228.領主クエスト、魔物駆逐作戦(3)

 翌朝、朝日が昇るとすぐに朝食を食べて馬車は出発した。また激しい振動に見舞われながら、領の端まで急いでいく。次に馬車が止まったのは昼の休憩時間だった。


 みんなグロッキー状態で昼食を食べた後、再び馬車は走り始めた。そして、夕暮れの時に馬車がようやく止まる。領境にようやく着いたみたいだ。


 すると、同行していたギルド員の声が聞こえる。


「みなさん、一度お話したいと思います。下りてきてください」


 すると、みんながフラフラになりながら馬車を下りていく。ただ一人元気なタクト君を除いては。


「みんなだらしないなぁ。子供の僕がこんなにピンピンしているのに。魔物と戦う時はしっかりしてよね」


 なんて嫌味を言ってくるが、誰も相手にできない。馬車の短い旅はそれだけ過酷だったということだ。私も激しい振動でやられてしまい、あまり元気がでない。このままじゃいけないのに、ちょっと気持ちが焦ってしまう。


「リルでも馬車の振動はキツイか」

「ラミードさんは平気そうですね」

「いや、俺もかなり来ている方だ。こういう苦行には慣れているだけだ」

「経験値っていうことですか。これで私も経験値が溜まりましたね」

「はははっ、その意気だ」


 雑談をしながらギルド員の傍に行くと、話が始まる。


「みなさんには一定間隔を開けて離れて集団で待機してもらいます。とにかく、広範囲に魔物は押し寄せてきますので、来た魔物を討伐していただきます」


 自領に入れないためにはそうするしかないよね。みんなで固まっていたほうが安全だけど、これはそういう任務じゃない。どれだけ自領に入り込む魔物を少なくするかが問題だ。


「魔物が到着するまでまだ時間があるみたいです。その時まで体を休めてください。魔物の監視はギルド員で行います」


 それは助かる、このまま戦えって言われたらどうしようかと思っちゃった。体を休めることができると、しっかりと戦えると思う。


「それでは、合図があるまでお休みしてください」


 そういうとギルド員は集まって何かを話し始め、冒険者たちは散らばっていった。


「おい、同じ馬車の奴集まれ」


 すると、ラミードさんが声かけをしてきた。同じ馬車の人を集めて何をするんだろう。


「よし、集まったな。どうやらこのメンバーで固まって魔物を討伐するみたいだ。お互いのことを知らずに一緒に戦えないと思ってな、簡単な自己紹介でもやらねぇか? お互いの戦い方も知っておきたい」


 なるほど、お互いのことを知るために集めたんだね。お互いがどんな戦い方をするのか事前に知っていれば、自分がどう動いていいのか考えることができそうだ。


 ラミードさんの発案で、それぞれが簡単な自己紹介をすることになった。名前、得意な武器や攻撃方法、今までの戦歴。それぞれが簡単に説明を始めた。そして、自分の番がやってきた。


「リルと言います。武器は片手剣と魔法を使うことができます。今はCランクです。えーっと、Bランクのズールベアを倒せるくらいの力を持っています」

「子供がズールベアを? 上位ランクの魔物を倒せたのか? まぐれじゃなくて?」

「はい、証拠は出せませんが、魔物が来たら力を証明できると思います」

「こいつは子供に見えるが、かなり強い部類に入っている。以前、ネームドの魔物が出た時にトドメをさせるくらいの力も持っている」

「ネームドのトドメだって、凄いな」

「子供なのに、どこにそんな力が……」

「こいつに関しては問題ない。Aランクの俺が保証する」


 ラミードさんの助けもあって私の紹介は終わった。どうにか私にも戦える力があるって分かってくれたみたい、まだ信じられないっていう顔の人はいるけれど、現場でそれを証明できたらいいな。


