183.領主クエスト、襲撃の撃退(7)
馬車を追ってきたワイルドウルフの集団は掘っておいた落とし穴にはまった。だけど、全部は落としきれず、落とすことができたのは十頭くらいだ。
それでも数が減ったことはいいこと、残りは四十頭とネームドを倒すだけだ。ここまで追ってきた集団を冒険者がすでに取り囲んでおり、すでに戦闘は開始されていた。
まさか誘いこまれたと思ってもみなかった集団は始めは戸惑っていたみたいだが、一つの遠吠えが聞こえるとその戸惑いも綺麗になくなった。きっとその遠吠えをしたのが集団を率いているネームドなんだと思う。
あとはどんな姿をしているか確認するだけなんだけど、どこにいるのか分からない。近くにいるのは分かるけど、散らばっているからはっきりとは分からなかった。
そんな周囲を見渡すと、落とし穴周辺で待機していた冒険者たちがワイルドウルフに攻撃を仕掛けている。なんとか先制攻撃は成功したみたいでホッとした。
あとは私もその戦いに加わるだけだ。馬車に一緒に乗っていた御者の冒険者が斧を手に持ち、近くまでやってきた。
「よぉ、見た目によらずやるじゃねぇか。ここまでの援護、助かったぜ」
「こちらこそ、馬車の運転ありがとうございます。作戦地点に無事に到着することができました」
「ここからは俺も参戦させてもらうぞ。じゃ、手柄は頂いていくぜ」
そう言って御者だった冒険者はワイルドウルフに向かって駆け出していった。今のって、私を冒険者として認めてくれたっていうことだよね。えへへ、嬉しいな。喜んでいる暇なんてないのに、嬉しくなっちゃう。
よし、気合を入れなおしてワイルドウルフを退治しよう。これから戦おうという時、声が聞こえてきた。
「アイスジャベリンッ!」
「エクスプロージョンッ!」
振り向くと無数の氷の刃が空中で生成され排出され、大きな爆発が起こっていた。先ほど別れた魔法使いたちが大暴れしているみたいだ、本当に強い人たちだったんだな。
私も負けないようにワイルドウルフを退治しよう。周囲を見渡していると、一頭のワイルドウルフが近づいてきた。
「グルルッ」
まずこのワイルドウルフから退治しよう。剣を構え、身体強化をする。そして、相手が動く前にこちらが動いた。
「ガウッ!」
それを見てワイルドウルフも動き出した。飛び出してきたワイルドウルフは私の足を狙って噛みついてくる。
「ほっ!」
軽く前にジャンプをしてそれを避けた。地面に着地すると、すぐに振り返って手をかざす。魔力を高めて火球を生成していき、ワイルドウルフがこちらを振り向いた時、火球を放った。
まっすぐ飛んだ火球はワイルドウルフの体に着弾して、体が燃え上がった。
「ギャワンッ!」
突然のことで驚いたワイルドウルフはその場で転げまわった。その隙をつき、駆け寄ると軽く前にジャンプをして剣を喉元に突き立てる。剣先は深く突き刺さるが、動きは止まらない。
そのまま切り裂くように剣を横に動かしながら引き抜くと、大量の血を吹き出しながら痙攣する。動きが止まり、ワイルドウルフは絶命した。
これで一頭目。すぐに周囲を確認すると、こちらに近寄ってくる二頭のワイルドウルフが見えた。二頭か、普通の身体強化じゃ手こずりそうだ。身体超化をしよう。
一旦身体強化を切ると、今度は身体超化した。体に力が溢れてくる、これなら二頭を相手にすることができる。
「ガウッ!」
「ガアァッ!」
こちらが身構える前にワイルドウルフが襲ってきた。全速力で走ってくると、口を開けて噛みつこうとする。だけど、その動きは今の私には遅い。高く垂直にジャンプをして噛みつき攻撃を避けた。
着地をすると、速攻でワイルドウルフとの距離を詰めた。その速さにワイルドウルフが驚いている内に、剣を振り上げる。軽く前にジャンプをすると、ワイルドウルフの首めがけて剣を振った。
「ガッ……」
「ギャワワンッ!?」
一撃でワイルドウルフの首を切り落とした。仲間の様子を見てワイルドウルフがさらに驚いている。隙があり過ぎる、すぐに体をひねりもう一頭のワイルドウルフの首めがけて駆け寄り、今度は下から上に剣を振り上げた。
「ギャッ……」
スパッと首を切り落とした。ごろり、とワイルドウルフの体が地面の上に転がった。これで三頭目だ、ノルマまであと二頭、いや一頭かな?
