201.魔物討伐~森と湖~(8)

 ヒルデさんに向かって剣を振る。


 ガッキーン!


 強い力で剣が弾き飛ばされてしまった。


「そろそろ終わりにしようか」

「は、はい……」


 ヒルデさんは余裕のある顔で言うと、私は力なく地面の上に座り込んだ。上がった息を整え、額に流れる汗を拭う。つ、疲れたー!


「そういえば、対人で戦うのは冒険者になった時に受けた訓練以来っていうことだったな」

「はぁはぁ、そう、です」

「ふむ、ということはほぼ初めてということか。悪くない出来だったぞ、でも考える癖があってその隙にこちらの攻撃を受けていたのはダメだったな」


 息を整えながらヒルデさんのアドバイスを聞く。どれも私にとっては耳の痛いものばかりで、聞けば聞くほど力不足だったことを知った。自分なりにできたように思ったけど、全然ダメだったなぁ。


 それでも自分では気づけなかったことを知れて良かった。次はこうしたらいい、こういう時はこうしたらいい。そんな身になるようなアドバイスをもらった。


「落ち着いたか?」

「はい」

「なら昼食にするか」


 二人で野営地まで戻ると、シートを敷きその上に座る。マジックバッグからサンドイッチを取り出すと、二人でかぶりつく。沢山動いてお腹が減っていたのかとても美味しく感じられた。


 そんな食事を取っている時、馬車が近づく音がした。通りのほうを見てみると、今まさにコーバスから到着した馬車が二台も来る。馬車が止まると中から沢山の冒険者が出てきた。


「あれに乗って帰るんですね」

「そうだ、馬車があるから楽でいいだろう?」

「はい」


 そっか、終わりなんだな。またヒルデさんと一緒に冒険できる時があるのかな? ちょっと寂しい気持ちでいると、ヒルデさんが話しかけてくる。


「それで、次はどうする?」

「え、次ですか?」

「なんだ、これで終わりかと思ったのか?」


 ということは、まだ一緒に冒険に出られるってこと? これで終わりじゃなかったんだ、嬉しい!


「ぜひ、お願いします!」

「あぁ。討伐と訓練を平行して行おうか、期間はそうだな……一か月でどうだ?」

「一か月も一緒にやってくれるんですか!? 嬉しいです」

「なら良かった」


 一か月、討伐と訓練か。大変そうだけど、こんな機会ないから嬉しいな。それだけ長い期間戦っていれば強くなれそうだ、しかも今回はヒルデさんがついていてくれる。


 でも、ヒルデさんは大丈夫なのかな?


「あの、今更なんですが……一か月も平気なんですか?」

「ん、あぁ私のことか? 隠居生活をしているようなものだからな、逆に外に出る機会があって私なりに楽しみにしている」


 そっか、片足がないからあんまり動けないんだよね。それにお金だって沢山あるって言っていたから、その辺りは大丈夫なんだと思う。


 ということは、この一か月でできるだけ強くならないといけない。貴重な時間をくれるんだから、何が何でもついていかなくっちゃ。


「一か月、よろしくお願いします」

「あぁ、みっちりしごいてやるから覚悟してろよ」

「うっ、頑張ります」

「あははっ。さて、そろそろ馬車に乗るか、席は早い者勝ちだからな遅れると帰れなくなるぞ」

「はい」


 立ち上がってシートを片づけると、馬車に近寄っていく。訓練をしていた疲れは残っているけれど足取りは軽い。それはきっと、ヒルデさんと一緒にいられる時間があると分かっているからだ。


 基本は一人で行動していたから、寝食を共にする人としばらく一緒にいられる心強さに少しだけ心が緩んだような気がする。頼れるところがなかったところに頼れる人ができて、少しだけ肩の力が抜けた。


 もう少しだけ頼らせてください。


 ◇


 それから、ヒルデさんと一緒の生活が始まった。討伐と訓練は三泊四日にした、あまり期間があり過ぎると素材がマジックバッグに入りきらなくなるからだ。そしてその後の休息に一日を取る、四日に一度の休みになった。


 ほとんどの寝食を外ですることに始めは楽しさを感じていたけど、日が経つごとにそれは疲労となって表れた。安心してベッドに寝れるということがどれだけ大事なことだったのかよーく分かった。


