185.領主クエスト、襲撃の撃退(9)

 夕方頃、コーバスに戻ってきた私たちは馬車に乗って冒険者ギルドにたどり着いた。みんなで中に入ってみると、丁度混みあっている時間帯で沢山の冒険者がいる。


「俺が代表して行ってくるから、待合席で待っていてくれ」


 そんな中、ラミードさんが率先して動いてくれた。お言葉に甘えて私たちは待合席で座って待つことに。ふー、今日は疲れたなぁ。


 しばらく待っていると、ラミードさんがギルド職員を連れて戻ってきた。


「これから解体所に行って、素材を提出してくる」

「確認が終わるまでここで待っていてくださいね」


 そういうとラミードさんはギルド職員と一緒にギルドの奥へと去っていった。残された私たちは終わるまで大人しく待って、ということはない。


「よっしゃ、一杯飲むか」

「俺も飲もう」

「俺も俺も」


 ギルドに併設されてある飲食店のほうに移動していき、勝手にお酒を飲み始めた。ワイワイと騒ぎ出すのを見つめながら、時間が経つのを待つ。


 しばらく待っていると、ラミードさんがギルド職員と戻ってきた。


「待たせたな、素材は全部渡してきた。これからの予定はギルド職員が話す。おーい、お前らも一度戻ってこい」


 ラミードさんの掛け声でお酒を飲んでいた冒険者たちが戻ってきた。さて、どんな話しになるのかな?


「まず、みなさま討伐お疲れさまでした。討伐した魔物の確認が終わりまして、次に作戦中の出来事を話してもらいます。ですが、今日は時間がないということなので、明日の十時に二階の第一会議室までお越しください」


 そっか、もう夕方だから話し合う時間がないもんね。もし、これから話し合いをするのであれば、終わるのはギルドが閉まった後になってしまいそうだ。


「具体的な功績などの話しはそこでしてもらいます。報酬もその時にお渡ししますので、もうしばらくお待ちください」

「というわけで、今日はこれで解散だ。帰るなり、飲むなり好きにしろ。その代わり明日は遅れずに会議室まで来いよ」


 ラミードさんがそういうと飲みに戻る人や、そのまま帰る人に別れた。私は一度宿屋に戻ってシャワーを浴びて、外に食べに行こうかな。今回の報酬はいくらくらい貰えるのか、明日が楽しみ。


 ◇


 翌日、遅い時間に宿屋を出た私は冒険者ギルドへとやってきた。時間はまだ十時になっていないので、余裕で間に合ったみたいだ。そのまま会議室まで行くと、すでに数人の人が席に座って待っていた。


 私も空いた席に座り、みんなが揃うまで待った。しばらく待っていると残りの冒険者がちらほらと現れて、作戦に参加した冒険者が全員集まる。それから少しして、ギルド職員もやってきた。


「みなさま、お集まりいただきありがとうございます。これより、ワイルドウルフ集団の襲撃に関する話し合いを始めたいと思います」


 早速話が始まった。まずは作戦の概要から話を始め、内容をみんなで確認をする。すると、ギルド職員が私の方を向いて、みんなの注目を集めるように手を向けた。


「作戦を立案してくださったのは、リル様です。この作戦があったお陰で、みなさんが大きなけがもなく帰って来れたと思います。改めて、ありがとうございました」

「いえ、力になれて良かったです」


 みんなの前で褒められて、照れ臭くなって俯いてしまった。こういう時は堂々としたほうがいいんだろうけど、慣れないことだから仕方ないよね。


 その後、具体的に作戦中に何があったかの話し合いになった。


 まずは囮馬車を使ってワイルドウルフを引き込む作戦。この作戦に加担した冒険者がそれぞれ口を開く。御者の冒険者、女の魔法使い、男の魔法使い、そして私。


「始めは馬車の後方で待機していましたが、二人の魔法使いが魔法を使えない状況に陥ったので、私が前に出て襲ってくるワイルドウルフを撃退しました」

「この子がいなかったら、馬車は襲われていたと思うわ」

「僕たちは手放しで立ち上がれなくて、何もできませんでした」

「なるほど、分かりました。馬車の中ではリルさんが主に対応してくれたみたいですね、あと御者を引き受けてくれた方、と」


 魔法使いの二人は嘘偽りなく本当のことを話してくれた。話を聞いたギルド職員は何かのメモを取り、話は移っていく。今度は作戦地点にワイルドウルフを引き込むことに成功した時の話だ。


