199.魔物討伐~森と湖~(6)
翌日、ズールベアと出会うために森の奥を目指す。襲ってくるゴブリンたちを簡単に倒しながら進んでいくと、ある地点から雰囲気が変わった。すると出てくる魔物も変わってくる。
「ガウッ!」
「ウゥッ!」
ワイルドウルフたちが行く手を阻んできた。こちらを睨みながらジリジリと距離を詰めてくる、こちらもいつでも戦えるように剣を抜いて構える。
身体強化の魔法をかけた時、ワイルドウルフが動き出した。左右に別れて回り込みながら走ってくる。瞬時に考えると左から回り込んでくるワイルドウルフに向かって駆け出した。
「リル! ワイルドウルフの毛皮は売れるぞ。傷が少ないほど高値で取引される」
そうだ、毛皮が売れるんだった。だったら最少の手数でワイルドウルフを倒さないとね。
正面にいるワイルドウルフが飛び掛かってきた。いつもならここで避けるけど、今は違う。大口を開けて飛び掛かってくるワイルドウルフに向けて、剣を振る。
「ガッ」
口から頭にかけて剣を振り切った。一瞬で絶命したワイルドウルフは飛び掛かった勢いが余って地面の上を転がる。
すぐに反対側からくるワイルドウルフを確認すると、真っすぐこちらに向かってきていた。すぐに態勢を整えて迎撃の準備をする。
走ってくるワイルドウルフを見て、どこを狙ってくるか見る。ずっと低い姿勢のまま走ってきたワイルドウルフは、足を狙ってきた。
噛みつかれる瞬間、その場でジャンプして牙から逃れる。そして、そのままワイルドウルフを踏んづけた。
「ギャンッ」
身体強化中の蹴りはかなり重かったみたいで、ワイルドウルフは体勢を崩して地面に転がる。私は地面に着地すると、速攻でワイルドウルフに駆け寄っていく。
よろよろと起き上がるワイルドウルフの首元めがけて剣を振り下ろした。ワイルドウルフは悲鳴を上げられず、地面の上に転がる、これで討伐完了だ。
剣についた血を振り払い鞘へと収める。
「よく一撃で仕留めたな、上出来だ。それくらい動けていればズールベアとも戦えるだろう」
「そうですか? ズールベアはこれよりも速いですから、対応しきれなかったら大惨事になりそうです」
「身体超化を使えば対応できるだろう。慎重なのはいいが、思い切りがないとズールベアは倒せないぞ」
この程度の魔物を倒すのが丁度いいと思うけど、上のランクの魔物と戦うことを考えると怖気づく。やっぱり私にはまだ早いんじゃないかな、と思っているけどヒルデさんは違う。
「身体強化で互角、身体超化を使えばズールベアの能力を超えることができる。私の見立ては間違ってはいないから、信じて戦ってみてくれ」
「信じてないわけじゃないんですけど……」
「ほらほら、口を動かすよりも体を動かせ。ワイルドウルフの毛皮の剥ぎ取り方を教えるぞ」
「はーい」
そうだった、毛皮の剥ぎ取りも初めてだった。二体のワイルドウルフの体を寄せると毛皮の剥ぎ取り方を教わる。
◇
あれから森の奥を目指してさらに進んでいった。進めばワイルドウルフが襲ってくるので、その度に討伐をして毛皮を剥ぎ取った。
聴力強化もして進んでいると、聞きなれない声が聞こえてくる。その方向に進んでいくと、木々の隙間から茶色い巨体が見えた。ヒルデさんと二人で慎重に近づいていくと、その姿が露になる。
凶悪な顔には鋭い牙が生えており、太い四肢にも鋭い爪があり、その体は分厚く固そうだ。初めて見るズールベアに緊張感が増した。
「どうだ、あれがズールベアだ。思ったよりも小さいだろう?」
「いや、十分に大きいですよ。今まで戦った魔物の中で一番大きいです。それだけじゃなくて、力と速さも一番です」
「そうだな、今までリルが相手にしてきたどんな魔物よりも強いだろう」
あの巨体が素早く動いて、攻撃を仕掛けてくるところを想像すると少しだけ恐怖で体が震えた。今まで戦った魔物よりも強い魔物、その言葉だけでも怖気つけそうだ。
「だが、魔物討伐とはそういうものだ。過去の魔物よりも強い魔物と戦う、その繰り返しさ」
「……そうですね。今までの私もそうでした」
「今回もそれと同じだ。リルの実力を見てきた私がいうんだから間違いない、リルはズールベアに勝てる」
ヒルデさんが優しく応援してくれた。ここまでされて逃げるなんてことはできない、ヒルデさんのことを信じて私なりに戦ってみよう。
「ガア……グアァァッ!!」
四足歩行で歩いていたズールベアが突然起き上がり叫び声を上げた。
「どうやら、私たちの存在に気づいてしまったようだな。準備はいいか?」
「はい、戦ってみます」
「その意気だ、リルならやれるさ」
ドン、と背中を叩かれた、やるしかない。剣を抜いて身体超化を体にかける。ズールベアは辺りを見渡しながら鼻を動かしてこちらの匂いを探っていた。そのズールベアがこちらの方向に気づく、ここだ!
