175.小売りの大安売り(1)
今日も朝一で冒険者ギルドへとやってきた。誰よりも早くクエストボードの前に行き、クエストを確認する。今日も領主さまのクエストがないから、普通のクエストを受けよう。
最近は長い期間のクエストばかり受けていたから、今回は短い期間のクエストを受けてみようかな。一つ一つクエストを確認していくと、期間が一日だけのを見つけた。
それが小売りの大安売りの臨時従業員だった。
◇
「臨時で働いてもらうことになったリルだ。みんな、よろしく頼む」
「リルです。一日だけですが、よろしくお願いします」
四人の従業員の前で紹介されて、頭を下げた。紹介してくれた人はそれだけを伝えるとその場からいなくなってしまう。ということは、ここに残った従業員から教えてもらうことになるね。
「リルちゃん、よろしくね。私は会計を担当しているの」
「今日は大安売りの日だから大変だぞ。しっかり働いてくれよ」
「リルちゃんには何をしてもらおうかしら。色々とやることはあるんだけど」
「重たい荷物でも運べますし、計算も得意です。どこか人手が足りないところで大丈夫です」
早速みんなで集まって私の仕事を考えてくれる。小売りっていうことだから、商品を運んだり並べたりとかもするよね。あと会計だってある、どれも自分にはできそうだ。
すると、残されたもう一人のおばさんが嫌味な言葉をかけてきた。
「どうして子供を雇うのかしら? 忙しいのに子供と仕事だなんてやってられないわよ」
嫌そうな顔をしてそんなことを言ってきた。まぁ、普通はそうだよね、しっかりと働けるか分からない子供と一緒だなんて嫌だと思う。
「ちょっとあんた、子供だからって甘やかされるとか思っているんじゃないでしょうね」
「いえ、そうは思ってないです。しっかりと働きますので、今日一日よろしくお願いします」
「いやよ、私は面倒みないわよ。他の人がこの子の面倒を見てあげなさいよ」
おばさんはそう言い残してこの場を去って行ってしまった。残された従業員は気まずそうな顔をして私に謝ってきた。
「すまんな、あれはあーいうヤツなんだ。気にしなくていいぞ」
「私たちにもあんな態度だから、リルちゃんだけがそういう目で見られているっていうことじゃないからね」
「あの人のことは気にしないでね」
「はい、ありがとうございます」
色んな性格の人がいるからね、こういう人がいても可笑しくない。あんまり関わるのは止めて、自分の仕事をやり遂げよう。今日はこの人たちのお世話になって、一日を乗り越えよう。
「そういえば、力仕事もできるとか言ってたな。そうは見えないが、大丈夫なのか?」
「はい、身体強化が使えるので、重たいものを運べます」
「そう、なら良かったわ。リルちゃんには品だしをお願いしようかしら」
「じゃあ、私が倉庫を案内するわ。こっちよリルちゃん」
「お願いします」
私の仕事は品だしに決まった。お姉さんに連れられて、まず店の中を見て回る。
「一階は食料品、二階は衣料品を売っているわ。まずは一階ね、不足している品物を確認。って言っても、全部の商品が不足している状況だから、全部の商品を出してきて並べてもらうわ」
「やり方とかありますか?」
「特にやり方が決まっているわけじゃないわ。リルちゃんのやりたいようにやってもらえばいいから。次に倉庫ね」
お姉さんに連れられて店の奥へと進むと、一度外に出た。だけどすぐそばには倉庫があって、扉を開けて中に入ってみる。すると、そこには沢山の食料品が箱詰めされていた。
「さぁ、ここから商品を出して店頭に並べていくわ。私も一緒に品だしをするから、一緒にやりましょう」
「はい。じゃあ、私が重たいものを運びますね」
「本当に大丈夫? 無理をしなくてもいいのよ」
「大丈夫です、見ててください」
心配そうなお姉さんだったけど、私が身体強化を使って重たい木箱を二つ重ねて持ち上げると驚いた。
「わぁ、凄いじゃない!」
「身体強化が使えるんです」
「そうだったのねぇ、それだったら大丈夫なはずだわ。じゃあ、私は軽いのを持っちゃお」
一番軽そうな箱をお姉さんが持って、二人で店の中へと戻っていった。戻ると他の従業員が私を見て驚いた声を上げる。
「おお、すごいな! そんな重たいもの運べるのか」
「わぁ、助かるわ! これはリルちゃんに期待しちゃう」
私が木箱を二つも軽々と持ち上げているから、二人は驚いていながらも嬉しそうにしてくれた。これで私が役に立つことを知ってもらえたかな。
商品の隣へ木箱を置き、商品を並べようとした時だ、肩を掴まれる。振り向くとあのおばさんがいた。
「ちょっと、そんな力隠していたなんてずるいわよ」
「ずるい、ですか?」
「そうよ、ずるいわ! だから、私が並べる商品も運びなさいよ。これと、これと、あれと、あれよ! さっさとしなさい!」
言い切ったおばさんは立ったまま動かなくなった。どうやら自分では絶対にいかないらしい、ということは言われた私が行くことになるのかな?
