194.魔物討伐~森と湖~(1)
「ヒルデさん、おはようございます」
「あぁ、おはよう」
東門のところに行くとヒルデさんが先に来ていた。その近くには馬車も待っていて、冒険者が続々と集まってきている。
今日から冒険に行く場所はコーバスの東にある森と湖の周辺だ。そこの場所へは徒歩でもいけるが、徒歩だったら半日はかかるらしい。だから、その場所まで馬車が出ているみたいで今回はそれを利用していくみたい。
ヒルデさんの片足がない代わりに片方は棒だ、それでずっと歩くのは大変なんだろう。私も冒険の前に余計な体力を使いたくないので馬車に乗ることは賛成した。
「馬車が満員になる前に入ろうか」
「はい」
ヒルデさんに言われて、私たちは御者の人に料金を払い、馬車の中に入った。馬車は大型の幌馬車で、二台もとまっている。一台の中には冒険者が十四人も乗れるほど広くなっていた。
その中に入り出発を待つ。
「忘れ物はないか?」
「昨日の夜と今朝もチェックしたので大丈夫です。冒険で初めての外泊になるのでドキドキします」
「なら、今が一番楽しいな」
久しぶりの二人での冒険に、胸が弾むようだ。お喋りしながら待っていると、御者の人が声を上げた。
「出発するぞー」
その声の後、鞭を叩く音が聞こえてゆっくりと馬車が動き出した。それは次第に早くなり、馬車の中の揺れが大きくなる。この揺れが二時間か、ちょっと大変そうだ。
「ふふっ、折角馬車に乗って体力を温存するつもりが、馬車の揺れで体力を持っていかれるとはな」
「揺れの少ない馬車に乗ってみたいです」
「それなら貴族を目指すしかないな、頑張れ」
貴族かー、私なんかには夢のまた夢な話だな。馬車に揺られながら、私たちはコーバスを離れていった。
◇
「野営地についたぞー」
馬車が揺れなくなった、ようやく目的の場所についたみたいだ。馬車の中にいた冒険者が続々と馬車から降りていき、私たちも窮屈な馬車からようやく降りることができた。
「んー、やっとついたぁ。ここが冒険者が集まる野営地ですか」
大きく背伸びをして固まった筋肉を伸ばす。歩かなくて楽なのはいいけど、馬車の中って案外疲れるから大変だ。
改めて辺りを見渡すと、そこは大きな道と繋がっている広場になっていた。道の奥のほうを見てみると、湖の姿が確認できる。ここは森の中の野営地だ。
だけど、テントは数えるほどしか建っていない。どうしてだろう?
「野営地なのにテントの数が少ないですね」
「あぁ、みんな盗まれないようにマジックバッグに入れているんだ。今残っているテントの中には人がいるからな、見張りがいるからテントを残しているんだ」
「そうなんですね。ということは、毎日テントを設営しないといけないことになります」
「始めは手こずるかもしれないが、回数をこなしている内に慣れてくるさ」
設営しっぱなしは楽だけど、盗まれる危険があるんだ。どこにでもそういう人はいるし、私も気をつけておかないとね。
「ちょっと早いが、昼食にするか。食べ物は持ってきたか?」
「はい、三泊四日分買ってきました」
外泊をする冒険だと食事は外で作るかと思ったんだけど、そうじゃなかったみたい。ヒルデさんの話では、日数分の食事を予め作っておいてマジックバッグに入れておくそうだ。
そうすると、食事を用意する手間が省けて体力温存にもなるし、その分魔物討伐に時間を割けるらしい。そのアドバイスを受けて、私はお気に入りの飲食店にお願いして食事を作ってもらった。
そういう冒険者は沢山いるみたいで、どこの店にいっても快く引き受けてくれた。楽なのはいいけど、野営地で食事を作るのが楽しかったからそこだけちょっと残念。
お外で焼いたホーンラビットのお肉、美味しかったなぁ。おっと、いけない、用意しないと。マジックバッグの中から敷物を取り出して地面に敷くと、その上に座る。それからマジックバッグの中からサンドイッチと水筒を取り出した。
