195.魔物討伐~森と湖~(2)

「ギャギャッ!?」

「グギャッ!?」

「ギャーッ!?」


 茂みから飛び出してEランクのゴブリンに向かって駆け出す。相手が驚いている隙に一気に距離を詰めて、ゴブリンたちの懐に飛び込んだ。そして、剣を振る。


 一体目、二体目、三体目。剣で体を切りつけると、短い悲鳴を上げてゴブリンたちは倒れた。


「グオー!」

「グギャー!」


 傍にいたホブゴブリンたちが動き出す。お互いに同時に駆け出して接近していく。先にホブゴブリンがこん棒を振り上げてきた、タイミングを見計らいホブゴブリンの攻撃を避ける。


 二体の攻撃が空振りに終わるのを見計らい、大きく飛んで首めがけて剣を振る、一体目の首が飛んだ。


「グオッ!?」


 隣にいたホブゴブリンがそれを見て驚いている、隙ができた。着地をすると、踏み込んで剣を振り上げた。


「グギャーッ!」


 体の前面を切りつけられたホブゴブリンは悲鳴を上げて、後ろへ倒れていった。すぐに周囲を確認して、起き上がるゴブリンがいないか確認した。うん、全部倒したみたい、戦闘終了だ。


 私は身体強化なしでEランクのゴブリンを倒せるようになっていた。剣を振るのも苦じゃなくなっているし、体が大分作られた感じがする。


 ゴブリンの討伐証明を切り落としているとヒルデさんが近寄ってきた。


「中々いい動きだった。だが、ホブゴブリンの動きを見る前に行動したほうがいい。それこそ、攻撃の隙を与えないくらいに早く動くべきだったな」

「相手の動きを見てから動く癖が中々抜けませんね」

「そういう戦闘スタイルだったからだろうな。格下相手だからこそ、もう少し踏み込んだ攻撃を仕掛けても平気だ」


 ヒルデさんのアドバイス通りしているつもりだけど、ところどころ自分の癖みたいなものが出てきている。格下相手だからもっと思い切ってもいいか、自分が弱いっていう考えが抜けないから思い切れない部分もある。


「剣を新調したんだ、自分の攻撃力を信じてどんどん敵をせん滅していったほうがいい。待つのを癖にしてしまうと、強敵に出会った時に追い詰められていくぞ」

「そうですね、この剣の切れ味があればほとんど一撃で魔物を倒せます。もう少し自分を信じてみます」

「その意気だ。過信は禁物だが、力を卑下するのはもったいない。素早い動きを慣れて、いざという時に素早く動けるようになったほうがいいぞ」


 そうだよね、自分は結構力がついてきたんだ、今までと同じ戦闘スタイルじゃダメだよね。今の自分にあった戦闘スタイルを見つけたほうがいい、なんだか少しずつ強くなっていっているんだなって実感できた。


「とりあえず、浅いところで戦闘を繰り返していくぞ。悪いところを洗い出して改善していけば、今よりもっと戦いやすくなる」

「はい、お願いします」


 ヒルデさんはとことん私に付き合ってくれるみたいだ。ただ魔物を討伐するだけじゃなくて、戦い方を教えてくれたりして知識を分けてくれる。


 あまり他人と討伐にいかないから、こういう風に言ってくれるのは凄く助かる。ヒルデさんがいるうちにもっともっと戦うのが上手くなるといいな。


 ◇


 あれから、ずっと浅いところでFランクからDランクまでの魔物と戦った。戦いなれた敵ばかりだったので、色々と考えながら戦えていい経験になったかな。


 私の戦闘スタイルも大分様変わりした。いつもは相手の動きを見極めてから慎重に攻撃を開始して、隙があったところを攻撃する、という感じで戦っていた。


 今では敵に速攻をかけて攻撃を仕掛けて、攻撃する機会を与えないような戦闘スタイルになった。それができるのは私に力がついたからだ、今までは力がなかったから慎重になっていただけ。


