180.領主クエスト、襲撃の撃退(4)

 クエスト決行の日、街の外でギルド職員と冒険者が集まった。


「商隊に偽装するための馬車を用意しました」

「それじゃあ、話した通りに馬車に入る組と落とし穴近辺に待機する組に別れるぞ」


 ラミードさんのかけ声でそれぞれの冒険者が動き出す。馬車に乗り込むのは御者の経験がある冒険者、魔法の使える冒険者二名、そして私。待機組にはラミードさん他五名の冒険者に別れた。


 私は弱いながらも魔法が使えるので、馬車の中から追ってくるワイルドウルフの足止めに魔法を放つことになった。私以外には男性二名と女性一名の冒険者がいる。


「あの、頑張りますのでよろしくお願いします!」


 一緒に戦う人たちだ、言葉を交わしておいたほうがいいよね。三人に向けて頭を下げた、だけど三人から反応がない。恐る恐る顔を上げて様子を見てみると、三人とも微妙な顔でこちらを見ていた。


「俺、子供は苦手なんだよね。どうせ御者係だし、あとよろしく」

「いいですか、足を引っ張らないでくださいよ。少なくとも、僕の魔法を使う時に邪魔はしないでくださいね」

「あんたは馬車の中で黙っていればいいんだからね。間違っても前に出ようとは思わないことね」


 挨拶どころの話じゃない。子供の私がこのクエストに参加しているのが気に食わないのか、一緒に戦うのが気に食わないのか分からないが仲良くできる雰囲気ではなかった。


 三人の態度を受けて萎縮しそうになる、けどここで負けていられない。グッと体に力を入れると、俯きかけた顔を上げて口を開く。


「できるだけ迷惑をかけないようにします。よろしくお願いします!」


 再度頭を下げて一緒に行動することをお願いした。それでも雰囲気は変わらなかった、でもそれでいい。実際に子供がいるということは迷惑になるのだろうから、今は仕方がない。


 後はその時になったら、ふさわしい行動を取れるかどうかにかかっている。その時にどれだけの働きができるか、そこで迷惑じゃないってことを知ってもらえればいい。


 頑張れ、リル。ようやく巡ってきた機会を台無しにはしたくない。少しでも領主さまのためになるように頑張るって決めたんだから、ここで頑張らないでいつ頑張るの。


「よし、気合十分」


 両手をグッと握って自分を鼓舞する。


「おい、リル」


 その時、ラミードさんの声がして振り向いた。


「あっちの組になっちまったが、お前本当に大丈夫なのか?」

「はい、この時のために訓練も積んでおいたので大丈夫です」

「あんまり信用ならないなぁ。いいか、無理に活躍しようとは思わずに周りに任せろ」


 まだまだ信用なんてないから仕方ないのかな。ラミードさんが心配してくれるのは嬉しいけど、冒険者としては嬉しくない。今は我慢、その時になるまでは信じてはくれないから。


「今は信用ないかもしれませんが、このクエストが終わる頃にはそれを逆転させてみせます」

「いやー、それはないだろう。とにかく、出しゃばらずに大人しくしておけよ」


 注意を受け、頭をポンと叩かれる。複雑な気持ちだ、でも今は仕方ない。去っていくラミードさんの後ろ姿を見ながら、自分の気持ちを強くする。絶対に活躍してみせるんだから!


 ◇


 作戦が決行された。集団のワイルドウルフがいる森に向かって馬車が動き出す。この日の為に四頭立ての馬車をギルドは用意してくれた。これなら馬車を引いて追いかけられても速度が出るよね。


 ガタゴトと馬車が進んでいく。馬車の中は思ったよりも静かで、ちょっと緊張感があった。


「ふふふ、今回のクエストで誰よりも活躍して、領主さま直々に感謝されてみせるわ。そしたら、注目の冒険者になって」

「何を言っているんですか、活躍するのは僕ですよ。この馬車での戦いで魔法を使って、追いかけてくるワイルドウルフをせん滅してやります」


 馬車の中にいた魔法使いの二人が話し始めた。どちらがより活躍するかを考えているみたい。私も活躍したら領主さまに直々に感謝されるのかな? そうだったら嬉しいな、領主さまには一度お目通り願いたかったから。


「なーに言ってんのよ、活躍するのは私よ私。得意の火魔法でワイルドウルフを全て焼き尽くしてやるわ」

「いいや、ここは氷魔法の得意な僕が活躍します。ネームドを一瞬で氷漬けにして、攻撃する隙を与えませんよ」

「いいよなー、魔法攻撃組は。俺は御者だから、活躍しどころが後半なんだからな」


 そっか、火魔法と氷魔法が得意なんだ。私は得意な魔法とかないし、どれもまだ弱いからそんなに自信ないな。氷魔法か、使ってみたいな。どんな風に発動するんだろう?


