225.魔物解体(3)

 次々と運ばれてくる魔物を捌き、素材に変えていく。今日は枝肉加工の作業が多くて、血の匂いが部屋に充満してちょっとだけ気持ちが悪い。


「ブラックカウ−十三頭入りましたー」

「うへー、誰だよそんなに狩った奴」

「何日分ため込んでたんだー?」

「畜生、どんどん捌いてやるぜー!」


 うわっ、ブラックカウが十三頭もか、これは大変だ。でも、メルクボアじゃなくて良かった。メルクボアは体が大きいから、破棄する内臓もいっぱいあるから大変なんだよね。


 愚痴を言っても始まらない、どんどん捌いていかなきゃ残業だ。


 黙々と魔物を解体して、いらないものをマジックボックスのごみ箱に入れていく。すると、中から捨てたものが溢れだした。


「あ。すいません、こっちのごみ箱いっぱいになりました」

「何っ、もうそんなに解体したのか。早いな」

「ということは、俺らのごみ箱もそろそろいっぱいになるな」


 私の声でみんなの手が止まり、そして笑顔になった。


「よし、みんなでごみ捨て場に行くぞ!」

「焼却の魔法使い、呼んでこーい」


 ごみ箱がいっぱいになると、ごみを捨てにいかなきゃいけない。生ごみだから焼却しないといけないので、火魔法が得意な魔法使いでごみを焼却してもらうのだ。


 それで、そのゴミ捨て場は町の外にあるので、外に捨てに行かなければいけない。というわけで、ごみ捨ての時は少しの間解体から離れることができる休憩時間のような仕事だ。


「いやー、これでしばらくの間解体から離れることができるぞー」

「外の新鮮な空気、吸いてー」

「腕や腰がバキバキだぜ」


 ピリピリしていた空気がいきなり穏やかになった。それだけ仕事が大変だということだ、私も気を抜くことができる。まずは倉庫から台車を持ってこよう


「よっしゃ、マジックボックス運ぶぞー」

「台車持ってきました」

「俺も台車持ってこよう」

「外が楽しみだなぁ」


 みんなでわらわらと動き出すと、解体所はガラガラとした台車が動く音が響く。


 ◇


 台車にマジックボックスを乗せると、みんなで一緒に町の外に出ていく。通りを進み、門を抜け、しばらく歩いたところに専用のゴミ捨て場がある。


 大きな穴が空いていて、底には骨が大量に捨てられてあった。


「それじゃあ、穴に入れるぞー」


 二人でマジックボックスを持つと、中から大量の食べられない肉や内臓がどんどん出始めた。マジックボックスだから見た目以上に容量が入るため、出しているところを見ているだけでも少しだけ楽しい。


「リルー、そっち持って」

「はい」


 呼ばれていくと、一緒にマジックボックスを持ち、中身を穴にぶちまける。肉やら内臓やらが大量に出ていく。


「この瞬間はあんまり好きになれないな。折角の新鮮な空気が台無しだ」

「そうですね。早く燃やしてしまいたいですね」

「よーし、どんどん出ろー」


 数日分溜まっているので、出ていく数が半端ない。とめどなく出ていくごみをみながら、早く終わらないかと願うだけだ。


 そうやって、いくつかのマジックボックスから中身を穴にぶちまける。ものの十数分で全てを出し終わることができた。後は魔法使いが火魔法で処理するだけとなった。


「それでは魔法を使うので、離れてください」


 魔法使いがそういうと私たちは穴から離れた。魔法使いは杖を穴にかざして、魔力を高めていく。


「そーれ!」


 杖から大量の火がごみに注がれる。ごみはあっという間に炎に囲まれ、焼かれていった。


「よーし、帰るぞー」

「いやだー、まだ帰りたくないー」

「早く帰らないと、仕事が終わんなくて残業だぞ」

「それも嫌だー」


 みんなでダラダラとした足取りで町へと戻っていった。私ももう少し、外にいたかったな。あ、もしかして焼却するお手伝いをしたら外に残れたんじゃないかな。今度、言ってみよう。