勢いよく飛び出していき、ズールベアの首を狙う。地面を蹴って飛び上がると、剣を振った。
ザシュッ
「グアアッ」
踏み込みが甘かった、ズールベアに避けられて剣先は首を掠めただけで終わった。地面に着地するとすぐに体をズールベアに向ける。
「グオォッ!」
ズールベアもこちらを向き、襲い掛かってきた。二足歩行で駆け寄り、鋭い爪がついた腕を振り回してくる。
ブン ブン ブン
軌道を読んで爪の攻撃を避ける。どんな魔物よりも攻撃が速く、そして重い。掠っただけでも重傷になりそうな攻撃をなんとか躱していく。
「躱すだけじゃダメだ、相手の動きを見切って攻撃に転じろ!」
ヒルデさんのアドバイスが飛んできた。そうだ、躱し続けてもいいことはない、どこかで攻撃に転じなければいけない。でも、この攻撃の嵐の中をどうやって潜り抜けよう。
止まない攻撃の中、必死に考える。とりあえず、一旦距離を取ってそれから動向を探ろう。ズールベアから離れるために走る、とズールベアは四足歩行で後を追ってくる。二足歩行の時よりも断然速い。
距離を取ってから攻撃しようとしたがそれではダメみたいだ。立ち止まると四足歩行で迫ってきたズールベアが大口を開けて噛みついてくる。
それを高くジャンプすることで避けた。ここはチャンスなんじゃない? 体を捻って剣をズールベアの首めがけて振り下ろす。
ザシュッ
「グアアァッ!」
ダメだ浅い。着地をするとすぐにその場を飛んで逃げる。するとそこにズールベアの爪が切り裂いてきた、良かった間一髪避けることができた。
ズールベアは立ち上がり、今度は両腕を振り下げてきた。後ろに飛んで避ける、攻撃を仕掛けるなら今だ! ズールベアの首目掛けて飛び、剣を振った。
ザシュッ!
「グッ……」
剣がザックリとズールベアの首を刎ね、ズールベアは首無しになって地面の上に倒れた。途端にシーンと静まり返り、先ほどの騒がしかったのが嘘のようだ。
地面に着地した私は身体超化を切り、後ろを振り返ってズールベアを見る。綺麗に首を刎ね飛ばされたズールベアが起き上がることはない、ということは。
「た、倒した?」
信じられない、Cランクの私がBランクのズールベアを? しばらく、ボーッと眺めていると頭に手を乗せられて強く撫でられる。
「やったじゃないか、リル!」
「ヒルデさん……私が倒したんですよね」
「そうだ、リルが倒したんだ」
ズールベアは強かった、一瞬でも気を抜けばこちらが死んでいたかもしれない。今でもあの速さと力強さを思い出すと体が震えてくるくらいには怖いと感じる。
それでも、勝ったのは私だ。じわじわと勝利した実感が沸き上がってくる。ふと、ヒルデさんを見ると片手を上げてくれていた。私はその手に自分の手をパチンと合わせる。
「ズールベア、倒しました!」
「よくやったぞ、リル」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます