169.身体強化の上(1)

 石切りの仕事を終えると、クエスト完了の報告をしに冒険者ギルドに行った。ついでにステータスの確認をするために、鑑定の水晶での鑑定をお願いする。


「ステータスに変動があったみたいよ」

「本当ですか!?」

「えーっと、魔力がBに上がっているみたいよ」


 今回の仕事のお陰でとうとう魔力がBに上がった! いつ上がるのかずっと気になっていたけど、ようやく上がったよ。


「リルちゃんって魔法を沢山使う職業だったかしら?」

「まだ子供なので、足りない力を補うために身体強化を使う時が結構あります」

「もうリルちゃんたら、無理にそんな仕事を請け負っちゃだめよ。もっと自分を大切にしなさい」


 お姉さんは怒りながらそんなことを言ってきた。うぅ、言い返す言葉がない。


「もっと安全で堅実な仕事もあるんだし、そっちにしておきなさい」

「で、でも……」

「そういうのがやりたいなら、無理はしちゃだめよ。まだ成長だってするんだし、無理をして成長が止まったら悲しいわ」

「気を付けます」


 お姉さんの小言を聞きつつ、ちょっとだけ反省した。その場を離れると、緊張が解ける。無理のない仕事か、確かに無理のし過ぎはダメだけど、できそうな仕事だったらいいってことだよね。


 今回はちょっと予想よりも大変だっただけだから、そういう時もあるよね。もっとしっかり仕事を吟味していこう。さて、報告も終わったしポーションと石鹸を買い足しに行こうかな。


 あとは町をプラプラと歩いて、ちょっと遊んでいこう。今日と明日ゆっくりしたら、ヒルデさんに身体強化の上を教えてもらえる。ふふ、教えてもらうの楽しみだな。


 ◇


 石切りの仕事が終わって三日目、疲れが癒えた私はヒルデさんが住んでいる家を訪ねた。そこは街灯のある町の中心部近くで、住んでいる場所は階層が高いマンションのようなところだった。


 高級マンションと言ってもいいその場所にヒルデさんは住んでいる。始めはそのことに驚いて呆然としていたが、慌てて我に返り中へと入っていく。広いエントランスホールがあり、正面に作られた階段も広い。


 光景に圧倒されながらも、ヒルデさんの家を探す。確か一階の左奥って言っていたな。キョロキョロと周りを見て、それらしい扉に向かって歩いていく。


 一階の左奥に行くと一つの扉があった。ふと、扉の横を見てみると表札みたいなものがついており、そこには「ヒルデ」と書いてあるのを見つける。きっとこの部屋だ。


 扉についたノッカーを三回鳴らして、扉から離れて待つ。しばらく待っていると、扉が開いた。


「リル、いらっしゃい」

「こんにちは」

「中に入ってくれ」


 中へと促されて扉をくぐる。


「うちの中は土足禁止にしているんだ。ここでスリッパに変えてくれ」


 土足禁止? 前世みたいな風習があるなんて感動だ。早速靴を脱ぎ、用意されたスリッパに履き替える。ヒルデさんの後をついていくと、リビングにたどり着いた。


 一人暮らしだとは思えないほどの広いリビング。壁には食器棚や色んな物が置かれた棚があり、ダイニングテーブルやソファーなんかもあって豪華に見える。


「ソファーに座ろうか」


 ソファーへと促されて座ってみると、体が少しだけ沈んだ。そこそこ固い感じのソファーで座りやすい。


「ここまで来るのに迷わなかったか?」

「大通りに面していたので、とても分かりやすかったです。広いお家ですね、一人暮らしって言っていたので小さな家だと思ってました」

「お金なら困らないくらいあるしね、良いところに住んでみたかったんだ。お陰で快適な毎日だよ」


 スタンピードで活躍したって言ってたけど、どれだけの活躍をしたらこんな素敵な場所に住めるんだろう。私もいつかこういう部屋に住んでみたいけど、お金が足りるか分からないよ。