「得意な魔法があるのって凄いですね。私は平均的でそんなに強い魔法を放てないので羨ましいです」

「そうよ、一点に集中して強い魔法が放てる魔法使いはすごいのよ。あなたみたいな、色んな魔法を使えるよりも強い魔法を使えるほうがいいのよ」

「魔法の強さが魔法使いの強さです。それは魔法使いとしての評価に繋がりますからね、強い魔法が使えないと全く評価されません。ということで、あなたは今回何もできずに終わるでしょうね」

「まぁ、子供に大人が負ける訳ねぇよな。クエストに受かっただけ感謝しておけ」


 認めてもらえていないからか、当たりが厳しいように思える。どうしよう、本当に私が役立たずで終わったら。そのことを考えると、ちょっとだけ怖くなった。


「あら、怖くなったの? これだから、子供と一緒の任務なんて嫌なのよね。言っとくけど、足を引っ張らないように馬車の奥にいなさいよね」

「そうそう、僕の活躍の邪魔はしないでくださいね。領主さまに認められて、有名な冒険者になるんですから」

「何言ってんのよ、活躍して名を売るのは私よ」

「ちっ、少しは静かにできねーのかよ」


 うぅ、なんだか空気が悪くなったような気がする。今は隅っこにいたほうがいいのかな、でも仲裁したほうがいい気もする。そうだよね、一緒に戦うんだから仲良くなったほうがいいよね。


「あの、お二人が凄い魔法使いなのは分かりました。どちらも凄い活躍するんでしょうね」

「私が活躍するのよ」

「いいや、僕ですよ」

「おいおいおい、煽ってんじゃねぇよ」


 そんなつもりはなかったのに、拗れてしまった。二人の魔法使いは睨み合っているし、御者の冒険者は睨みつけてくるし、どうしてこんなことに。


 そんな状態で森の近くを馬車が進んでいった。変な緊張感が高まった時、その声は聞こえてくる。


 アオーン


 近くからワイルドウルフの遠吠えが聞こえた。一つだけなら見過ごしてしまうだろうが、一つの遠吠えが聞こえると、二つ三つと遠吠えが続く。偶然にしてはできすぎているくらいに遠吠えが続いた。


「おかしいな、明らかに何かの合図を送っているように思える」

「ねぇ、これが集団のワイルドウルフなんじゃないかしら」

「あり得ますね。今のは離れた味方に合図を送っているように思えました」

「ということは、これからワイルドウルフが襲ってくるってことですか?」


 馬車はその場で止まり、冒険者たちは周囲を警戒する。私は聴力強化をして、周囲の様子を探ってみる。すると、数えきれない足音がこちらに近づいてきているのが分かった。時折、ワイルドウルフの唸り声も聞こえてくる。


「大変です、大勢のワイルドウルフがこちらに駆け寄ってきます!」

「あぁ? なんでそんなこと分かるんだよ」

「聴力強化をして周囲の音を探りました。森のほうからまっすぐにこちらに来ます」

「本当なの? なんだか信じられないわ」

「でも、さっきの遠吠えはおかしかったですよ。逃げる準備をしたほうがいいのではないですか?」

「なら、方向転換するか」


 御者の冒険者が馬を操って、今まで来た道に向かって馬車を向ける。すると、森の中が騒がしくなった。聴力強化をしなくとも、何かが近づいてくる気配がした、それも大量に。


「ね、ねぇ……離れたほうがいいんじゃない?」

「ば、馬車を動かしてください!」

「お、おう!」


 御者の冒険者が馬に鞭を入れる。動き出す馬車は段々と速度を上げていく。だが、速度が上がり出す前に、森の中から何かが大量に飛び出してきた。


「ワイルドウルフの集団です!」


 数えきれないほどのワイルドウルフが現れた。

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