「ちょっと、そんな言い方」
「分かりました、行ってきます」
「リルちゃん!?」
「これくらい大丈夫ですよ」
「さっさと行きなさいよ」
荷物を運ぶくらい苦労はない。ろくに仕事ができない私が無理なくできる仕事だ、ここは私が行くべきだろう。だけど、おばさんにはいい感情は湧かない。
これは仕事、そう自分に言い聞かせて倉庫に向かった。倉庫に行くと言われた食料品を見つけ、箱を重ねて持っていく。店の中に戻るとおばさんと目があった。
「持ってきました」
「まだ持ってきてよね。ほら、早く行った」
おばさんのいう通りにするのは嫌だけど、このままだと仕事が進まない。私は大人しくまた倉庫に行って食料品を持ってくる。これで言われた食料品は持ってきたはずだ。
箱を近くまで持ってきて置くと、おばさんは感謝の言葉も言わずにさっさと商品の陳列に動いた。こういう人もいるんだ、久しぶりに出会った態度の悪い人を前に嫌な気持ちだけが残った。
嫌な気持ちになると仕事がはかどらない。気を取り戻し、他の従業員たちに話しかける。
「何か持ってきてほしいものがありましたら、持ってきますよ」
「いいのか? 無理しなくてもいいんだぞ」
「私ができることは少ないですから、できることをしたいんです」
「そうか。ならこれとこれを頼む」
「こっちもお願いしようかしら。あれとそれをお願いできるかしら」
「任せてください」
身体強化があれば重い荷物だって軽々だ、私は快く仕事を請け負った。
◇
倉庫から食料品を持ち出して店頭に並べる。私は足りない食料品を持ち出す仕事をして、余った時間で陳列を手伝った。
作業中、私は時々おばさんに呼ばれて仕事を手伝わされた。それはどれも重労働と言われるようなもので、嫌がらせかと思うような仕事ばかりだ。おばさんが楽になろうと思って仕事を押し付けてきたみたい。
その度に他の従業員がおばさんに文句をいうのだけれど、おばさんはまったく気にしてない。私に対しての態度が悪いのは仕方ないけど、今まで働いてきた従業員への態度が悪いのはダメだと思う。
でも注意してもおばさんが改めることはなかった。話を聞くといつもそんな感じだから、他の従業員は諦めているみたいだ。仕事はそこそこできるから、偉い人も解雇までは考えないらしい。
それを聞いて微妙な気持ちになった。一人のおばさんのせいで職場状況が良くないのに、上の人は改善しようとはしない。そこにすごく憤りを覚える。私は一日だから良かったけど、他の従業員が心配だ。
そんな微妙な気持ちを抱えながらあっという間に開店の時間になった。
「今日の大安売りは十一時、十五時にある。店の裏にその準備はしてあるから、あとは時間になったら出すだけだ。それまでは普通通りに接客をして欲しい」
「分かりました」
「なら、開店だ」
始めの大安売りまであと一時間、緊張するな。
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