「リルは宿屋に泊っているんだったな」

「はい。今は市民権を得られるBランクを目指して冒険者をやっています」

「ただで市民権を得られる手段だからな、堅実だと思うぞ。今はCランクだから、あと一ランクか」

「そうなんです。まだCランクになりたてだから上がるのは先ですけど、ようやくここまでこれました」

「そうか、Bランクまで遠いけど頑張れよ」


 こんな素敵な場所に住むのは無理だけど、自分の住むところを得られるのは嬉しい。Bランクになったら絶対に自分の住む場所を探して住むんだ。


「まずリルのことを知りたい、どんな方法で魔物と戦い、どんなことができるか話してくれないか?」

「分かりました」


 ヒルデさんに私の戦い方を教えた。剣を使うこと、戦闘スタイル、使える魔法の種類。できるだけ事細かに伝えると、ヒルデさんは真剣な顔つきで聞いてくれた。


「なるほど、大体分かった。よく一人でそこまで戦えるようになったな、凄いじゃないか」

「毎回試行錯誤で大変でした。初めての敵と戦う時が一番神経を使いましたね」

「初めての敵に苦戦するのは分かるが、話を聞いている限り堅実に戦えていると思う。無茶をする冒険者が一番危険だからな、それがないだけリルは賢い」


 どうやら私の戦い方は理にかなっているらしい。褒められたみたいでちょっと照れくさい。


「話を聞いていると、足りないのは力になるな。それを補うために身体強化を使っている訳か」

「力もそうですが、瞬発力とかにも使ってます。色々と劣っているところを身体強化で補っているので、教えてもらう身体強化の上の方法は私には必須です」

「そうだな、Cランクの魔物から大きな体格の魔物が多い。倒すためには今まで以上に力も瞬発力も必要になると思う」

「なので絶対に会得したいです」


 これから相手をするCランクの魔物は大きな体格の魔物が多いらしい。石切りの現場で出会ったワイルドウルフもドルウルフに比べれば二回りも体が大きかった。今までの戦い方を見直さなければいけないほどに厄介になっている。


 体が大きいと、今まで与えていた致命傷だった一撃が致命傷じゃなくなってくる。そうすると、倒すまでには何度も切り付けなければならず戦闘が長引いてしまう。


 私の戦闘スタイルはできるだけ少ない手数で敵を倒すこと。戦闘時間を短くすることで、魔物の攻撃の回数を減らして少しでも受けるダメージを少なくすることにある。


 強い魔物の相手をしないといけないのなら、こちらもそれなりにレベルアップしておきたい。


「どうやら、しっかりと教えないとダメみたいだな。身体強化以外にも色々と手ほどきをしてやろう」

「ありがとうございます!」

「まずは身体強化の上についてだな。これをものにしてもらって、それから一緒に外で冒険をするというのはどうだろう?」

「身体強化以外でも色々と教えてほしいので嬉しいです。私、頑張って覚えます」


 身体強化だけじゃなくて、他のことも教えてもらえるみたいだ。しかも一緒に冒険にも出てくれるらしくて、本当に心強い。冒険に出るのはまだまだ後だけど、そのことを考えるだけでやる気が漲ってくる。


「どれだけのことを教えられるか分からないから、あんまり期待しないでくれ。こういうことは初めてだから、どうしたらいいか分からないんだ」

「私もしっかりと教わるのは初めてなので、ご迷惑かけるかもしれませんが」

「お互いに同じっていうことか。なら、無理なくマイペースにやっていくか。焦る必要もないしな」


 お互いにどうしたらいいか分からないのは仕方がない、その都度話し合って色々と決めていければいいな。私もヒルデさんの迷惑にならないように、しっかりとしないとね。


「それじゃ、早速身体強化の上を教えていく。そのために外にある広場まで行こう」

「はい、よろしくお願いします」


 ソファーを立つとヒルデさんに連れられて外へと出ていった。

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