227.領主クエスト、魔物駆逐作戦(2)
その子は赤茶色の髪を肩まで伸ばし、後ろで一本に結んでいる。背丈は私と同じくらいで、大きな杖を片手に持っていた。
「なんで、ここに子供がいるのさ」
「えーっと、私のこと?」
「そうだよ。これはお遊びの討伐じゃないんだから、やめておいた方が身のためだよ」
子供がいると分かってから、その子は私に突っかかってきた。これはどう対応するのがいいんだろう、悩ましい。
「おいおい、お前も子供じゃねぇか」
助かった、ラミードさんナイス! そうそう、私もそれが言いたかったんだけど、なんとなく言えなかった。すると、その子供はあからさまに不機嫌そうな顔をする。
「僕はいいの。天才魔法使いなんだから、どこにいたって歓迎されるんだ」
「でも、子供には変わりねぇじゃねぇか」
「僕は子供だけど子供じゃない。分かる、この意味?」
「うわっ、なんだこいつ」
ラミードさんが顔を顰めるくらい癖のある子供だった。
「僕の名前はタクトだ、覚えておいて損はないよ。偉大な男になる人だからね」
自信ありげに胸を張ってみせた。なんていうか、個性的な子供だなぁ。
「おい、乗るんなら早く乗ってくれ。後ろがつかえているんだ」
「あぁ、ごめん」
あ、でもちゃんと謝れるんだ。ちょっと態度が大きいけど、そんなに悪い人じゃないのかな? タクトくんが馬車の奥に進むと、一番奥の席に座った。もちろん、一番奥にいた私の目の前にだ。
「ほら、帰るんなら今の内だよ。スタンピードと戦うんだ、生半可な強さじゃ死んじゃうよ」
「お気遣いありがとうございます。でも、大丈夫です。私もそれなりに力はあると思います」
「いるんだよなー、力を過信する奴。言っとくけど、助けてって言われても助けられるとは思わないで欲しいな」
なんか、すっごく突っかかってくる。隣に座ったラミードさんを見てみれば、頭を片手で抱えていた。その気持ち、分かる。
「言っとくけど子供だからとか、女だからとか、そういうひいき目で見ないからね」
「はい、大丈夫です」
「なにそれ、生意気。大丈夫です、っていう人ほど大丈夫じゃないんだよ。そういう人に限って足を引っ張ってくるんだから、本当にやになっちゃうよ」
フン、と鼻を鳴らしてそっぽを向いてしまった。まぁ、ひいきなしで対等にしてくれるらしいから、やりやすくていいのかも。……本当にいいのかな?
「全員揃ったので出発します!」
馬車の外からギルド員の声が聞こえる。とうとう出発の時だ、なんだか緊張してきたな。
「ほら、帰るなら今の内だよ」
「大丈夫です。私は戦えます」
「それをいつまで言えるかな」
スタンピードは怖いけど、大丈夫。今回もしっかりと戦い抜こう。
◇
四頭立ての馬車は猛スピードで道を進んでいった。お陰で馬車の中は揺れが激しくて、酔ってしまう人もいるくらいだ。誰もが顔を顰める中、一人だけ余裕そうな顔をしている人がいる、タクトだ。
「何こっちをみているんだよ」
私はじっとタクト君を見ている。だって、水のクッションに包まれていて、振動をそれで軽減させている。何その魔法、全然知らない魔法だ!