 冒険者たちはどんな風に立ち回ってワイルドウルフを倒したか話をした。話は聞きごたえのあるもので、他の冒険者がどうやって倒したのか興味津々に聞く。


 色んな戦い方があるんだな、と関心していると私に話が回ってきた。


「私は全部で五頭のワイルドウルフを倒しました。まず一頭、次に二頭まとめて、最後も二頭まとめてです。怪我もなく退治することができました」

「なるほど、みなさんと変わらない活躍をされたんですね。その年で凄いですね。ワイルドウルフの件は分かりました、では次にネームドとの戦いの話に移りたいと思います」

「それならまず俺から話をしよう」


 私の話が終わるとラミードさんがまず先に話し始めた。ネームドとの戦いはかなり激しいものだったみたいで、私が戦った時にはかなり消耗したあとだと分かる。


 ラミードさん以外の冒険者も同じような話をしていた。攻撃を当てるので精一杯で致命傷を与えられなかったとか、相手の猛攻のせいで攻撃する隙がなかったとか、そういうものだ。


 そんな中ラミードさんの指示に従って相手を追い詰めていくと、状況が好転したらしい。それでも致命傷を与えることができなかったみたいだ。


 そんな話をした後、私の話になった。


「見た目が弱いリルを見つけたネームドはそっちに標的を変えた、だけどそれをリルは撃退した。その状況を利用してリルが自ら囮になることを決めた」

「リルさんが囮役を? 大丈夫だったんですか?」


 ギルド職員は酷く驚いた顔をしてこっちを見た。ちょっと非難するような視線が混じっていたのは間違いない。


「信じられねぇかもしれないが、大丈夫だった。俺らがあんなに苦労したネームドの攻撃を躱して気を引いてくれた。その隙をつき、二人の冒険者が攻撃を与え、怯んだ隙に俺が頭を一つ落とした。その後、自棄になったネームドはリルを道連れにしようと襲ったんだ。だが、そのネームドの渾身の攻撃を躱して、リルが残りの頭を切り落とした」

「えっ、ということは……リルさんが最後のとどめを刺したことになるんですか?」

「そういう認識で間違いない」


 ギルド職員は慌てたようにメモを取っていた。それから、事後処理の話になりそれぞれが行った作業の話をする。これで全部を話し終わったことになったね。


「それでは活躍の割合に応じて報酬を決めたいと思いますので、このまましばらくお待ちください」


 そう言ってギルド職員は部屋を出ていった。次は報酬か、どれだけ貰えるのか楽しみだ。


 ◇


 戻ってきたギルド職員は一人ずつ名前を言って報酬を手渡した。どれくらい貰っているか分からないけど、みんなが喜んでいるんだから沢山のお金を貰っているのだろう。


 自分の番を待っていると、名前が呼ばれた。


「リルさんですね。作戦の立案、馬車での活躍、ワイルドウルフの討伐、ネームドへのとどめの一撃、事後処理。様々な活躍をされたので、報酬はかなり高くなっています」

「ありがとうございます」


 袋に入っているお金を受け取った、かなり重い。その場を離れて、袋の中身を確認すると……三十万ルタ!? え、こんなに貰ってもいいの!?


「今回の討伐、本当にお疲れさまでした。詳細に関しては領主さまに伝えさせていただきます。もしかしたら、お声がかかるかもしれませんが、その時は指示に従ってください。その時に何か分からないことがあればなんでも言ってください」


 えっ、領主さまに今回の詳細が伝わるの? それは嬉しいな、領主さまに私の名前が伝わったりするのかな? これからも沢山活躍すれば、領主さまに呼ばれたりするのかな……そうなりたいな。


 わたしがここにいられるのは領主さまのお陰なんだし、これで少しは恩返しできたかな。もっともっと活躍して、領主さまのために頑張っていこう。


 そうやって私が気合を入れていると、ラミードさんの声が響く。


「よし、みんなで打ち上げするぞ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る