「リルはサンドイッチか」
「ヒルデさんはなんですか?」
「実は私もサンドイッチだ」
二人でサンドイッチを見せ合って、笑った。それからサンドイッチにかぶりつく、うん、塩気のあるベーコンに濃厚なたまごの黄身が混じってとても美味しい。野菜もシャキシャキしてて食感もいいな。
「ヒルデさんのサンドイッチにはなんの肉がはさんであるんですか? 私は豚のベーコンです」
「私はブラックカウのステーキだ」
ブラックカウかー、まだ会ったことないな、どこにいるんだろう。今回の森と湖にはいないみたいだったけど、違う地域にいるのかな? 今度調べてみよう。
◇
昼食を食べ終えた私たちは魔物討伐をするためにまず森に来ていた。
「この森には何がいるか分かるか?」
「はい。Fランクのゴブリン、コボルト。Eランクのゴブリン、ホブゴブリン。Dランクのメルクボア、プラントイーター。Cランクのワイルドウルフ。Bランクのズールベア、です」
「良く調べてきてあるな、その通りだ。この森には色んなランクの魔物が集まってきていて、どんな魔物に会うかは運次第となる」
そう、この森には低級の魔物から上級の魔物まで様々いる。森の奥にいくほど強い魔物がいて、浅いところには弱い魔物しかいないらしい。だから、森の奥に行かない限りは安全だ。
でも、魔物討伐で稼いでいるのだから浅い部分で戦ってもお金は稼げない。そこそこ深い場所で討伐しなければいけない、新しい剣も買ったしどんどん倒していくよ。
森の浅い部分から森の奥のほうへ歩いていくと、魔物の気配がした。立ち止まって周りを窺ってみると、茂みから魔物が飛び出してきた。
「ウゥゥッ」
「ガウッ」
「あれはコボルトだな」
手にこん棒を持った二足歩行の狼型の魔物だ。身長は私よりちょっと低い感じで、小さい感じがする。牙をむき出しにして今にも飛び掛かってきそうだ。
私は剣を抜き、コボルトと対峙する。
「この程度なら相手の様子を窺う前に倒したほうがいい。力や速度が劣っているからな、速攻で片づけられるはずだ」
「はい」
初めて戦う相手だから様子を見ようと思ったけど、その必要はなかったみたいだね。かなりの格下相手に時間を取られるなっていうことなんだろうと思う。
私は身体強化なしで駆け出した、するとコボルトも駆け出してくる。動きや速度はゴブリンみたいだ、これだったら速攻で片づけられそう。コボルトが武器を振り下ろす前に、素早く剣を振った。
「ギャッ」
深い一撃を与えられた、次はこっちだ。下から上へと深く切りつけた。
「ガァッ」
コボルトが武器を振り下ろす前に一瞬で切りつけられた。二体のコボルトは小さな悲鳴を上げると、地面に倒れる。全く手ごたえがなかった、Fランクってこんなにも弱いものだったっけ?
「まぁ、こんなもんだろう。今度は姿を見かけたら、相手が武器を構える前に動き出したほうがいい」
「今まで相手を窺ってから動いてましたから、今度はそうします」
「相手を窺うのはいいが、それだと相手に時間をくれてやるようなものだ。格下相手には速攻で終わらせたほうがいい」
こんな戦闘しても見直すことはある。ヒルデさんは私よりも長い経験があるから、こういうアドバイスはとても助かる。うん、今度から格下相手には速攻で倒すことにしよう。
倒れて動かないコボルトに近寄って、討伐証明である右耳をナイフで切り落とす。少ない金額だけど大事な収入だ、忘れずに取っておかないとね。
「それじゃあ、先に進むぞ」
「はい」
ヒルデさんとの本格的な魔物討伐の冒険が始まった。
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