233.領主クエスト、魔物駆逐作戦(8)
ラミードさんは襲い掛かってくる火食い鳥を次々と一撃で仕留めていっている。順調な討伐の速さを見て、手を貸すのは余計だと感じた。ラミードさんは問題ない。
だけど、他の冒険者の二人は押されつつある状況だった。複数の火食い鳥を相手にしていて、手こずっているみたい。手を貸すならこちらのほうだ。
「あっちにいる冒険者二人に手を貸しましょう」
「えー、あの二人は僕に嫌味なことを言ってきた奴らじゃん。そんな奴、助ける義理はないよ」
普通はそうだよね、タクト君の気持ちは良く分かる。だけど、今はそれを許せる状況じゃない。どうにかしてやる気を出させないと。
「確かにそうですが、でも見返すチャンスですよ。ここで手助けをすれば、相手だってぐうの音が出ないはずです」
「まぁ、そうなったら面白いとは思うけど。でも、それだけのために手を貸すのはなんか嫌だな」
「そうでしょうか? タクト君が天才魔法使いだということが知られるのは、とても良いことだと思いますよ」
「天才魔法使い、か……うーん」
「天才魔法使いタクト君」
「……悪い響きじゃないね。しょうがない、僕の力を見せてやりますか」
よ、良かった……なんとかその気にすることができたよ。これでここの火食い鳥を一掃するチャンスが手に入ったね。みんなで協力すれば、この危機も乗り越えられるはず。
「そうそう、君は僕の補助をしてもらうよ」
「はい、いいですよ」
「よし、それじゃあ僕の命令に従ってね」
どんなことを要求されるんだろう、ちょっと怖い。火食い鳥と戦っている冒険者たちに近づくと、タクト君は杖を掲げた。
「準備するのは面倒だから、一気にやっつけるよ。リル、一緒に氷魔法を使って火食い鳥を凍らせるんだ」
「分かりました、氷魔法ですね」
「それ、行くよー」
タクト君は杖を向け、私は手を向ける。一緒に魔力を高めると、魔力を氷魔法に変換して放出した。冷たい冷気が勢いよく噴射して、それらは火食い鳥に降りかかる。すると、冷気が当たったところから火食い鳥は氷漬けにされた。
「どんどん、氷漬けにしていくよ」
タクト君がさらに魔力を高めて、噴射する氷魔法の勢いを上げた。私も負けじと放出する魔力を高めて、冷気の勢いを上げる。冒険者たちに向かっていた火食い鳥は無防備のまま、次々と氷漬けにされていく。
冒険者たちに集っていた火食い鳥が氷漬けにされ、動ける火食い鳥は残りわずかになった。残りは魔法が届かない氷漬けにされた火食い鳥の向こう側だけだ。
「こんなもんで大丈夫でしょ。あとは君が処理してよね。僕はちょっと休ませてもらうよ」
「分かりました。ちょっと行って手伝ってきます」
数えるほどになった火食い鳥、残りは剣で討伐しよう。タクト君の傍を離れると、残りの火食い鳥に立ち向かっていった。
「手伝います!」
冒険者たちに自分のことをアピールした。冒険者たちはこちらを振り向いて、頷いたような気がする。とりあえず、攻撃しても大丈夫だよね。
右手に剣を持ち、左手に水球を作り出す。残りの火食い鳥は六体だ、数は多いがなんとかするしかない。左手で作った水球を大きくすると、それを火食い鳥にぶちまけた。
空中で破裂した水球の水が火食い鳥に降りかかる、三体をずぶ濡れにすることができた。もう一つ水球を作り、残りの三体にも水球をぶちまけてずぶ濡れにする。これで準備が完了だ。
ずぶ濡れになった火食い鳥はあからさまに脱力した様子だった、これだったらいける。火食い鳥に襲い掛かると、首目掛けて剣を振るった。動きの鈍くなった火食い鳥はそれをかわすことができず、呆気なく首が飛んだ。
それでも火食い鳥は攻撃を仕掛けてくる。私が姿を現すと今度は私が標的になり、火食い鳥は口から火を噴射してきた。かなり離れていても届くくらい、その火の勢いは強い。移動することで火から逃れることはできたが、火食い鳥は頭を回して私を追いかけてきた。
私は真正面から立ち向かい、魔法の壁を築く。すると、火食い鳥は魔法の壁に向かって火を噴射させた。ここが好機だ、私は身体強化をして高くジャンプした。そして、空中で一回転すると火食い鳥がこちらに向く前に剣を振り下ろす。火食い鳥の首が飛んだ。
