196.魔物討伐~森と湖~(3)
一日目が終了して私たちは野営地まで戻ってきた。まだ夕日が照らしている内に買ったばかりのテントを設営して、寝る場所を確保しておく。それが終われば夕食の時間だ。
小さな発火コンロを取り出して、その上に小鍋を置く。次にお店で作ってもらった野菜たっぷりクリームスープを食べる分だけ小鍋によそう。それからコンロのスイッチを押して小鍋を火にかける。
一枚の皿を取り出し、その上に小さなパンを二つ乗せて、お店で作ってもらったブラックカウを使った串焼きを乗せる。あとは水筒を用意すればいい、これが今日の夕食だ。
ふと、目の前のヒルデさんを見てみると、大きい発火コンロの上でフライパンを乗せて一口サイズの肉を沢山焼いていた。あ、外で焼くんだ、いいなー……私もそうすれば良かったかな。経験者は手慣れているね。
「ん、どうした?」
「お外でお肉を焼いていたので羨ましいなぁと思って。お外でお肉を焼けば良かったかなって思って」
「あー、素直に調理済みの料理を買ってきたんだな。そうだな、肉くらいならコンロがあれば火をおこす手間がないからオススメだ」
ジュージューと焼き上がる肉の音と匂いが食欲をそそる。しかもハーブの匂いとかがしてきて、事前に下味をしっかりと漬け込んできた肉だと分かった。私も今度来る時はそういう肉を持ってこよう。
肉を焼き上げている間に先に食べよう。温まったスープをスプーンですくって飲む、ミルクの優しい味の野菜のうま味が凝縮されていてとっても美味しい。小鍋の底をスプーンですくってみると、角切りされた野菜がゴロゴロでてきた。
食べ応えのあるスープで笑みが零れる、当たりのお店だったな。もぐもぐ、と野菜を食べて、今度はパンを千切ってスープに浸してパクリ。んー、スープを吸ったパンが絶妙に美味しい。やっぱり、柔らかいパンは最強だね。
串焼きは残念なことに冷めてしまっているので、温めなおさなきゃいけない。発火コンロから小鍋をおろして、火をつける。その火に串焼きを近づかせて、コンロの力で串焼きを温めた。
しばらくすると肉の温まったいい匂いがしてくる。そこでコンロの火を止め、早速串焼きにかぶりつく。ちょっと固くなってはいるが、香辛料がふりかかった肉は美味しかった。
二人で夕食を食べながら、今日の討伐の様子を話した。ヒルデさんが気づいたことの総まとめを話して、私がそれを聞いて返答するという形だ。討伐の復習ができて有意義な時間だった。
しばらく話していると食事を食べ終えてしまう。汚れた食器を水魔法で出した水で洗い、タオルで水気を吸い取る。そうやって食器を片づけ終わると、さっきの話の続きが始まった。
「今のリルの実力だと、魔法が上手く組み込まれないな」
「そうなんですよね、身体強化や身体超化で事足りてしまうので、魔法を活用できる場面が少ないです」
「魔法を活用するには、魔法を強くしないと出番はないだろうな」
魔法を強くか、そういえばヒルデさんは魔法を使わないのかな?
「ヒルデさんは魔法とか使いますか?」
「いや、私は剣だけだな。だから、魔法はリルには教えられない」
「そうですか、残念です」
そっかー、魔法関連はヒルデさんの専門外なんだね。ちょっと残念だな、教えてもらえたらって思ったから。
ということは、私の知っている人で魔法が得意な人はいない。領主さまのクエストの時に知り合った人の中だったらいるけど、急に魔法を教えてくださいっていってお願いするのは、ちょっと違う。
もっと気軽に魔法を教えてもらえるところがないかな?
「そうだ、魔法と言えば面白いところがある」
面白いところ?
「その場所は魔石に魔力を込める職場でな、町の外にはいけない魔力持ちたちが働いている場所だ」
「それなら私もやったことがあります。前の町でしたが、魔石に魔力を込めてました」
「リルは色んな仕事をやっているな、感心するよ。それで、その場所では色んな魔法が飛び交っているんだよ」
魔石に魔力を込めるだけなのに、それがどうして魔法が飛び交う事態になるんだろう。
「魔石には魔力を込めるものだが、魔力だけじゃなくて魔法も込めることができるんだ」
「そういえば、そうですね。水や火が出る魔石があったので、それらが魔法を込めていると言われる魔石なんですね」
「そうだ、この発火コンロがいい例だろうな」
私の身近にあったのは、シャワーがいい例だろう。あれも水魔法を込めた魔石から水が出てくるようにしている。よくよく考えたら、魔石に込めるのは魔法もあったなぁ、って今更ながらに思う。
「どういう訳かは私も知らないんだが、夕方頃になると建物の近くの広場で色んな魔法が飛び交っているようなんだ」
「結構有名な話なんでしょうか?」
「近隣では有名な話だな。私も暇つぶしに行ってみたんだが、本当に色んな魔法が飛び交っていて見ていて楽しかったぞ」
んー、どうして魔法が飛び交うようになったのかが謎だ。仕事のために魔力や魔法を使っているんだったら分かるけど、それがどうして何もないところで発動しているかが分からない。
「冒険者からの目で見ても、あの魔法は威力があった。外の冒険に出ない者たちが使う魔法にはとてもじゃないが見えなかった」
「ヒルデさんがそこまでいうんですから、凄い魔法が飛び交っていたんですね」
「あぁ、信じられなかったよ。だから、そこに行けば働きながらでも、その魔法の力が手に入るんじゃないかっと思うんだが、どうだ?」
強い魔法を使う人がいる魔力補充所か、行ってみる価値はありそうだ。もし、習えなかったとしても働けるんだから損はしないはずだよね。
「私、行ってみます」
「あぁ、そうしてくれ。強い魔法が使えるようになると、リルのためにもなるだろうしな」
もし、本当にダメだったらまたクエストを出して、魔法使いに魔法のやり方を教えてもらうといいよね。うん、この冒険が終わったら魔法を強くするための行動をとろう。
話が終わるとそれぞれのテントへ戻り、準備をしてから就寝した。
◇
二日目、朝食を食べた後にテントを片づけると、今度は湖の方面に歩いていく。
「湖周辺にいる魔物は分かるか?」
「はい、Eランクのグリーンフロッグ、Dランクのモスキート、Cランクのリザードマンです」
グリーンフロッグは大きなカエル、モスキートは大きな蚊、リザードマンは二足歩行をするトカゲだ。冒険者ギルドで魔物図鑑を見てきたから、その特徴は頭の中に入っている。
「今日は昨日の成果を初めての魔物で挑戦してみようか」
「はい、どこまでやれるか楽しみです」
「そうだな、どれだけ効率よく魔物を倒していけるかが勝負になる。少ない手数で確実に魔物を仕留められるようにならないといけない」
魔物討伐はスタンピードを起こさないために魔物を間引いている。だけど、冒険者からしてみれば稼ぐための手段だ、少しでも効率よく討伐できれば収入が上がる。生きていくためには少しでも多くの収入を得なければいけない。
今回は初めての土地の魔物討伐になるから、怪我をしないように慎重な討伐をしている。慣れない土地でいきなり同ランクの魔物と戦うのはちょっとだけ怖い。だから低級の魔物から少しずつ慣れていかないとね。
お金を稼ぐなら、この土地に慣れてからでも遅くない。それに今はヒルデさんに色々と教えてもらっている最中だ、教えてもらったことは全部吸収して自分のものにしよう。
「おっと、早速お出ましだぞ」
新しい敵との戦闘が始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます