220.井戸掘り(1)
ヒルデさんと二週間くらい魔物討伐をした。強くなった魔法を見てもらい、これだったらBランクの魔物は簡単に倒せると太鼓判を貰った。まだCランクなのにそこまで強くなってどうするんだ、と小言ももらっちゃったけどね。
この二週間でかなりの数の魔物を討伐することができた。過去最高の討伐報酬を貰ったと思う。ヒルデさんと一緒にいくと嬉しくて、つい張り切っちゃった。まぁ、受付の人には驚かれちゃったのは申し訳なかったかな。
討伐が終わるとヒルデさんはしばらくはのんびり過ごすみたいだ。働かなくても生きていけるほどのお金をもっているらしいから、そういうところが羨ましくなっちゃうな。まぁ、そういう機会には恵まれないと思うから、私はいつも通りコツコツやっていこう。
魔物討伐から帰ってきて一日の休暇を取ると、すぐに次の仕事を探しに行く。早くBランクになって町に住みたいから、そのためにはあんまり休んじゃいられない。
久しぶりに朝早くに冒険者ギルドに並び、混雑したクエストボードの前でクエストを見ていく。私にできそうな仕事はあるかな。えーっと、ん? 体が小さい人、募集? これにしよう。
クエスト用紙を剥がして受付に並ぶ。しばらく待っていると、自分の番がやってきた。
「次の方、どうぞ」
「よろしくお願いします」
「あら、リルちゃんじゃない。久しぶり。はい、クエスト用紙と冒険者証ね」
顔見知りの受付のお姉さんだ。お姉さんはクエスト用紙を見て、質問してくる。
「どうしてこのクエストを受けようと思ったの?」
「体が小さい人募集って書いてあったので、私にぴったりかなっと思って」
「でも、力仕事でもあるけれど……まぁその辺は大丈夫そうね。ズールベアを倒しちゃうくらいなんだからね」
お話しながらお姉さんはクエスト受領の手続きをしていく。
「リルちゃんは本当に色々なクエストを受けてくれるから助かるわ。リルちゃんが十人いればいいのにね」
「ありがとうございます。頑張りがいがあります」
えへへ、褒められちゃった。色々なクエストを受けていたけれど、それは歓迎されているらしい。少しでも誰かのためになっているのだとしたら、嬉しいな。
「はい、手続きが完了したわ。この場所に行ってね」
お姉さんから地図を貰う。なるほど、町のちょっと外れにあるところだね。
「手続きありがとうございました」
「頑張ってね」
「はい!」
応援されるとやる気も漲ってくる。元気よく返事をすると、私は冒険者ギルドを出ていった。また、新しい仕事だ、頑張ろう!
◇
「あった、ここだ」
通りを進んでいくと、井戸の絵が書かれた看板を見つけた。もう一度貰った紙を確認してみると、同じ絵がかかれている、ここで間違いなさそうだ。
扉の前にいき、一度深呼吸をする。それから扉をノックした。すると、中から声が聞こえてくる。扉から少し離れて待っていると、扉が開かれた。
「何か用か?」
「冒険者ギルドからクエストを受領した者です。こちらが紹介状です」
出てきたのは四十台後半の男性。眠たげな顔をしていて、ぼんやりとした顔のまま紹介状を確認し始めた。
「へー、外の冒険者もやってるのか。なら、体力や力仕事は大丈夫そうだな」
「大丈夫です。力仕事だったら、身体強化も使えるので役に立てます」
「それはいいな。何せ掘る仕事だからな、力はあったほうがいい。それにちっこい、井戸を掘るには適しているな」
おじさんはこちらを下から上まで見ると、ニカッと笑った。それにしても、井戸を掘るのに小さい方がいいだなんてどういうことだろう? うーん、気になる。
「よし、採用だ。ちょっと準備してくるから、待ってろ」
「ありがとうございます。あ、昼食を買ってきてもいいですか?」
「昼食か、俺も買いに行きたいから一緒にいかないか?」
「なら、一緒に行きましょう」
「おう」
良かった採用になった。一通りやり取りをすると、おじさんは家の中に戻っていった。扉の横に寄りかかりながらおじさんがくるのを待つ。なんだかいい人そうで安心した、仕事頑張れそうだ。
ボーッと待っていると、扉が開いた。
「待たせたな、行くか」
おじさんは一つの鞄を持って出てきた。随分と荷物が少ないみたいだけど、大丈夫なのかな?
「荷物はそれだけですか?」
「ん、あぁこれはマジックバッグだからな。この中に必要なものが沢山入っているから大丈夫だ」
「そうだったんですか」
なるほど、マジックバッグだったんだ。それなら納得だ。
「それじゃあ、昼食を買いに行った後に井戸掘りを開始するぞ」
「はい、よろしくお願いします」
◇
おじさんと一緒に昼食を買いに行った後、私たちは町の外れへと向かっていった。おじさんは手に持った地図を見ながら、私を案内してくれる。
「この町はな中心地になるに連れて建物が多くなっていて、外側に行くと建物が少なくなっている。それは町の中心から開発が進んだからなんだ」
「確かにそうですね。外壁の近くだと殆ど建物がないみたいですし」
「この町を作った当時、いずれ住む人が多くなることを見越していたんだ。外壁を広くとって建築がされたらしいぞ」
外れの方にいくと、建物も疎らになってきた。余分な土地があるってことは、この町は人が増えてもまだまだ余裕があるということだ。考えられて町が作られているんだと実感した。
「んで、今から行くところは今後開発が進むであろう土地だな。まずは生活に必要な井戸を掘るところから始めて、井戸があるかないかでそこに建てる建物を決めるっていうわけだ」
「井戸ありきの開発なんですね」
「水を出す魔道具もあるっちゃあるんだが、まだまだ一般的には井戸の水を使っている。これからさらに発展していって井戸が必要なくなるかもしれないが、今の状況を見てみるとそれは随分と先の話になる」
水は生活になくてはならない存在だ。水があるところに人が住むように、町の中でも井戸の近くに多く人が住んでいる。
水を出す魔道具はあるけれど、それを使っているのは上級の町民たちだけで、下級の町民に普及するのはまだまだ先になりそう。それこそ、革新的なことがない限り人は井戸を使うんだろうな。
「開発を進めるためにまず井戸の場所を特定することが大切なんだ。井戸がないところは人が住みづらいからな、開発する前にできるだけ多くの井戸を作っておきたいって話さ」
「井戸がないと生活できないですからね」
集落に住んでいた時は水問題は大変だった。何せ集落に井戸がないから、川から水を運ばないといけない。水汲みは重労働で一回で汲める量もそんなにはないから、沢山汲まなくてはいけなかった。
川から水を運ぶことに比べて、人の住んでいる近くに設置された井戸は楽だと思う。水を汲む行為は変わらないけど、家の傍にあるから持ち運びが楽なのがいい。
そう考えると、井戸って結構重要な施設なんだよなぁ。うん、井戸を沢山見つけて、この町のためになったらいいな。
「事前に俺が井戸を掘る場所を選定してある。あとは、その場所を掘って井戸になるかチェックが必要だ。掘っても水が出ないこともあるし、大変な作業だ」
「掘る場所から水が出たらいいですね」
「そうだな。そのために選定に時間をかけたんだ、今日は沢山の井戸を掘るぞ」
水が出るのは事前の調査が大事なのは分かる、けど運の要素もありそう。この世界で水を見つける技術があればいいんだけど、そんなのはなさそうだし、事前の調査もどれだけ当たっているかは分からない。
「よし、ついたぞ」
おじさんが立ち止まった。周りには建物はほとんどなく、広い土地だけが見えていた。さて、井戸掘りの開始だ。
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