周囲を見渡すと、他の冒険者も順調に討伐しているようだった。まだまだ数はいるから、気を引き締めて戦わないとね。
「グルルッ」
「ガァッ!」
少し突っ立っているだけで、またワイルドウルフが二頭近づいてきた。子供だから弱そうに見えるのかな? あいにく、私はそんなに弱くはないよ。
これを倒せばノルマは達成だ、気合を入れて退治しよう。身体超化はそのままに、私はワイルドウルフに向かって駆け出した。
◇
「ガッ……」
「ふぅ」
五頭目のワイルドウルフを退治することができた。怪我もなくいられたのも、退治できたのも身体超化のお陰だ。しっかりと鍛えておいて良かったな。
改めて周囲を見渡してみると、ワイルドウルフの数はかなり減っていた。残りは十頭もいない、あとは穴の中に落ちた十頭も倒さないといけないよね。
特に連携を取っていないが、ここまでみんな無事に討伐できたのも個々に力があったからだろう。周囲を確認しても、重傷な冒険者はいない。
そんな中、一番冒険者が集まっている場所を見つけた。少し近寄って見てみると、そこには見慣れないワイルドウルフがいるのを見つけた。
体長が二メートルを超え全身が黒い毛に覆われ、顔が二つもついている。きっとあれがネームドと言われる個体なのだろう、いかにも強そうに見える。
強そうに見えるネームドだけど、全身が傷だらけで息が荒くなっている。複数の冒険者から攻撃を食らっていて、苦戦をしているみたいだ。この調子だと勝てそうだね。
私は今のうちに残ったワイルドウルフを退治しよう。ネームドは倒せないけど、普通のワイルドウルフを倒して冒険者としてできるところを見せつけないとね。
よし、あっちにいるワイルドウルフを倒そう。
「ガアアァァァッ!!」
大声が響き渡り、驚いて振り返った。遠くにいたネームドがこっちに向かって駆け出してくる。他の誰でもない、私めがけて近づいてきた。もしかして、弱そうだから標的になったみたい?
「リル、危ない!!」
ネームドを相手にしていたラミードさんが叫ぶ。こちらに向かって駆け出してくるけど、ネームドのほうが速い。ものすごい勢いで私を狙ってくる。
こっちにくるなら容赦はしない、身体超化をした。剣を構えて迎え撃つと、ネームドがすぐ目の前までやってくる。
「ガァァッ!!」
二つの大きな口が開き、私に噛みついてくる。それを後ろに飛ぶことで避けた。だけど、それだけでネームドの攻撃は止まらない。連続で噛みつく攻撃を仕掛けてきた。
鋭い歯で噛まれたら痛いだけじゃすまない、肉ごと奪われてしまいそうだ。ちょっとの恐怖を感じながら、連続の噛みつき攻撃をさけていく。反応さえ遅れなければ攻撃を受けない。
「ガウッ!!」
攻撃が当たらないからか、今度は爪で攻撃してきた。長い前足はリーチが長く、かなり距離を取らないと攻撃を食らってしまう。そこで剣で受け止めて受け流した。
重い一撃が連続で襲い掛かってくる。そのたびに剣で受け流して、攻撃をかわす。体が大きいだけで、その動きはワイルドウルフと変わらない、これだったら自分でもいけるかもしれない。
次に爪を振ってきた後、動きに合わせて一歩踏み込んで剣を振る。踏み込みが足りず剣先は浅い、それでも一撃を与えることができた。
「ググッ」
一撃を受けたネームドがすぐに後ろに飛んで距離を取った。このまま踏み込んできたら、もう一撃を食らうことを分かったのだろう。その機会を失って、私は少しだけ残念に思った。
ネームドは私を標的と定めた、私が弱そうに見えるからだ。だったら、相手をしよう。私が弱くないっていうことを証明する。
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