186.領主クエスト、襲撃の撃退(10)

 一瞬、シーンと静かになったけどすぐに声が上がる。


「いいねぇ、昼から酒を飲めるなんて!」

「全員で行こうぜ!」


 みんな乗り気だ。お酒か、私は飲めないからなぁ。一緒に行っても楽しめなさそうだし、断ろうかな。


 考え事をしていると、頭に手を置かれた。


「一番の功労者であるリルはくるっきゃないよな?」

「わ、私もですか? でも、お酒飲めないですし」

「酒は飲めるヤツだけ飲めばいいから気にするな。美味しい食い物を食べればいいだろう?」


 そうだけど、お酒の席でお酒を飲まないのは疎外感が……でも、こういう機会じゃなきゃみんなで飲み食いできないし。そういえば、そういう機会って一度もなかったような。


 みんなで一緒にクエストを達成できたっていうのは、あんまりないよね。ホルトの町ではロイと一緒で行動できたけど、こういう打ち上げとかはやらなかった。


 初めての打ち上げか、今後もこういうクエストを受けるのならそういう機会も巡ってくるんだろうなぁ。うん、他の冒険者とも話せる機会なんだし参加をしよう。


「参加させてください」

「おう、なら決まりだな。一番の功労者が参加するんだから、他の奴らも参加するよな!?」

「もちろん、行こうぜ!」


 私の参加が知れ渡るとその場は盛り上がった。そのまま集団でぞろぞろと部屋を出ていき、一階の併設されている飲食店の前にくる。まだ昼前だから、飲食店の前に冒険者は誰もいなかった。


「まずは注文からだ。俺はエールとつまみの盛り合わせ、オークの生ハム」

「俺もエールとつまみの盛り合わせ、ブラックカウの串焼き」


 受付のカウンターでは冒険者たちが次々と注文を始めた。私も注文をしないと、何を頼もうかな。順番を待ちながら、壁に張ってあるメニュー表を見ながら考える。


「次の人は?」

「はい。えーっと、季節の果実ジュースとクラッカーとチーズとドライフルーツの盛り合わせで。お金はこれで」

「はいよ。これは釣りな、座って待ってな」


 注文が終わり振り返ると、冒険者たちはもう席についていた。


「こっちにきなさいよ」


 魔法使いのお姉さんが手招きして呼んでくれた。近づくとお姉さんの隣の席が空いており、そこに座らせてもらう。わいわい、と盛り上がりつつあるところに店員さんが飲み物を持って現れた。


「はいよ、おまち! エールが九つに果実ジュースが一つね」

「まわせ、まわせ」

「嬢ちゃんには果実ジュースだ」


 店員さんがテーブルにドンッと飲み物を置くと、近くにいた冒険者が隣に手渡して飲み物を移動させる。端に座っていた私のところに果実ジュースが届けられた。


「よし、全員に飲み物が行き渡ったな。それじゃ、領主さまのクエストお疲れ様、乾杯!」

「かんぱーい!」


 全員が飲み物を掲げてそれを飲み干す。私も一口口をつけた、甘酸っぱい味が口いっぱいに広がって美味しい。


「プハーッ! 昼前から飲む酒は最高だな!」

「今回は大きな怪我もなく終えられてよかった。五十頭以上って聞いた時は驚いた」

「そうそう、それに加えてネームドがいるっていう話だったから、今回は難しいクエストだと思った」


 みんな一口飲むと思い思いの話題で話に花を咲かせた。話の内容はどれもクエストのことで、本心が見え隠れするものばかりだ。


「そうねぇ、十人で五十頭以上のワイルドウルフを相手にするって聞いた時は、大変なクエストだと思ったわよ」

「それに加えて、今回は子供が入ってましたからね、キツイ戦いになりそうでした」

「子供のお守りもしなきゃならないのか、って思ったぞ」


 そんなことを考えてくれていたんだ。そうだよね、こういうクエストに子供が入るっていうことはそういう目で見られるっていうことだから。


 ちょっとだけ、落ち込んでいた。けど――


「まさか、その子供があんなに活躍するだなんて誰も想像できねぇよ!」

「あぁ、全くだ。周りに迷惑かけるどころか、色んなところで活躍するなんてな!」


 ちょっとだけ重い雰囲気がすぐに綺麗になくなった。みんなが明るい顔をして、私の活躍を話してくれた、なんだか照れくさいな。


「あんたはどうだったのよ。周りの当たりがキツかったとか思ってたんじゃないの?」

「私ですか? そうですね、あんまり受け入れてもらえてなかったように感じた時は仕方ないのかな、と思ってました。でも、そんなことを気にしてクエストが失敗したら嫌だったので、自分のできることをしっかりとしようって考えました」


 そう、始めは周りの目が痛かった。子供が領主さまのクエストを受けるだなんて身の程知らずが、と言われているようだった。でも、そんなことで引くわけにはいかなかった。


 だから、その時まで我慢だ。自分に言い聞かせて、その時まで待って、待って、待った。そして、その時が来ると自分の力を解放、結果として活躍できたことになる。


「自分のやるべきことをしっかりすれば、みんなに認められるって信じてましたから。だから今、こうして普通に話してくれることが凄く嬉しいです。えっと、やるべきことをやって冒険者として認められたってことでいいですよね?」


 周りに聞いてみると、静かだった周りの冒険者が声を上げた。


「始めは本当にすまなかったな、気が立ってたみたいでよ。だが、今は嬢ちゃんのことは認めているぜ」

「居心地悪かったよなぁ、俺も子供だからっていう目でしか見てなかったわ。まさか、あそこまで活躍するとは……」

「始めは抽選を恨んだけど、あの抽選はいい抽選だったんだな。俺も嫌な目で見ちまったわ、すまんな」


 今こうして仲良くしてくれるのが嬉しいから、私は全然嫌な気持ちじゃない。むしろあの態度は当たり前だと思っていたんだけど、みんなが申し訳なさそうにしているのが逆に申し訳なくなった。


 すると、一緒に馬車に乗っていたお姉さんたちも話をしてくれる。


「わたしたちも馬車の中ではキツく当たっちゃったわ。何もできない子供だって決めつけちゃっていたわ」

「僕も同じですね、抽選で選ばれただけの子供だと思ってました。実際戦いになると、子供とは思えないほどの行動力でしたね」

「俺もキツくあたってすまんかったな。あんまり見えないけど、馬車の中では本当に助かったぜ」

「みなさん……私に活躍する機会をくださってありがとうございました」


 やっぱりみんな子供だからっていう偏見は持っていたみたい。そうだよね、命のやり取りをする大事なクエストだもの、そういう目で見てきて正解だと思う。


 始めはキツかった三人も今じゃ穏やかに話しかけてくれる、それだけで十分だよ。それって冒険者として認めてくれたってことだから、私にとったらとても嬉しいことだ。


 すると、その話にラミードさんものっかってくる。


「俺もそんな目でリルを見ていたな。子供だからって線引きしていた。だけど、その必要はなかったんだな。こいつはそれだけの実力があるからこの地位にいるんだ」

「そういってくれて嬉しいです。冒険者として認めてくれますか?」

「何を今更、もうとっくに認めているよ。なぁ、リルは立派な冒険者だよな!」


 ラミードさんが声を上げると、他の冒険者も声を上げて賛同してくれた。嬉しい、みんなそう思ってくれているんだ。


 コーバスに来て、少しずつだけど自分が認められていくような気がした。その中で気の置けない冒険者たちと出会ったことは、私にとって大きな財産だ。


 これからも少しずつ、繋がっていく人が増えたらいいなと思っている。

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