 体の疲労は完全には取れなかったけど、逆に感覚は研ぎ澄まされていった。魔物の気配、動きを敏感に感じ取り、自分の動きや考えが早くなる、頭も体もどっぷりと戦いに浸かる。


 日に日に疲労は蓄積されるけど、少しずつ強くなっていっている気がした。気がしただけじゃない、強さを実感していくこともある。


 その強さを実感できる時が魔物討伐の時だ。リザードマン、ワイルドウルフ、ズールベア、これらを相手にして戦っているんだけど、日数が経つごとに戦う時間が減ってきた。


 相手の力量を瞬時に見定め、攻撃に転じる。その始めの動きがとても速くなった。今までは事前にしっかりと考えていたから、それが無くなっただけでも敵と戦う時間が減った。


 あとはとどめの攻撃の速さだ。力量を見定めた瞬間からどこを切りつけて倒すか決めて、素早く動いて一撃で仕留める。そこまでくると討伐というよりは作業感覚になっていたと思う。


 リザードマンとワイルドウルフとの戦闘は一分くらいで終わるくらいには強くなった。作業感が強いけど、これは強くなったと言ってもいいのか分からない。でも、短い時間で討伐を完了できた。


 ズールべアだけは一分じゃ倒せない。気を抜けない強敵なのは変わらないから、少しだけ慎重に戦った。自分よりも大きな相手、自分よりも強い相手だと意識をしながら戦うのは強いストレスを感じる。


 そのストレスに苛まれるのも訓練の内だとヒルデさんは言っていた。だから、積極的にズールベアと戦い、経験を積んでいく。気の抜けない戦闘は緊張感があり、それは私の強さの糧となった。


 討伐の他にヒルデさんと対人戦をして強さを磨いた。一方的になる魔物との戦いとは違い、ヒルデさんとの戦いは挑戦していては負けての繰り返し。私が身体超化をしても勝てないほどにヒルデさんは強かった。


 圧倒的な強さの前に私は何度も倒され、その度に立ち上がって向かっていく。その訓練を続けていく内に戦っている時間が少しずつ伸びていき、少しずつだが強くなっているのを実感した。


 そうやって、地道に討伐も訓練も続けて一か月が経った。最後の冒険を終え、冒険者ギルドへと戻り素材を換金する。顔なじみの受付のお姉さんは素材を出すととても驚いた顔をした。


 私みたいな子供が大量の素材を持ち込んだんだもの、そんな顔になっても仕方がない。換金額は三十万ルタを超え、一か月の総換金額は百八十万ほどになった。未だかつてない金額に驚くしかない。


 町の中で働くよりは、外で討伐したほうが稼げるようになっていた。そこまで稼げるくらいには強くなったと言ってもいいだろう。ズールベアの一体の討伐料込みの換金額が四万ルタくらいなので、その存在がすごく大きかった。


 もしかして、Bランクに上がる頃には賃貸じゃなくて家を買えるくらいまでお金が稼げるかもしれない。そう思うほどの金額だった。危険度が高いほど、報酬が高くなるような気がする。


 でも、稼げるからといって外ばかりの仕事をするわけにもいかない。町の中の仕事もやりがいがあり、人と繋がることができるので、こちらも大事だ。


 一か月の討伐と訓練の修行を終え、冒険者ギルドから出てきた。


「一か月よく頑張ったな。今日は何か美味いものでも食べに行くか」

「いいですね。あ、おごりますよ」

「ふふっ、その必要はないぞ。気持ちだけ受け取っておこう」


 夕日に照らされる大通りを二人で歩いていく。一か月一緒にいたから、距離が縮まった感じがして嬉しい。誰かとお喋りしながら歩くのは楽しいね。


「それで、これからはどうするつもりだ?」

「以前ヒルデさんが言っていた魔力を補充するところの仕事を受けてみようと思います。可能であればそこで強い魔法を会得できればなーっと」

「試してみる価値はありそうだ。そっちも頑張れよ」

「はい」


 剣は鍛えた、あとは魔法を鍛えるだけだ。魔法も使えるようになれば、今後の討伐も楽になると思う。どんな魔法が使えるようになるか楽しみだな。

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