177.領主クエスト、襲撃の撃退(1)
今日も朝一に冒険者ギルドへとやってきた。他の求職者や冒険者に混じってクエストボードの前にたどり着くと、早速クエストの確認をする。えーっと、あれ今日はいつもとは違うクエストがある。
周囲に人だかりができると場が騒然となった。
「領主さまのクエストだ」
「おお、ようやく出たか!」
「こうしちゃいられない、受けなくては!」
「おいおい、ちゃんとクエストの中身を確認しろよな」
青い紙が一枚張られていた、領主さまのクエストだ。とうとう念願だった領主さまのクエストに出会うことができた、嬉しい! はっ、感動している場合じゃなかった、中身を確認しないと。
えーっと、近郊の森にCランクのワイルドウルフが数十頭の群れを成していて、近くを通った者たちを集団で襲う事件が多発している。それを撃退する冒険者を十人程度募集します。
ワイルドウルフの撃退か、出会ったことはあるけれど、まだ戦ったことがない。私にとっては大変なクエストになりそう、だけどこの機会を逃したくはない。
応募資格はCランク以上の冒険者になっているから、私でも大丈夫なはずだ。よし、このクエストを受けてみよう。
受付カウンターの前に並び自分の番を待つ。しばらくすると、自分の番がやってきた。
「あら、リルちゃんじゃない。おはよう」
「おはようございます。あの、領主さまのクエストを受けたいのですが」
「そういえば、リルちゃんは領主さまのクエストを受けたくてここに来たんだったわね。分かったわ、冒険者証を出してね」
受付のお姉さんに言われて冒険者証を差し出す。データ蓄積装置で何かを確認すると、すぐにこちらを振り向いた。
「うん、リルちゃんにも資格はあるわ。でも、このクエストを希望する人は沢山いるから一部を除いて抽選になるからね」
「はい、大丈夫です」
「抽選は昼の二時、二階の第一会議室で行われるわ。遅れずにその場に来てね、人が集まってから抽選をするからね」
「分かりました、ありがとうございます」
「リルちゃん、頑張ってね」
お姉さんが両手をぐっと握って応援してくれた。うん、折角の機会だもの、絶対にものにしてみせるよ!
◇
抽選の時まで時間を潰し、少し早めに冒険者ギルドへと戻ってきた。二階に行き、廊下を見渡していると開け放たれた部屋を見つけた。その部屋の扉を見ると第一会議室と書かれてあった、ここだ。
「失礼します」
ゆっくりと中に入ってみると、そこは大きな部屋になっていた。部屋の端っこにはいくつものテーブルとイスが積み上げられ、部屋はただ広いだけの広間になっている。
数人だけど人はいた。この人数だけじゃないよね、もっと来るはずだよね。中に入っていた人を見渡すと一人のおじさんと目があった。あれ、あの人見たことがあるような。
「あ、お前はあの時の!」
そうだ、初めて冒険者ギルドに入った時に話しかけられた人だ。名前は、えーっと……
「ラミードさん」
「まさか、お前もこのクエストを受けるのか?」
「はい、この時を待ってました」
「かーっ、マジか! やめとけって言っても無駄か」
なぜかラミードさんが肩を落としている。そんなに受けて欲しくなかったのかな? でも、どうして?
「もしかして、抽選から漏れるから受けて欲しくなかったんですか?」
「いやいや、そういうことじゃない。こんなちっこい子供が危険なクエストを受けるのを見過ごせないだけだ」
「ちっこくても、それなりに強くなりました」
「そうは言ってもなぁ。全然そうは見えないんだが」
そんなに弱くみえるかな、一度戦っているところを見てもらえたら信用してくれるかな? 何かもの言いたげなラミードさんを見ていると、周囲がざわついている。なんだろう?
