202.魔力補充と魔法充填(1)
「ここが、コーバスの魔力補充所か」
討伐の疲れを癒した私はお目当ての魔力補充の仕事を見つけて職場にやってきた。ホルトに比べれば大きくて綺麗な屋敷だ、高級感のある佇まいにちょっとだけ気後れしそう。
小さな門を押しのけて中へと入り、玄関に続く小さな階段を登っていく。この扉は勝手に開けてもいいのかな? このままここにいても埒があかないから、さっさと中に入ってみよう。
一応扉をノックしてから、扉を開いてみる。
「おじゃまします」
「いらっしゃいませ」
開けて中に入るとすぐに声が聞こえた。玄関を入った右側に受付のカウンターがあり、そこには一人のお姉さんが座っている。このお姉さんに言えばいいのかな?
「今日はどういった要件ですか?」
「はい、冒険者ギルドから求人を見て来ました」
「そうでしたか、では紹介状をお見せください」
話し出すとお姉さんの雰囲気がちょっと柔らかくなったかな。手に持っていた紹介状を手渡すと、封を開けて中身を確認していく。あれ? 責任者じゃないのに、手紙を見せても良かったのかな?
まさか受付のお姉さんが責任者じゃないだろうし、いいのかなぁ。しばらく待ってみると、お姉さんの顔に笑みが浮かんだ。
「確認しました。では、これから責任者の方に会わせますので、ついてきてください」
「はい」
責任者に会わせる前に確認していたのかな? なんだかしっくりこないまま、私はお姉さんに連れられて屋敷の中を移動した。
廊下を進み、角を曲がって少し行ったところでお姉さんは立ち止まった。そして、目の前の扉をノックした。
「失礼します、求職者の方がお見えになりました」
「入れ」
中から声が聞こえると、お姉さんは扉を開ける。お姉さんに続いて中に入ってみると、中は執務室って感じの重厚感のある部屋だった。
「こちらが紹介状です」
「うむ、下がってもいいぞ」
お姉さんが紹介状を執務机に座った四十台後半くらいの男性に手渡すと、お姉さんは部屋から出て行ってしまった。男性はそのまま紹介状を読み、私は部屋の中央で立ったまま待っている。
すごく真剣な顔で紹介状を読んでいるけど、私で大丈夫だよね。なんてったって経験者だし、まさか子供だからダメって言われないよね。うぅ、なんだか緊張するな。
「なるほど、経験者で魔力はBか」
「は、はい! 一生懸命頑張りますので、ここで働かせてください!」
「もちろんだ!」
男性がいきなり立ち上がった。そして、机から回り込んでこちらまで近づくと、両手を握られる。
「君のような逸材を私たちは待っていた!」
先ほどの厳格な雰囲気とは打って変わって、満面の笑みを浮かべた男性がそこにいた。って、キャラ変わりすぎなんじゃ。
「我々は常に人員不足、魔力不足に悩まされている。それは魔力持ちの冒険者が外の冒険に出て行ってしまうから、高魔力持ちは町の中に残っていないのが実情だ」
「は、はぁ……」
「町の中にわずかに残った魔力持ちを寄せ集めて魔力補充や魔法充填を行っている。だが、魔石を利用した魔道具は普及し続けており、需要は高まっているのに供給が全く間に合っていないのが実情だ」
ホルトに比べれば、都会であるコーバスは魔道具は普及している。それに住んでいる人がホルトに比べれば数倍も多いから、魔道具を利用している人は大勢いるだろう。それこそ、ホルトなんて比べようもないほどに。
「供給が足りない、けれど町の中に魔力持ちの人はいない。その時考えたのは、冒険者に不定期でもいいから我々の仕事を担ってもらうことだ」
「な、なるほど?」
「その冒険者が来てくれた、これほど嬉しいことはない! ぜひ、ひと月でもふた月でもいいからここで働いてくれ!」
「は、はい」
凄い圧でお願いされたけど、元からそのつもりで来たからなんて言っていいか分からない。と、とりあえずここで働けるってことでいいんだよね。
男性は心の底から喜んでいるらしくて、拳を握りしめて震えている。まぁ、喜んでもらえているから良かったのか、な?