 身体強化なしでこれほど動けるようになったことは自信にも繋がった。ヒルデさんからの言葉を受けて、いい部分と悪い部分が明確に分かったことが良いと思う。


 少しずつ自分の中で変わっていくのを感じながら、自分の力を知った。自分の力を知ると、何ができて何ができないのか自分でも分析ができるようになる。


 お陰で急速に私の戦闘スタイルは変わっていく。敵の攻撃を避けるのは変わらないが、他の部分はどんどん変えていった。自分だけでは変えられなかった部分がヒルデさんの言葉によって直されていく。


 何度も戦闘を重ねていると、ヒルデさんが何かに気が付いた。


「あそこにいるのがプラントイーターだ」


 今日初めてのプラントイーターを見つけた。木の根本に五十センチメートルくらいの緑色した袋のようなものがあり、そこからはいくつもの触手が伸びている。


「あいつは触手で攻撃を仕掛けてきたり、触手で捕まえてきたりする。中央にある蕾で捕食するから気をつけろ」

「弱点とかないんですか?」

「あるぞ、火魔法が弱点だ。リルは使えるか?」

「はい、使えます」

「なら、余計な戦闘を避けるために火魔法で倒すのがいいだろう」


 どんな動きをするのか知りたかったけど、ここは言うとおりにしよう。触手が届かない位置まで移動すると、手をかざして魔力を高めていく。その魔力を火に変換して火球を作っていく。


 手の前で火球が作られると、それをプラントイーターに向けて放った。まっすぐ飛んだ火球はプラントイーターに直撃して、激しく燃え上がる。


「ギィィィッ」

「触手の動きが止まったら死んだことになる。それまでは離れた位置で確認するのがいいだろう」


 燃え上がるプラントイーターは触手を激しく揺らしながら暴れた。しばらく見ていると、触手に力が抜けてへなへなと地面に落ちる。もう、大丈夫そうだ。


 近寄ろうとすると、あることに気づいた。プラントイーターを燃やしていた火が木に燃え移ったのだ。危ない、このままだと火事になっちゃう!


 手をかざして魔力を高め、大きな水球を作っていく。水球が出来上がると、木に向けて放った。


 バシャッ


 音を立てて水球が壊れて、木とプラントイーターに降りかかった。だけど、まだ火は消えない。もう一度大きな水球を作り、木にめがけて放った。


 バシャッ


 ジュッと火が消える音がして鎮火した。危なかった、あのまま放置していたら火事になっていたよ。


「火球の勢いが強すぎたからか、木に火が移ってしまったな」

「はい、危なかったです。森の中で火魔法って危険なんですね」

「弱い火であれば大丈夫だと思うが、強い火であれば木に引火する恐れはあるだろうな。今回は燃えやすいプラントイーターの近くに木があったから、燃え移ったんだろうな」


 そっか、プラントイーターって燃えやすいんだな、だから火魔法に弱いんだ。


「リルはどんな魔法を使えるんだ?」

「火魔法で火球を作ったり、風魔法で風圧のある風を起こしたり、雷魔法で剣に纏わせて戦ったりですね。水魔法で水球も作れますが、戦闘には役に立ちません」

「色々な魔法は使えるが、強いものはなさそうだな。雷魔法は今後は役に立ちそうだ。今まではどんな風に魔法を使っていたんだ」


 私はヒルデさんに魔法を使った戦い方を説明した。今までは攻撃の隙をつくるために使っていたことが多く、単体の魔法で魔物を仕留めることができるのは火球くらいしかない。


 魔法は使っているが、強くはなっていない。爆発的な威力はなく、予備の攻撃としての側面があった。


「ふむ、話を聞くと今後の戦闘スタイルには必要なさそうに思える。だが、使えたほうが何かと便利だしな」

「そうなんですよね、使えると便利だとは思うんですけど、今の状況だとあまり活躍の場がなくて困ってます」

「無理に魔法をねじ込んだ戦闘スタイルにする必要はないしな、この問題は後で考えることにしよう。さぁ、今日は残りわずかだ、最後の追い込みをするぞ」

「はい」


 気が付けば周りは日が暮れ始めている。最後の追い込みに森の中で魔物を探していく。

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