「あんな子供がAランクのラミードさんと親しげに話しているぞ、どういうことだ?」
「まさか一緒のAランクとかか?」
「俺も話してみてぇっ」
Aランクっていうのは注目されるらしい、みんながラミードさんを尊敬の眼差しで見ているみたいだ。それでも、領主さまのクエストを諦める訳にはいかない。
「まぁ、お前だったら抽選組だと思うからな。受かる確率はかなり低いのが救いだな」
「そんなに私に落ちてほしいですか?」
「ちっこいヤツが戦うところなんて見たくないからな。俺はお前が落ちてくれればいいと思っているぞ」
「私はしっかりと戦えます。絶対に受かってやります」
「はいはい」
ラミードさんと話していると、ギルド職員さんたちが入ってきた。
「お待たせしました、これより領主さまのクエストの選考を発表させていただきます」
「今回、事前の審査で通った人は七名になり、残りの三名は抽選で選ばせていただきます」
「それでは、まず先に審査を通った冒険者の方の名前を呼ばせていただきます」
早速発表があるみたい、ドキドキするな。ギルド職員の人が次々と名前を呼び、そこに自分の名前がないか確認していく。だけど、そこに自分の名前はなく、代わりにラミードさんの名前が呼ばれた。
「そんな、自分の名前が呼ばれなかった」
「まぁ、妥当だろうな」
「でも、また抽選があります」
「はっはっはっ、こんなに人数がいるんだから受かるわけねぇよ。このまま帰ったほうがいいんじゃないか?」
私の名前が呼ばれなかったことにラミードさんは上機嫌だ、なんだか悔しい。だけど、まだ抽選が残っている、それに賭けるしかない。
「では、次に抽選に移らせていただきます」
「今名前が呼ばれなかった人たちの名前が書かれた紙がこの箱に入っています。その中から三つ引かせていただきますね」
とうとうこの時が来た、両手を組んでお祈りをする。どうか、私の名前が呼ばれますように!
ドキドキしながら待っていると、一人目二人目の名前が呼ばれた、そこに私の名前はない。どうか、最後に呼ばれますように!
「Cランク、リルさん」
や、やったぁ! 私の名前が呼ばれた! ということは、領主さまのクエストが受けられるっていうことだよね、念願だった領主さまのクエストが受けられて嬉しい。
「以上の冒険者が領主さまのクエストを受けられることになります」
「呼ばれた方はこの場に残り、呼ばれなかった人は会議室から出てください」
ギルド職員さんの声で大勢の冒険者が部屋から出ていった。隣を見てみると、ラミードさんが片手で顔を覆っている。
「マジかよ、お前受かったのか」
「はい! これからよろしくお願いします!」
「はぁ、本当に大丈夫なんだろうな?」
そんなに信用がないのか、こんな子供なんだし当たり前か。だったら、私がやることはしっかりと仕事を終わらせることだ。領主さまのクエストなんだから、失敗は許されないよね。
「言っとくが、甘やかしはしないからな。それどころか厳しくしてやるから、覚えておけよ」
「私もみなさんの足を引っ張らないように頑張ります」
「足を引っ張ったら、班から追い出すからな」
ラミードさんはしつこいように注意をしてくる。頼りなく見えるから仕方がないよね、周囲の人にもそんな風に見えるのかな?
抽選に外れた冒険者が部屋を出ていくと、残されたのは十人の冒険者とギルド職員さんだけだ。他の冒険者の人たちの目線が私に注がれる。
「子供がいる、大丈夫なのか?」
「マジかよ、危険じゃないのか?」
「あーあ、お守りの報酬も欲しくなるなぁ」
私への第一印象は悪い。周りが大人ばかりで子供は私だけだ。力量がないと見た目だけで判断されているみたいで、なんだか悔しい。今の状態だと力のない子供が領主さまのクエストを受けているように見えるんだろうな。
ちょっと落ち込んでいると、ギルド職員さんが声を上げた。
「では、これより集団のワイルドウルフを撃退する話し合いをしたいと思います」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます