178.領主クエスト、襲撃の撃退(2)

「近郊の森でCランクのワイルドウルフが集団を形成していることが判明しました。近くを通る冒険者や商隊が襲われています。このままでは被害が甚大化する恐れがあるため、早急な対応を図るため領主さまがクエストを出しました」

「具体的にどのように撃退するのか、話し合いたいと思います」


 ギルド職員さんが話すと周りにいた冒険者たちが騒ぎ出す。


「具体的に何頭のワイルドウルフが集団を形成しているんだ?」

「確かな数は分かりませんが、五十頭は超えている話です」

「五十頭か、多いな」

「そんな数がいるんなら、ネームドが率いているんじゃないか?」


 五十頭以上のワイルドウルフか、こちらの戦力の五倍以上なんだけど対応できるのかな? 高ランクの人たちもいるから、それで補うつもりとか?


 それにしても、ネームドってなんだろう?


「あの、すいません。ネームドってなんですか?」

「ネームドは個性を獲得した魔物の意味です。突然変異でそのような魔物が現れることがあります」

「他の魔物に比べて強いのが特徴になってますね。個々で行動したりもありますが、今回はそのネームドが集団を率いている可能性が高いです」


 そういう魔物がいるんだ。今までの戦闘では出会わなかったのは幸運だったからなのかな。普通の魔物と比べて強い個体か、戦いが厳しくなりそうだな。


「ネームドを知らないなんて、あの子大丈夫か?」

「そんなことを知らないで、よくも今まで生きていけたな」

「今からでも遅くないから、このクエストを受けるのを止めたらどうだ?」


 周りの冒険者から耳に痛い話が飛んできた。ネームドがそんなに有名な話だったなんて知らなかった、調べるのが甘かったかな。周囲を見渡すと、厳しい視線が私に注がれているのに気づく。


「ほら、言わんこっちゃない。こうなることは分かっていただろう? 大人ばかりのところに子供が入ってくるんだ、こういうこともある」


 隣にいたラミードさんがそんなことをいう。領主さまのクエストを受けたいがために、不安要素を事前に考えることができなかった。舞い上がっていたせいかな。


 周りからの厳しい目にこの場からいなくなりたいという気持ちが膨らんだ。でも、それもぐっと耐える。実際に戦っている場面を見てくれれば、きっと認めてくれるはずだ。


 私は逃げない、立ち向かっていくんだ。だから、弱気な態度は見せないし挙動不審にはならない。少しでも隙を見せれば、当たりがキツくなるはずだから。


「では、実際にどのようにしてネームドがいるワイルドウルフの集団を駆逐するか話し合いましょう」


 ギルド職員の声で冒険者は黙り込んで考え始める。私も考えなくっちゃ。


「方陣を組んで森の中に突入するっていうのはどうだ? 四方からやってきたワイルドウルフと戦うことができる」

「それで全部のワイルドウルフを倒せるとは思えないな。ワイルドウルフを囲んで内側に追い込んで倒すのはどうだ?」

「数がいるのに追い込むことなんてできるのか? ネームドもいるんだ、そのことも考えないといけないぞ」

「やっぱり先にネームドから倒すのがいいんじゃないか?」


 色んな話が冒険者の中から出てくるけど、どれも抽象的でイメージが湧かない。ネームドもいて五十頭以上もいる集団をどうやって駆逐するか、はっきりとした道筋が見えてこない。


「逆にネームドを後に倒すのはどうだ? 他のワイルドウルフは餌で釣ったところを、個々に撃破していくっていうのはどうだ?」

「バーカ、ワイルドウルフは集団で動いてくるんだぞ。個々で退治できるんなら苦労はしねぇよ」

「数日間にかけて、少しずつ数を減らしていくのがいいんじゃないか?」

「それだと割に合わねぇよ。それに途中で離散したらどうするんだ」


 いい意見が中々出てこない、私も考えないと。集団のワイルドウルフを駆逐する案か……ネームド率いる五十頭以上のワイルドウルフ。集団を残さずに倒すにはどうしたらいいだろう?