 あと自己紹介は一人だけ、タクト君だけとなった。


「こんなの必要ないと思うけど、話に乗ってあげるよ。名はタクト、魔法使い。今はCランクだけど、実力はAランクはあると思うよ。せいぜい、僕の足を引っ張らないでね」


 すごい、大きくでたな。実力がAランクあるって言っているけれど、そんなに凄い魔法使いなんだ。子供なのに凄いな。


「けっ、子供のくせして生意気な」

「そんな力どこにあるんだよ」

「お前こそ実力がないんじゃないか?」


 タクト君の態度が悪いから野次が飛んできた。でも、タクト君はそ知らぬ顔をして、肩をすくめた。


「まったく、実力も分からない大人だらけにやになっちゃうよ。おじさんたちが助けを求めても、助けてあげないんだからね」

「それはこっちのセリフだってーの」

「お前こそ、泣いて許しを求めても誰も相手にしてくれねぇぞ」

「逃げるんなら今の内だぞ」

「はー、やれやれ」


 タクト君に対して他の冒険者が怒りを隠せないみたいだ。タクト君ももう少し協調性を持って発言してほしいんだけど、どうしてあんな発言になっちゃうのかな?


「まーまー、お前たちが大人になれ。ここでやり合っても仕方がないだろう?」

「そうだ、今やり合ったらいいんじゃない? そしたら、僕の実力が分かっておじさんたちも静かになるし」

「なんだと!?」

「ほら、向こうもやる気十分みたいだよ」

「はぁ……お前たちやめないか。タクトも」


 他の冒険者たちは怒りが収まらないみたい、その一方でタクト君は全く相手にしてないみたいだ。その態度も良くないのか、火に油を注いでいるようだった。


「とにかく、これでお互いのことが知れたと思う。戦闘中はお互いのことを補い合って戦ってくれ。そうすれば、戦いやすい戦場にはなるだろう」


 場を取り仕切るラミードさん。その言葉にみんなが矛を収めて、なんとか場は収まった。だけど、雰囲気は良くなくてピリピリと張りつめていた。こんなんで、戦いの時になったらどうなるんだろう。


 戦いが始まったらラミードさんだって取り仕切ることよりも、魔物討伐に力を注がなきゃいけない。誰かが指示なんてできない中でそれぞれの判断で戦わなきゃいけないんだ。


 そのために連携を取るのが一番だと思うけれど、今の状態で上手く連携がとれるか心配だ。でも、どうしたら連携をとれるようになるんだろう? お互いのことを軽く知っただけじゃダメだよね。うーん。


「なぁ、リル」

「なんですか?」

「タクトにもっと協調性を持って、みんなと接してくれるように言ってくれないか? 年齢の近いお前のほうが聞く耳を持ちそうだからよ。このままだと上手く連携がとれねぇわ」

「私もそのことは危惧してました。このままだと連携が取れずに、まともに戦えないと思います。私からタクト君に働きかけてみますね」

「頼んだわ。俺はあいつらと話してくる」


 そういったラミードさんは怒りの収まらない冒険者を集めて、何かの話を始めた。さて、私はタクト君だね。


「タクト君」

「なんだよ。まさか、お前が僕とやり合うつもりなのか?」

「そんなことはしないです。タクト君にお願いがあります、もっとみなさんと仲良くできませんか? このままだと、いざ戦いになると連携が取り辛くなってまともに戦えなくなります」

「連携?」


 首をかしげて不思議そうな顔をする。


「そんなもの、僕には必要ないよ。あ、分かった。そんなこと言って、僕の力をあてにしているんだろう」

「あてにしているからこそ、みんなで連携をとったほうがいいと思います。いざという時に連携をとれないと大変なことになります」

「そんなにいうんだったら、みんなが僕に合わせてもらわないとね。なんてったって、僕はAランクに匹敵する力を持っているんだから」

「タクト君もみんなに合わせてくれませんか?」

「僕が? なんで? 実力がないほうが合わせるべきだと思うんだけどな。だって明らかに、僕の方が強いし」


 ダメだ、全然話を聞いてくれない。話を聞いてくれないどころか、自分の方に合わせろと要求してきた。これは、どうしよう。


「タクト君が強いのは分かりました。でも、もっと強くする方法があります。みんなと連携して戦うことです」

「連携しても強くはならないと思うなー。だって強さは個々で違うものだろう? 集団で戦うだけで個々の戦力が上がるとは思えないし、やっぱり僕は僕らしく戦うことにするよ」

「え、タクト君!」

「はいはい、僕は休むから。じゃあねぇ」


 ……行っちゃった。全然話を聞いてくれなかったな、本番の時どうしたらいいんだろう?

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