 ◇


 臨時で入った魔物解体、とても大変な仕事だったけどどうにかこなせていけた。毎日のように運ばれる魔物はこうやって処理していたんだな、と分かって解体所のありがたみを知ったなぁ。


 それで今日が私の最後の仕事日となった。


「リルー……ずっとここにいていいんだぞ」

「まだ、仕事続けていてもいいんだぞ」

「冒険者なんてやめて、こっちに来いよー」


 朝から従業員に泣きつかれてしまった。


「あはは、ごめんなさい。Bランクを目指しているので、そんなに長くは続けられないんです」

「どうしてだ? ここでずっと働いていれば、いずれはBランクになると思うぞ」

「聞いた話によると、色んな仕事を受けていったほうがランクアップのポイントが多く貰えるそうなんです。だから、ごめんなさい」

「あーあ、振られちまったよ」


 目標でもあるBランク、それに少しでも近づくために色んな仕事をしている。そのお陰か、聞いた話によると私のBランクへのランクアップは折り返し地点を過ぎたみたい。他の人と比べて脅威の速さなんだって。


 ランクアップまで半分以下か……そうしたら私もこの町に住むことができる。目標が達成できるんだ、嬉しいな。


「お前たち、引き留めるのも野暮ってもんだ。気持ちよく送ってやりな」

「だが、我々の戦力が落ちるのは死活問題」

「リルの分まで頑張ればいいだろうが」

「人を増やせー、あと十人くらい増やせー」

「募集はかけているから、その内来ると思うから今は我慢しとけ」


 責任者が現れると、従業員は一斉に文句を言う。だけどそれもすぐに封じ込められた。


「リル、働いてくれて感謝する。最後の一日にはなるが、最後までしっかり働いてくれよ」

「はい、分かりました」

「最後だからな、Bランクの魔物の解体を教えてやれ」

「Bランクの魔物?」

「あぁ。ズールベア、オーガ、ワイバーンだ」


 ズールベアは知っているけれど、オーガとワイバーンは初耳だ。これも山に生息している魔物なのかな?


「ここで解体を知っておくと、冒険に出た時に役に立つ場面があるかもしれない。しっかりと学んでおけよ」

「そうですね、冒険先で素材だけ解体して持ってこれます。ありがとうございます」

「いいってことよ。世話になっているしな、最後もよろしくな」


 責任者はそれだけをいうと、部屋から去って行ってしまった。最後になって新しい解体か、楽しみだ。


「じゃあ、リルはこっちにこい」


 呼ばれていくといつも使っている作業台ではなく、いつもより大きな作業台の前に来た。


「Bランクの魔物はどれも大型のものばかりだからな、専用の場所を使うことにしているんだ」

「確かに、どれも大きそうでした」


 なんてったって、あのズールベアと並ぶランクの魔物だもの、大きそうだ。


「ズールベアの素材は爪、胆のう、肉。オーガは皮、角、心臓。ワイバーンは爪、牙、翼の被膜、心臓、肉だ」

「沢山の素材が取れるんですね。Cランクとは大違いです」

「それだけBランクっていうのは希少だっていうことさ。倒せる冒険者もCランクと比べればぐっと減る」


 そんな希少な素材を解体させてくれるなんて、本当にありがたい。それに戦う前に敵を知ることができて、丁度いいかもしれない。


「それじゃあ、始めるぞ。まずはズールベアからだ」

「よろしくお願いします」


 ◇


 一日かけてズールベア、オーガ、ワイバーンの解体を行った。入手できる素材が沢山あるから、解体する時は素材を傷つけないように慎重に解体していった。


 他の解体で慣れたと言っても、やっぱり新しい素体になると慣れない手つきをしないといけないのが大変だった。それでも、丁寧に教えてもらいなんとか解体をこなすことができた。


 これで私も一人前の解体者、らしい。


「おめでとう、リル!」

「一人前だな!」

「また働きにきていいぞ!」


 仕事終了後、一人前を褒めるためにみんなに拍手された。なんだか照れくさいな。また、臨時の募集があったら仕事を受けてもいいと思えるくらいには気持ちが良くなった。


 魔物解体もこれで終わりか、なんだか大変な仕事だったけどやってよかった。次はどんな仕事と出会えるんだろう。

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