197.魔物討伐~森と湖~(4)

 湖の付近の森の中に魔物はいた。地面にどっしりと座っているEランクのグリーンフロッグだ。大きなカエルの見た目をしていて、そんなに脅威には感じない。


「あいつは舌を伸ばしてくる。主な攻撃方法は体当たりくらいだな。今のリルだったら、速攻で倒せるだろう」


 グリーンフロッグは全部で三体いる。どの個体ものんびりしていて、ゴブリンよりも弱く感じた。


 剣を抜き、駆け出した。素早くグリーンフロッグの近くに移動して剣を振る。


「ゲェッ!」


 短い悲鳴を上げてグリーンフロッグは倒れた。すぐに他のグリーンフロッグに向かって駆け出すと、そのグリーンフロッグは大口を開けている。そして、赤い舌を伸ばしてきた。


 その舌を躱して前へと進む。無防備なグリーンフロッグを切りつけると、短い悲鳴を上げて倒れて動けなくなった。あと一体、視線を向けるとあちらもこっちを見てきていた。


 そして、姿勢を低くしてから大きく飛び上がってくる。真っすぐ飛んできたので、横に避けてみた。すると、通り過ぎたグリーンフロッグは地面へと叩きつけられる。


 態勢が整う前に近寄って、剣を突き刺す。


「グエッ!」


 短い悲鳴を上げてグリーンフロッグは絶命した。なんだろう、ゴブリンよりも手ごたえがない気がする。ゴブリンみたいに好戦的じゃなかったからかな?


「この程度なら問題ないな。じゃ、他の魔物を探しに行くぞ」

「はい」


 討伐証明である舌を切り取るとその場を後にした。ヒルデさんと湖近くの森を歩いているとあちらこちらにグリーンフロッグがいる。これも収入になるので、適当に狩っていく。


 そうやって狩りを続けていくと、羽音がしてきた。音が聞こえたほうを見ると、大きな蚊が飛んで近づいてくる。


「あれがモスキートだ。尖った口で突き刺して攻撃してくる。弱点は火だったな」


 火が弱点か、なら狙ってみよう。手をかざして魔力を高め、火球を作っていく。素早く動くモスキートに照準を合わせて、放った。真っすぐ飛んだ火球はモスキートに直撃して、激しく燃え上がる。


「ギッギッ」


 しばらく空中をせわしなく飛んだ後、力尽きたのか地面に落ちた。Dランクだから少し手ごわいのかと思ったけど、そんなには手ごわくない感じだ。弱点をついたから余計に弱く感じたのかな?


「普通ならモスキートの速度に翻弄されるわけだが、速さに慣れているとそんなに脅威には感じないんだ」

「確かに、速度重視で戦っているので目は速さに慣れていますね」

「そうだ、自分が速く動けばそれだけ周りを見る目も養われる。リルは速い動きには慣れているからな、こういう敵の天敵になっているだろう」


 確かにそうだ、結構早く動いていたのに簡単に目で追えたし、火球も簡単に当てれた。自分が落ち着いて対応できているのは、速さに慣れていたお陰だったんだね。


 落ちたモスキートの討伐証明を取ると、再び歩き始めた。


「ここに来た目的はリザードマンだな、湖の周辺ではこいつが稼ぎ頭になるだろう」

「確か二本足で立つトカゲでしたっけ」

「あぁ、鋭い牙と爪を持ち、強靭な尻尾で叩きつけてくる。素材として皮は売れるから、そのまま持ち込むか皮を剥いで持っていくかだな」


 Cランクのリザードマンか、冒険者ギルドで調べた時は強そうな見た目をしていた。初めて戦うことになるけど、ちょっと緊張してきたな。


 ヒルデさんと森の中を歩きながらリザードマンを探す。その最中にグリーンフロッグとモスキートに出会うので、サクッと倒して報酬の足しにした。


 ふと、湖の方に視線を向けると森の抜けた先で大きな何かが動いているのが見える。もしかして、あれがリザードマンかな?


「ヒルデさん、あれってリザードマンですか?」

「ん? そうだ、あれがリザードマンだ」


 木々が邪魔ではっきりとは分からないけど、本で見た通りの姿をしているみたいだ。早速森を抜けて湖の近くまで寄ってみる。すると、その姿ははっきりと露になる。


 体長は百五十センチメートルくらい、色は深緑、黄色い目をしており、鋭い牙と爪、太い尻尾を持っている。見るからに強そうで、ちょっとだけ力んでしまった。


「ガァ?」


 リザードマンがこちらに気づいた。こちらに向き直ると、顔を顰めて威嚇の声を上げる。


「ギャーーッ!」


 勢いよくこちらに駆け出してきた、戦闘開始だ。すぐに剣を抜くと身体強化をかける。そして、私も駆け出した。


 リザードマンが腕を上げて鋭い爪を振り下ろしてきた。それを避け、今度はこちらが剣を振る。距離があったのか剣先はリザードマンの体を少し掠めただけだった。


「リザードマンの皮は素材になる。傷が少ないほうが価値が上がるぞ、考えて攻撃をしろ」

「はい!」


 そうだった、リザードマンの皮は素材になる、ということはいい状態で持ち込めばそれなりの金額になるということだ。小さな攻撃を繰り返すよりは大きな攻撃で仕留めたほうがいいよね。


 一度リザードマンとの距離を離して考える。私ができる手は……そうだ、雷で感電させればいいんだ。感電したところを一撃で仕留めれば皮は綺麗な状態のままなはずだ。よし、やってみよう。


「グルルッ……ガァッ!」


 リザードマンが再び駆け出してきた。私は剣を握る手に魔力を込め、魔力を雷に変換させる。刀身に雷を纏わせると、抵抗なくすんなり雷が行き渡った。


 すぐ目の前まで迫ったリザードマンは体を回して、尻尾で攻撃をしてきた。それを上にジャンプすることで避けると、そのまま刃のない部分でリザードマンを叩く。


 ビリリリリッ


「グッガッ」


 剣に纏わせていた雷がリザードマンの体を走った。体を硬直させたリザードマンの動きが止まる、今がチャンスだ。剣を構えなおし、リザードマンの胸を剣で突き刺す。


「ガッ、ガッ……」


 ビクンと体が跳ねてプルプルと震えると、膝から崩れ落ちるようにリザードマンは倒れた。しばらく様子を見ていたが、起き上がってくる様子もない。討伐が完了した。


 そこにヒルデさんが近寄ってきた。


「よくやったな。初めての戦闘にしては動きが良かった」

「昨日のアドバイスのお陰です。事前に戦闘の経験ができたので焦らずに対処することができました」

「そうか、昨日の訓練が無駄にならなくて良かった」


 弱い敵でもしっかりと戦うことができればそれは生きた経験になる。たった一日の経験でも強くなった実感がして、なんだか嬉しくなる。


「折角の魔法なのに剣に纏わせるのはちょっと勿体ないな。どうせなら、火球みたいに放てるようになったほうがいいと思う」

「そうですね、そのほうが余計な戦闘も避けられそうです。次に会ったらやってみます」

「そのほうがいいだろう。今あるものしか使えないが、利用方法を考えれば色々とできそうだ」


 そうだよね、雷を纏わせるよりも放った方がいいよね。ちょっと何もないところで練習してみよう。


 手を前に掲げて意識を集中させる。魔力を手に集めて、一気に雷を放つ。


 バチバチバチッ


 雷が真っすぐに伸びた、約二メートル。うん、これなら放った方が良さそうだ。次のリザードマンからは雷を放って、しびれて動けないところを剣で刺すことにしよう。


「うん、できるじゃないか。次からは雷を放つようにしたらいいだろう」

「はい。昔の名残で剣に雷を纏わせていましたが、こっちの方が使い勝手が良さそうです」

「よし、次にリザードマンをどうするかだな。ここで皮を剥ぎ取るか、それとも冒険者ギルドに持ち込むか、どっちがいい?」


 ここで皮を剥ぎ取ればそれだけ時間がかかる、だけど冒険者ギルドに持ち込もうとすればマジックバッグの容量が圧迫される。


 この冒険は三泊四日ある、ということはまだまだ魔物を倒すことになるだろう。だったら、制限のあるほうを優先したほうが良さそうだ。


「皮を剥ぎ取ります」

「分かった。なら剥ぎ取り方を教えよう」


 流石ヒルデさん、剥ぎ取り方を知っているんだ。そういえば、初めての剥ぎ取りになるよね、ここでしっかりと覚えておかないとね。


 ヒルデさんは丁寧に皮の剥ぎ取り方を教えてくれた。

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