 森の中で相手をするのは難しいんじゃないかな。木が邪魔になるし、見通しも悪い。それに森のほうがワイルドウルフもやりやすい環境だと思うから、森の中で相手をするのは悪手だと思う。


 ということは、ワイルドウルフを森の外におびき寄せて、平原とかで迎え撃ったほうがいいんじゃないかな。


「あの、ワイルドウルフの集団はどんな風に商隊に襲ってきたんですか?」

「森の近くの街道を進んでいると、突然横から集団で襲い掛かってきたらしいです。なんとか逃げ出したんですが、しつこく追ってきたみたいですよ」


 なるほど、逃げると追いかけてくるのか。ということは、それを利用してワイルドウルフを森から引き離すことができそう。問題は引き離した後かな。


 平原で五十頭以上のワイルドウルフとネームドを一度に相手にするのは無理がある。数を減らせればいいんだけど、何かいい案はないかな。そうだなぁ、ワイルドウルフを分断するためには……そうだ落とし穴なんていうのはどうだろう。


 全部は無理かもしれないけど、一部を落とし穴に入れて一度に戦う数を減らすことができれば勝機はぐっと上がると思う。うん、これで提案してみよう。


「あの、ワイルドウルフを森から引き離すほうがいいと思います。森の中は立ち回りがし辛いので、分はワイルドウルフにあります。なので、戦う場所は森よりも平原のほうがいいです」

「平原にどうやって連れ出すんだよ」

「話によるとワイルドウルフの集団は襲った商隊をしばらく追う傾向があるようです。それを利用して商隊に扮した私たちが追いつかれそうで追いつかれない速度で平原まで逃げていけばいいと思います」


 私が話し出すと他の冒険者が耳を傾けてくれた。そこまで話し終えると、冒険者たちが賑わいだす。


「平原のほうがやりやすいが、一度に五十頭のワイルドウルフを相手にするのは無理だぞ。しかもネームドもいるんだから、こちらの分が悪い」

「ただ平原に引き釣り出すだけでは芸がありません。そこでワイルドウルフを落とし穴を使って、集団を分断します。数が減ればこちらにも分がある形になりますよね」


 話を聞いた冒険者は押し黙り、色々と考えている様子だった。この案はダメだったのかな、それとも色々と考えてくれているのかな。緊張してきた、どうか受け入れてもらえますように。


 しばらく静かになっていると、ラミードさんが声を上げた。


「他に何かいい案があるヤツはいるか?」

「うーん、森で戦うよりはいいと思うが……」

「他の案ねぇ……」


 みんな唸り声をあげて考えるけど、新しい案は出てこなかった。何か案をひねり出そうとする人はいるけれど、声は上がらない。ということは、私の案が通ったことになるのかな?


 まだみんなは納得してないような顔をするけど、これ以上の案は出てこない。


「これ以上案が出ないのであれば、リルさんの案を採用したいと思います」

「まぁ、うん」

「他の案、他の案……時間が足りない」

「大丈夫か? 子供が考えた案だぞ」


 不安な空気は漂うけど、案は出てこない。隣を見るとラミードさんは仕方がなさそうな呆れた顔をして、手を叩いて注目を集める。


「じゃあ、この案を採用っていうことでいいな」

「これからは具体的にこの案を詰めていきましょう」


 良かった、私の案が通ったみたいだ。他の冒険者たちはまだ納得していないような顔をしているけど、案が出ないから仕方がないよね。これで何もできない子供じゃないって分かってくれたかな。


 その時、肩にポンと手を置かれた。見上げてみるとラミードさんが気難しそうな顔をしている。


「まぁ、そのなんだ……やるじゃねぇか」


 そっぽを向きながらそんなことを言ってくれた。ふふっ、少しはできるってこと分かってくれたかな。そうだったら嬉しいな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る