198.魔物討伐~森と湖~(5)

 二日目は湖周辺で討伐を繰り返した。グリーンフロッグやモスキートはついでに倒して、リザードマンを探し歩く。


 町からそれなりに離れているせいか、魔物は沢山いた。探す手間が省けるけど、こんなに沢山いたんじゃスタンピードが怖くなる。


 ヒルデさんがいうには、魔物の数は多いけどそれに釣られてやってくる冒険者も多いということ。だから、この場所でスタンピードが起こる確率は少ないらしい。


 そういうことなら少し安心した。次々と現れるリザードマンを雷で痺れさせ、剣で貫いて倒す。倒した後は皮を剥ぎ取り、残った体は火魔法で燃やした。


 始めは倒すのも皮を剥ぎ取るのも時間はかかったが、何度も繰り返すことによって作業が手慣れてきて早く終わらせるようになった。


 最後のほうでは作業のようにリザードマンを倒し、皮を剥ぎ取り、残った体を燃やす。そんな感じで手慣れてしまえば、リザードマンは恰好の獲物になった。


 その作業が終わったのは夕日が辺りを赤く染めた頃、野営地まで戻ってくる。野営地には討伐を終えた冒険者が続々と集まってきて、みんなテントの設営をやっていた。


 私たちもテント設営をして、それから夕食を食べ始めた。


「今日のリザードマン討伐はどうだった?」

「リザードマンの力と速度は脅威でしたが、落ち着いて対処すれば問題なかったです」

「そうだな、戦いの回数を重ねていくと動きに無駄が無くなっていた。リザードマン討伐のコツを掴んだことになるな」


 ということは、今後はリザードマンの討伐で稼げるようになるってことかな。こんなにスムーズに討伐できるのも、昨日の戦闘訓練があったからだ。細かくアドバイスをくれたヒルデさんには感謝だね。


「明日もリザードマンを討伐するんですか?」

「いや、明日は森の中に戻る」

「というと、ワイルドウルフの討伐に切り替えるんですか?」

「それはおまけだな」


 ワイルドウルフがおまけ? 他に私が相手にできそうな魔物っていたっけ?


「明日戦ってもらうのはBランクのズールベアだ」


 Bランクのズールベア!? えっと、私はまだCランクなんだけど、まだランクも上がっていないのにBランクの魔物を相手にするの?


「私には荷が重いと思いますが……」

「そんなことはない。昨日と今日の動きをみたんだが、Bランクと戦う力はあると感じている」


 そ、そうかな。以前よりは強くなった感じはするけど、飛びぬけて強くなった感はしないから不安しかない。


「今のリルは余力を残して魔物と戦うことができている。このまま、同ランクの魔物だけを討伐するのもいいが、それでは勿体ない気がしてな。だったら、上のランクに一度挑戦してみないか?」

「挑戦ですか」

「あぁ、もし危なくなったら私が助けに入ることもできる。比較的安全に上のランクに挑戦できる機会だと思うが、どうだ?」


 もう一度しっかりと考えよう。Cランクの私がBランクのズールベアと戦って勝てるのか? まず、知らなくちゃいけないのはズールベアの強さだ。


「ズールベアはどんな魔物なんですか?」

「ズールベアの身長は二メートル二十センチ。強靭な牙と爪を持ち、全身を覆う皮下脂肪と筋肉が鎧になっている。走る速度はワイルドウルフよりも早く、腕の力はリザードマンよりも強い。周辺にいる魔物の上位互換的な存在になっている」

「上位互換的な存在……どんな風に攻撃してくるんですか?」

「そうだな、巨体を生かした突進。鋭い爪で切り裂いてきて、鋭い牙を突き立てて嚙み殺す。大体はそんな感じになるだろう」


 話を聞いた感じだと強そうな印象しかない。小さな私が戦うには敵は大きすぎるし、体がぶ厚すぎる。果たして私の身体強化や身体超化で対等以上な実力があるのかが分からない。


「私の身体超化で相手になるのかが分かりません」

「それなら一度見せてみろ。私がリルの攻撃を受けて、その実力を推し量ってやろう」


 ヒルデさんに攻撃を? うん、それだったらズールベアの強さを知っているヒルデさんは私とズールベアの強さを図ることができそうだ。


「お願いします」

「なら、離れたところにいこうか」


 ヒルデさんと私は野営地の端に行くと、お互いに剣を構えた。


「さぁ、どこからでもかかってこい」

「まずは身体強化の力からいきます」


 魔力を高めて体に纏う。それから腰を落として剣を構えた。対峙して数秒後、私はヒルデさんに全速力で駆け寄った。構えた剣を振ると、それは簡単に受け止められる。


 簡単に受け止められたけど、連撃ならどうだ。様々な角度から剣を振るが、全て受け止められている。強い一撃を放っても、弱い一撃を数多く与えても、簡単に受け止められていた。


 こっちは身体強化をしているのに、ヒルデさんは身体強化はしていない。ヒルデさんの素の戦闘力の高さが窺える。


 何十回も剣を振っても一撃も与えられない。一旦距離を取り、息を整える。


「今度は身体超化をやります」

「あぁ、かかってこい」


 一旦身体強化を切ると、身体超化用の魔力を纏いなおす。魔力の層を作り、全身をその魔力で囲う。すると、今まで以上の力が漲ってくるようだ。


 剣を構えて飛び出す瞬間を見極める。少しの呼吸の後、私は地面を蹴った。一瞬でヒルデさんとの距離を詰めると剣を振る。


 ガキンッ


 また受け止められた。その場に留まり連撃を繰り出していく。


 ガキンッ ガキンッ ガキンッ


 目にも止まらぬ速さなのに、私の攻撃は全て受け止められた。このままじゃだめだ、一旦距離を取ってからヒルデさんに飛び込んでいく。その勢いのまま剣を振った。


 ガキンッ


 また受け止められる。だけど、諦めない。ヒットアンドアウェイを繰り返しながら、重い一撃をヒルデさんに与えていく。


 重い一撃で左右に体が振れたが、それだけだ。どんなに速い攻撃を繰り出しても、重い一撃を与えても、私の攻撃が通じることはなかった。


 ある程度攻撃を加えた後に、最後にヒルデさんに向かって飛び込んだ一撃を食らわせた。


 ガッキーンッ


 一番速く一番重い一撃も受け止められた。その後、身体超化の魔法を切った。


「ふぅ……ヒルデさん強すぎます」

「そうか? 身体強化中で結構ヒヤッとしたんだがな」

「本当ですかー?」

「本当だ」


 ずっと涼しい顔していたと思うんだけど、どんな時にヒヤッとしたんだろう。うーん、考えても良く分からない。お世辞で言っているわけじゃないよね、ヒルデさんはお世辞とか言わなそうなんだけど。


「ふっ、そんなに信じられないか?」

「あ、いえ……だって全然実感が湧かなくて」

「だったら、今回のズールベアの討伐で実感を掴めばいい」

「戦うことは決定なんですね」

「うん、リルの攻撃を受けてズールベアに勝てると確信した。自信持っていいぞ」


 ヒルデさんくらい強い人に言われたら信じられるけど、でもやっぱり勝てる実感がない。微妙な顔をしていると、ヒルデさんに笑われる。


「ははっ、リルは強情だな。明日が楽しみになってきたよ」

「そ、それってどういう意味ですか」

「明日ズールベアを倒した時のリルがどんな表情をするのか楽しみになってきた」


 もう倒した時のことを考えてる、まだ倒せるって決まってないのに。でも、本当に私にそんな力があるのかな? Cランクの私がBランクに勝てるんだろうか?

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