に爆発の力が加わると、膨張した氷の圧力によって亀裂の内部に衝撃が生まれます」


 前世の雪国にあった道路のコンクリートで起こっている現象を利用させてもらった。外からの圧力ではなく、中からの圧力を加えると石は呆気なく砕けてくれた。作戦成功だ。


「ゴォォォッ!!」

「まずい、魔石が外に出たことで暴走しはじめた! 早く仕留めるぞ!」


 ゴーレムの様子が明らかに変わった。動きが激しくなり、危険度が増した感じがした。


「弱点が出てきたんなら、大丈夫じゃない。速攻で終わらせてやるよ」

「様子が変わってます。気を付けて戦いましょう」


 タクト君は杖を構え、私は剣を構えた。あとはあの魔石を壊すだけだ、全力を尽くそう。

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