219.商家の護衛(12)

「先生がやられた!!」

「こんな子供に……嘘だろ!?」


 Bランクの魔法使いが倒れたことによって、野盗集団は戸惑った。今が野盗集団を退治する絶好のチャンスだ!


「今です、野盗集団をやっつけましょう!」

「おう!」

「任せろ!」


 みんなで一斉に野盗集団に襲い掛かった。私は身体強化を施すと、剣の平らなところで野盗たちの頭を次々に叩いていく。


「ぐえっ!」

「ぶっ!」


 野盗と言っていた人たちは抵抗らしい抵抗もできないまま、次々に地面の上に倒れていった。手ごたえが全くない、ただの町民ならこの程度なんだろう。私は次々に野盗を昏倒させていった。


「なんだこいつら、全然歯ごたえがないぞ!」

「一方的じゃねぇか!」

「私の杖でも倒せるわよ!」

「リルの言っていたことは本当か!」

「だったら、全員やっつけましょう!」


 みんなもこの野盗集団の弱さに気づいたのか、遠慮せずに次々と倒していった。一方、野盗集団は自分たちの正体が知られたことに焦りを感じているみたいで、逃げ腰になっている。


「ひぃぃ、こ、こんなところで捕まるものか!」

「逃げろ!」

「逃げればわからねぇ!」


 一人逃げ出すと、他も一緒になって逃げ出した。みんな手に持っていた武器を捨てて、街道を逃げていく。


「こら、待ちやがれ!」

「待て、追う必要はない」

「なんでだよ!」

「ここにいる奴らに逃げた奴らのことを吐かせればいい。どうせ、牢屋行きだろうだからな」


 ニックさんが追おうとするとウルマさんが止めた。ウルマさんのいう通りだ、ここにいる人たちを締め上げれば逃げた人のことを話さずにはいられないだろう。


 街道を逃げていく野盗集団を見ながら私たちは剣を収めた。辺りを見渡すと、ものの数分で昏倒させられた野盗たちが転がっている。大体十人くらいだろうか? これくらいいれば、逃げた人の足取りも掴めるだろう。


「ボブさん、一度町に戻って野盗のことを相談しませんか」

「うむ、そうだな。町に戻って、この野盗共を警備隊に引き渡そう。連れていくから、馬車に乗せて欲しい」

「分かった。じゃあ、みんなでこいつらを馬車にぶち込むぞ」


 ウルマさんの指示で昏倒した野盗を馬車に乗せていく。大柄な男三人は重かったけれど、なんとか馬車に乗せることができた。乗せ終わった時、みんなが私の周りに集まった。


「リル、Bランクの魔法使いに勝つなんて凄いじゃないか」

「私では手も足も出なかった、リルのお陰よ。本当にありがとう」

「リルのお陰で助かったぜ、本当にありがとな」

「いえ、役に立ってよかったです」


 みんなに褒められて、なんだか照れ臭い。魔法の修行があったから、Bランクの魔法使いにも勝てたんだと思う。職場のみんな、ありがとう。


「それにしても、リルちゃん。どうしてこの野盗が町民だと分かったの?」

「声です。昨日私たちを見張っていた人たちの声にそっくりだったんです。それに野盗にしては体つきが貧相だったり、服装に汚れがなかったり……それで本当の野盗じゃないって気づけたんです」

「そうだったのか。リルのお陰で窮地を脱することができた、ありがとう」

「リルちゃんのお陰ね、本当にありがとう」


 ロザリーさんとウルマさんが笑顔を向けてくれるのが嬉しい。みんなのためになったかな?


「リルのおかげだ、やるじゃねぇか!」

「ズールベアを倒すだけじゃなくて、こんなことまでできるなんてリルちゃんって何者?」

「いやー、本当に良かった。あのままだったら降参してたから、リルのお陰だな!」


 ニックさんたちが近寄ると、わしゃわしゃと私の頭を撫で始めた。嬉しいんだけど、髪の毛がぐちゃぐちゃになっちゃったよ、もう。


「リルちゃん、守ってくれて本当にありがとな。おかげで、売り上げを奪われずにすんだよ。さぁ、町に戻ってこいつらを引き渡しに行こう」


 ボブさんにも褒められちゃった、えへへ喜んでもらえて嬉しいな。


 ボブさんが御者台に乗ると、馬に鞭を入れて馬車は町に向かって動き出す。私たちは元の定位置に着くと、馬車は進み始めた。


 ◇


 町に戻って警備隊の詰所に行った。そこで野盗集団と思われる町民を引き渡し、事情を説明する。警備隊の人たちは悩ませていた野盗集団が実は町民がなりすましたものだと知ってとても驚く。


 逃げた野盗については、捕まえた野盗に居場所を吐かせることとなり、みんな牢屋に入れられた。これでこの町を悩ませていた野盗集団は消え、平和が戻ったに違いない。


 話が終わる頃には夕暮れになっていたので、私たちはもう一度この町に泊った。そして、その夜は飲食店で野盗襲撃撃退を祝ってボブさんのおごりでお祝いパーティーをした。


 みんなではしゃいで食べる料理は美味しくて、みんなで楽しく話す話題は楽しくて、つい夢中になってしまった。夜遅くに宿屋に戻ると、すぐに寝入ってしまうくらいに楽しんだ。


 翌日、私たちはコーバスに向けて旅立った。ニックさんたちの提案で、ボブさんの護衛は交代でやることになった。なんでも、ズールベアを倒す力があるんだったら、普通の戦闘にも参加させたほうがいいらしい。


 とてもいい提案だったが、本音を聞くとただたんにサボりたいだけだったみたいだ。本当にあの人たちはしょうがないなぁ。でも、みんなに認められたみたいで、私はちょっと嬉しかった。


 というわけで、帰り道は場所を交代しながら進んでいく。帰り道も同じように魔物に襲われたが、目立った怪我もなく撃退できた。私が戦闘に参加すると、早く終わっていいとニックさんたちからは評判だ。


 そうしてコーバスに進むこと三日目、コーバスが見えてきた。日が傾き出したから早くいかないと暗くなっちゃう。馬車は少し早くなり、私たちの歩みも早くなった。


 そして、ようやくコーバスに辿り着いた。門のところで一旦止まると、ボブさんが私たちに報酬とクエスト完了の用紙を渡しだす。


「これはリルちゃんのね。少し多いけど、頑張ってくれたお礼だから、気にせず受け取って欲しい」

「ありがとうございます」


 渡された金額を見てみると、規定の金額よりも三割増しってところだった。いやいや、貰いすぎなんじゃないかな? ボブさんに訴えるが、ボブさんは笑うだけで差し出したお金を返された。


「じゃあ、今回の旅に付き合ってくれてありがとう。もし、また仕事があった時はぜひ受けて欲しい」


 そう言ってボブさんは馬車を動かして町の中に消えていった。その後姿を見送ると、ニックさんが声を上げる。


「じゃあ、今日は最後にみんなで食事でもしないか?」

「それはいいな」

「リルはどうだ?」

「一緒にさせてください」

「よっしゃ、最後にパーッとやるぞ!」


 ニックさんとルイードさんは肩を組んで先に行き、その後を苦笑いしたウルマさんとロザリーさんがついていく。私はというと、アルマさんに捕まっていた。


「リルちゃんの強い魔法の秘密、聞いちゃうんだから」

「秘密も何もないですよ」

「そんなこと言って、何か特別なことをしたんでしょ? 私も同じように強い魔法を使いたい」

「まぁ、鍛えていたことは確かですが」

「そういう話を聞かせてね。今日はもう離さないんだから!」


 ギューッと腕を掴まれて引っ張られる。どうやら普通の魔法使いよりも強い魔法を使っていたらしく、魔法使いのアルマさんに目をつけられたらしい。まぁ、秘密にすることもないし付き合おう。


 始めはどうなるか不安だったけど、一緒に冒険に出た人たちは気のいい人たちで気持ちよく仕事を終えることができた。誰かと一緒にする冒険も悪くない、かな。


 ◇


「あっはっはっ、最後は大変だったな」

「もう、アルマさんが離してくれなくて大変でした」


 翌日、護衛任務が終わったことをヒルデさんに報告するために、ヒルデさんを喫茶店に誘った。旅であったことを一通り話して、昨日の夜に起こったことを愚痴っぽく話した。


「まぁ、護衛任務は達成したみたいで良かったじゃないか。私以外の人と一緒にいると、リル自身どれだけ強くなったか分かっただろう」

「そうですね、自分って強かったんですね」

「全く、ようやく自覚したか」

「でも、まだまだです」

「まだいうか、お前という奴は。放っておいたら、ドラゴンを倒せるほどに強くなるんじゃないか?」

「流石にドラゴン退治までは強くなれないですよ」


 今回の旅で自分の強さを客観的に見ることができ、他の人と比べると自分は強かったんだな、と感じることができた。そっか、自分で強くなったんだ……そう思うとじわじわと喜びが溢れてくる。


「よし、それじゃあ私と冒険に行くか。どれだけ魔法が強くなったか見せてもらおうか」

「いいんですか? 明日から行きましょう!」

「帰ってきたばかりなのにいいのか?」

「もちろんです、疲れは全然ありません」

「大したものだな」


 やった、ヒルデさんと魔物討伐だ。ようやく魔法の成果を見せることができるよ、嬉しいな。


「急いで、明日からの食事を買いに行かないと。ヒルデさん、一緒にお買い物行きませんか?」

「いいぞ。オススメのお店を紹介してやろう」

「行きつけの場所ですか? お願いします。ヒルデさんが持ってくる食事も美味しそうなんですよね」


 明日からの準備をするために私たちは席を立った。明日からしばらく魔物討伐だ、沢山狩ってお金もランクアップのポイントも稼ぐぞ!

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