その時、他の火食い鳥が私を睨んだ、まずい火が来る。手をかざして急いで魔法の壁を作ると、すぐに火が飛んできた。なんとか間一髪、火の攻撃を防ぐことができた。
火を魔法の壁で防ぎながら、頭上高くに水球を生成していく。水球が作られると、それを火食い鳥にぶつけた。瞬間、火が消える。攻撃するチャンスだ、すぐに魔法の壁を解いて真っすぐに火食い鳥に切りかかった。
「はっ!」
細長い首に向かって剣を横一閃に振る。すると、火食い鳥の首は切り落とされ、残った体は脱力して地面の上に転がった。残り三体、どうなったか見てみると、他の冒険者が丁度倒したところだ。
こちらの火食い鳥は全て倒した。ラミードさんを確認してみると、残り四体だった。あっちはラミードさんに託しても大丈夫そうだ。ようやく一息つけそうだ。
すると、先ほどまで戦っていた冒険者たちが近づいてくる。
「手伝ってくれてありがとよ」
「お陰で助かったです」
「どういたしまして。タクト君も手伝ってくれたんですよ」
「げっ、あの小僧が?」
「嘘だろ」
タクト君の名を出すとあからさまに嫌そうな顔をした。だけど、それはまぎれもない事実だ。タクト君が嫌なことを飲み込んで手伝ってくれたのだ。
「あんなことがあったのに、タクト君は手伝ってくれました。だから、もういがみ合いはやめませんか? タクト君は口は悪いですが、根はそんなに悪い子じゃないと思うんです」
「そ、そうだが……それにしてもあの小僧がな」
「信じられん」
冒険者たちは戸惑っているみたいだ。まぁ、そうだよねあんなに言い合っていたタクト君が手伝ってくれたんだもの、信じたくはないだろう。でも、それはこれっきりにしたい。
「一言だけでいいですから、タクト君に感謝を伝えてくれませんか?」
「な、なんで俺たちが」
「まだ、戦いは続きます。いがみ合ってばかりいないで、協力する道を模索したほうがいいと思うんです」
「まぁ、そうだけどよ」
「お願いします。一言でいいので、感謝を伝えてください」
頭を下げてお願いすると、冒険者たちはタジタジになった。この人たちだけでもいいから、タクト君が本当は悪い子じゃないって知っておいて欲しい。
「わーったよ、一言だけだからな」
「しょうがねぇな、俺たちが大人になってやるよ」
「ありがとうございます!」
なんとか私の言葉が届いた。冒険者たちは渋々と言った感じでタクト君に近づいていった。
「……なんか用?」
「その……助けてくれてありがとな」
「お陰で無事にすんだぜ」
冒険者はその一言を伝えると、気まずそうに顔を逸らした。タクト君はというと、凄く驚いた顔をして呆けていた。それでも、すぐに我に返り、ちょっと居心地が悪そうにそっぽを向いた。
「ふん、これで僕の実力が分かったか。まぁ、分かったなら……いいよ」
どちらともギクシャクはしているけれど、これで少しはわだかまりがなくなるといいな。
◇
「お前ら、手伝ってくれてありがとな。俺たちのところの火食い鳥はせん滅できたぜ」
残りの火食い鳥を討伐し終えたラミードさんが戻ってきた。周囲を見てみると、火食い鳥との戦闘はまだ終わっていないらしい。ということは、私たちが一番にせん滅し終えたっていうところかな。
「後ろの奴らも根性みせているじゃねぇか。あと十数体でせん滅できそうだな」
後方を見てみると、残りの魔物は数えきれるほどに減っていた。これなら手伝わなくても大丈夫そうだ。
「奥のほうでは……新手か。休む暇もないな」
火食い鳥が来た方向を見ると、何かが近づいてきているのが見えてきた。
「ちょっと、待て。あれは……」
その物を見てラミードさんは顔色を変えた。遠くから近づいてきているものはとても大きなもので、ゆっくりと近づいてきている。見たことのない魔物だ。
それがだんだん近づいてくるので、その姿が露になる。
「Aランクのゴーレムじゃねぇか!」
現れたのはAランクのゴーレムだった。ここに来て、Aランク? 噓でしょ。
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