◇
その後、すぐに作業部屋へと通された。その部屋はとても大きくて、働いている従業員が二十人くらいいる。その中に入ると、みんなの視線が集まった。
「諸君、この度臨時で働くことになったリルだ。なんでも魔石への魔力補充は経験済みなようで、即戦力になる」
責任者の男性が言い終わると、部屋中がドッと湧いた。
「リルは冒険者として外の魔物退治をしている。ようやく、念願だった冒険者が一時的にも我が職場に来てくれた。これは大変喜ばしいことだ」
おお、という驚きの声があちこちから上がった。すると、堪らず一人の従業員が声を上げる。
「魔力値、魔力値はいくつなんですか?」
「魔力値は……Bだ!」
「ウオオォォォッ!!」
「キタァァァァッ!!」
「流石、冒険者ーーーっ!!」
うわっ、何この盛り上がりようは。部屋中の人が叫んでいるように見えるんだけど、きっと目の錯覚だよね。うん、きっとそうだ。
「魔力補充に関して詳しい話は君たちに任せる。また魔法充填はまだやったことがないようなので、本人の意思を確認してやるかやらないかを決めるように。いいか、逃すなよ!」
「はい!」
「任せてください!」
「引き摺り込みます!」
異様な圧に萎縮しちゃいそうだ、本当にここで働いてもいいんだよね。なんだか、不安になってきちゃったよ。
責任者が部屋を出ていくと、私は部屋に残された。盛り上がっていた従業員が次第に落ち着きを取り戻し、そしてみんなが私の方を向いた。
「ようこそ、魔力補充所へ!」
「歓迎するぜ、リル!」
「一緒に働きましょうね!」
ワッと声が上がり、拍手をされた。なんだか凄い歓迎ムードだけど、そのまま受け取ってもいいのかな。ペコリとお辞儀を返した。
「こっち、こっちに来いよ! 隣の席、空いてるぜ!」
一人の男性が手招きをすると、周りの人たちは賛成をするように強く頷いた。ということは、あそこに行けばいいんだね。ちょっと居心地が悪そうに進んでいき、指定された場所に座った。
座った場所は前と左右に衝立があるところで、隣の席が見えないようになっている。多分魔石に集中するために衝立が建てられているんだと思う。
「俺はディック、二十二歳だ。よろしくな」
「リルといいます、十二歳ですがもう少ししたら十三歳になります」
「ちなみに俺も魔力がBあるから、同じ魔力値同士色々と教えられることがあると思う」
「そうなんですね、よろしくお願いします」
灰色の髪を後ろで一本で結び、緑の目をしたお兄さんだ。陽気な雰囲気で馴染みやすそうだ、良かった。
「今日は魔石に魔力補充をしてもらおうと思うんだけど、いいか?」
「はい、大丈夫です」
「なら、今日は中型魔石の補充を頼む。まず魔石の場所の説明からするな、こっちに来いよ」
立ち上がったディックさんの後を追っていくと、隣の部屋に続く扉にたどり着く。その扉を開けると、広い机の上に高く積まれた箱が数えきれないほどあった。
「この部屋にあるものが全て補充待ちの魔石だ。右の机が魔力補充分で、左の机が魔法充填分な」
「はい」
「なのでリルの今日の仕事は、右の机にある真ん中に詰まれてある箱だな」
うんうん、この列の魔石の魔力を補充すればいいんだね。
「ここから一つ持って行って、席に戻る」
ディックさんが箱を持って部屋を出ていくと、私もそれを追う。席に戻ると座らないでそのまま説明を続けた。
「席に持っていって魔力補充をしたら、箱に入っている紙に自分の名前のサインを書く。それから部屋の入口付近にある、あそこの机に補充し終わった魔石入りの箱を置く。すると担当者がその箱を注文を受けた店に届けるっていう感じだ、分かったか?」
「はい、分かりました」
「よし、なら早速魔力補充をしてみるか」
久しぶりの魔力補充のお仕事だ、一旦魔法のことは置いておいてこちらに集中しよう。
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