「だから、なんだよ」
「その魔法すごいなって思って」
「この魔法が? こんな魔法よりももっとすごい魔法が沢山ある」
「えぇ、どんなのですか!?」
「攻撃魔法だよ、こんなところで使える訳ないだろう」
私はその魔法が凄いと思う、その発想はなかった。
「それって魔力層で水を閉じ込めているんですよね」
「そうそう、魔力を一定の濃度まで高めると魔力を手で触れるくらいの硬度を持つことができる。それを利用して水を閉じ込めて、クッションにしているわけさ」
魔力の壁、みたいな原理だと思う。魔力の濃度を高めると触れることができるのか、その原理は私には分からない。でも、そうなるって分かっているんなら利用する価値はある。
私は両手を器のようにして、まず宙に水を浮かべた。そして、それを魔力で囲い、水の周りの魔力を高めていく。しばらく魔力を注いでいると、水を魔力で封じることができた。
恐る恐る触ってみると、触れた。だけど、魔力層は固いままで、タクト君みたいに柔らかそうじゃない。
「タクト君みたいに上手くはいきませんね」
「これもそれなりに高度な魔法だからね、凡人が見よう見まねでやろうとしてできるはずがないよ」
「何かコツとかありますか?」
「それは自分でなんとかしてごらん。僕だって頑張ってこの魔法を編み出したんだから、簡単には教えないよ」
うぅ、残念。そうだよね、そう簡単には魔法は教えられないよね。どんな原理で魔力層があんなふうに変幻自在になるんだろうか。考えても全然思いつかない。
「なんだか、お前ら仲良くなってないか?」
「へっ、いやそんなことはないと思いますが」
「そいつと仲良くなるはずがあるわけない」
「はいはい、そうかよ」
ラミードさんは突然どうしたんだろう。私とタクト君が仲良し、全然そんなことないのに、どうしてそんな風に見えたんだろう。んー……でも仲良くなったら教えてくれるかな。
でもなぁ、癖の強い子だしすぐには仲良くなれなさそうだ。そういえば、タクト君って幾つくらいなんだろう?
「そういえば、タクト君っていくつなの?」
「わざわざ年齢を聞く? まぁ、いいけど……十四だよ」
「私よりも一つ年上だね」
「年下なら年上のことを敬ってよねー」
「あ、そういえば名前言ってませんでしたね。私の名前はリルっていいます」
「聞いてないってーの! もう、なんなんだよ。僕は寝る!」
水クッションに包まれながら、タクト君は寝てしまった。寝ていても水クッションが維持できているんだから、凄いよね。それとも常時発動の魔法じゃないのかな。それだったら、どうやって維持しているんだろう。
うーむ、と寝ているタクト君を見ながら考える。
「お前らこの振動の中、とことんマイペースだな。羨ましいよ」
「そうですか? 馬車の中ってやることなくて暇なんですよね。ラミードさんも一緒に考えますか、水クッション」
「いや、いい。お前らには付き合ってられんわ」
はぁ、と重いため息を吐くラミードさん。それに呼応したように、他の冒険者たちも同じようにため息を吐いた。
そっか、水クッションのこと一緒に考えてくれたら嬉しかったんだけどな。一人で考えるしかないか、うーん。
◇
激しい揺れが続く馬車はずっと走り続けた。途中休憩はあったものの、わずかな時間だけ休憩してすぐに走り始める。馬は大丈夫なんだろうか、と心配したほどだ。
でも、馬も大変だけど乗っている冒険者も大変だった。ずっと激しい揺れの中、到着まで黙っているのが苦痛。酔う人も出始めて、空気は最悪だった。
馬車が止まったのは、日が暮れた夜。馬車が止まると、みんな馬車から飛び降りて、地面に寝転がった。死屍累々って感じだった。かくいう私も振動で体が痛くなっていた。
ただ一人だけ元気な人がいる、タクトくんだ。
「こんな揺れに負けるなんて、まだまだだね」
振動で全く体力が削られていないタクトくん、そんな捨て台詞を吐いた。けど、誰も相手にはしなかった。まぁ、グロッキー状態で相手になんかできなかったんだけどね。
出発は日の出と共にらしく、みんな持ってきた食事をなんとか食べて、速攻で寝入ってしまった。そんな中、タクト君だけは美味しそうな出来合いの食事をマジックバッグから取り出して優雅な夕食を楽しんでいた。
いいなー、私も何日分かそういう食事を持ってくれば良かった。私は羨ましそうにタクト君をみながら、干し肉とパンを食べていく。
「そんな目で見ても、あげないよ」
フン、と鼻を鳴らして冷たくあしらわれてしまった。まぁ、仕方がない。私もこれを食べたらすぐに寝てしまおう。思ったよりも体が疲れている。
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